モクバ直伝!
仲人しましょ★



 開放的な校風らしく、全開にされた校門から 生徒がわらわらと出てきた。
門の横に立ったオレは、その様子をじ―――っと見つめる。

 みんな オレよりずっと背が高い。
ま、高校生だもんな、当たり前だけど。

 多分こいつらって、部活やってない連中だよな。
ふぅん、じゃあ学校終わる時間って、オレたち小学生とも大差ないんだ。知らなかった。
 ちょっと発見気分。



 ―――えっと。
確か城之内も 部活なんかやってないハズ。

 よく分かんないけど、貧乏で バイトとかたくさんやってるって聞いたことあるし。
 今日もバイトだったらどうしようか。

 そんなのより オレの用事のが全然大事なんだけど、アイツはバカだから そう思わないかもしれない。


 ――― とりあえず、城之内が今日ヒマでありますよーに!!!。
オレは誰へともなく祈ってみた。





 おっと、祈るのもほどほどに、ちゃんと生徒をチェックしないと。
見逃して勝手に帰宅されたりしたら、オレじゃどーしようもない。

 通り過ぎていく生徒たちを厳重にチェックする。
どーでもいいけど、男は平凡だけど、女の子の制服はやけにカワイイな、この学校。
 兄サマはなぜか既定の制服を着てないんだけど・・・、なんで? (まあめったに学校に行ってはいないんだけど)。
 やっぱ兄サマはどこでも特別なんだな!!、きっと。




「ぎゃっはっはっ、なんだよソレーっ!!!」

 そこに、ひときわ騒がしい笑い声。

 あ、そっか。すごい納得。
別に注意深く用心しなくても、あいつが黙って地味でいるわけなかったか。


 案の定、視線をずらすと、昇降口から愛用のスニーカーに履きかえた城之内が出てくるところだった。
 あいかわらず声がでかい。

 一緒に兄サマの宿命のライバル・武藤遊戯も続いて現れる。
やっぱ高校生にしちゃ小さいよなアイツ・・・。
 最後に よく遊戯と一緒にいる女の子・・・、えっと、アンズちゃんとかいったっけ。
 そのコも横に並んで歩いてくる。

 会話は弾んでいるみたいだ。
城之内はやけに元気に笑っている。



 が、
「あっれー、お前・・・」
 目がいいのか、城之内はまっさきにオレに気付いた。
遊戯たちもオレに視線を向ける。

「モクバじゃん !!」
 あんまりちゃんと会話したことはないんだけど、オレの名前はきちんと覚えていてくれたようだ。
 オレのところまで駆け寄ってくる。

「どうしたの?。今日は海馬くん学校に来てないけど」
 アンズちゃんが膝に手をあて、少し屈んで尋ねてくる。そんなのはもちろん知ってるよ。兄サマに会いにきたんじゃないんだ。

「・・・」
 一方、遊戯は無表情。
あれ?、コイツ多分 『もう一人の遊戯』だ。すぐに気づく。
 雰囲気違うから、きっとそう。
緊迫したゲームの時しか出てこないと思ってたんだけど・・・。


 オレの視線に気付いたのか、遊戯が苦笑した。
「相棒は今眠ってるんだ。昨日徹夜でゲームしてたからな」
 代わりに学校行ってもらってるのか。なんか便利なカンジだな、それ。




「―――で、お前ホントにどしたんだ?」
 城之内が話題を戻す。
そーだ、早く用を伝えないと !。


「今日は城之内に用事があるんだぜぃ!!。だからオレと一緒に来てくれよ!!」
「は?」

 突然の誘いにビックリした(まあ当然か) 様子の城之内。
遊戯がピクッと警戒の表情を見せた。城之内が関わるといつもそうだ。

 いぶかしがるスキを与えずにたたみかける。
「だからさ、えっと、遊びに来てくれよ!!。その、この前のおわびだから!」
「この前って?」
 キョトン、とした城之内。
ホントに忘れてくれちゃってんのかな。

「前に、毒入りランチ食わせちゃったじゃん!!。そのおわびで、ごちそうするぜぃ!!」

 城之内がポンと手をうつ。
そんなこともあった、とか思い出してるんだろう。

 ―――まあ、確かにちょっと昔のことにはなるんだよね、今さら誘うのってヘンなんだけどさ。
 食事に招待する口実って、それしか思いつかないし。



「あったなー!!。けっこう うまかったんだよな、アレ」
 そのコメントはどーかと思うけど・・・。そりゃ、毒自体は無味無臭なんだけどね。

「だろ?。もっとゴーカなの用意するからさ!!。これからヒマか?」
 良かった、感触は悪くなさそうだ。
ホッと胸をなでおろす。

「おう !、今日はバイトもないしな !!。ごちそうしてくれるってんなら大歓迎だぜ !!」
 単細胞なヤツはやっぱ食いモノでつるのが一番なんだな!!。

 よかったー。
これならうまくいきそーだ。


「遊戯と杏子も行くだろ?」


 ――― あれ?。
実に当然のように促した城之内。




「ダッダメだってば!!。今日のところは城之内だけだぜぃ!!!」
 アンズちゃんには悪いけど、城之内ひとりがいいんだ!!。
遊戯なんてとんでもないよ!。しかも裏遊戯なんて一番ダメだ!!!。

 裏遊戯が眉をひそめてオレを見た。
「なにか企んでるんじゃないだろうな?」

 口調は穏やかだけど、威圧感がかなりあって、怖い。
尋問されてるみたいだ――って、状況としてはまさにそーなんだけど。


「海馬絡みじゃないだろうな」


すっするどい・・・・。
いちいち鋭い・・・。
どーしよう・・・。



 そこに、救いの手を差し伸べてくれたのは当の城之内だった。
「ふーん。オレひとりがいいのか?。オレはそんでもいいけどさ。あっ!、そーだ、せっかくだし、お前らふたりでどっか行けよ!!、な!!、杏子!!!」
 いかにも名案だ、とばかりにパッと顔を輝かせて遊戯とアンズちゃんに水を向けた。
 その言葉に、アンズちゃんはうっすら頬を赤くした。


 ――― へー、アンズちゃんって遊戯が好きなんだ・・・。

 もう一人の遊戯のほうかな、やっぱ。あいつゲーム強いし、ちょっとカッコいーもんな。


「こないだカード屋みつけたって言ってたじゃん、そこに案内してやれよ、喜ぶぜ!」
「あ!!、うんっ。そーなんだ遊戯くん、けっこう穴場っぽいところでねー」
「いいカードあったら後で見せてな!!、遊戯」


 ポンポンと、遊戯をヨソに会話が進んでいく。
ここまで言われたら、さすがの遊戯も断れないだろう。
 最後まで心配そうな表情は消さなかったけど、結局、もう一人の遊戯は苦笑してうなずいた。


 よしっ。なんとか遊戯の妨害もはねのけたし!。
オレは無事、城之内を連れ出すことに成功した。





















 なんでこんなに必死になって、城之内を誘い出したかって?。
当たり前じゃん!!。

 全部兄サマのためにきまってる!。


 兄サマは、こーゆーコトに関しちゃ、オレが言うのもなんだけど不器用なんだよなー。
 その不器用っぷりもつきぬけてるっていうか。


 オレも、クラスの気になる女の子に、つい給食のパンとったりとか、イジワルしちゃうことあるけど。
 兄サマの場合、フツーなら他愛無いちょっかいであるべきところが 辛辣で容赦ないから、ホントにひどいとしか思えないんだよね。
 気を引きたいレベルのイジワルじゃないんだもん。


 好きな相手をヘコませてどーする!!!。
完膚なきまでに叩きつぶしてどーする!!!。

 ―――と、何度ツッコミ入れたくなったことか・・・。



 でも、しょーがないともいえるかな。

だって、絶対、
初恋だもん!!!。


 今まで、仕事ゲームイヤガラセばっかの人生だったからなー。フツーにヒトを好きになったことがないんだよね。

 そんな兄サマが、でも、城之内だけは特別に想いはじめてるんだ!!。
弟としては、なにがなんでも協力したい。

 協力どころじゃない、仲人がシュミの老夫婦よろしく、強引・かつ完全にとりもってみせる!!!。


 内心、メラメラと燃えているオレだった。

















 渋滞もなく、オレと城之内を乗せたベンツは予定時刻に屋敷についた。
この時間はいつもどおり兄サマはまだ仕事だ。
本社にいるはず。

 でも、さっき兄サマの秘書に確かめたら、今日は予定通り、定時で仕事あげて帰れそうって言ってたし!!。
 っていうかオレが秘書に頼みこんだんだけどね。今日は兄サマに空き時間とってほしいって。


 ―――だって今日ぐらいは、さ・・・。










 ずらっと執事とメイドが出迎えた正面玄関から二階に上がる。

「あいかわらず広い家だなー」
 なんて、のんきに辺りを見回してる城之内を、ぽいっと廊下側の一室に押し込んだ。


「おわっ?、なっなにすんだよモクバっ」
 ビックリして目を丸くしてる城之内はとりあえずムシして。

 部屋の中でシャキーン、とスタンばってくれてる使用人たちに
「よろしくっ」
と声をかけると、みんな元気よくなずいてくれた。


 肉にたかるピラニアみたいに (たとえがヘンか?)、使用人たちが城之内をとりかこんでいく。
「わーっ!!!、なにすんだよーっ」

 城之内の叫びはムシしてドアを閉めた。
防音完備なのでもう声も聞こえない。って、別に危害をくわえてるわけじゃないよ?。





 とりあえずは。出来上がりを待とーかな。

 そーいや、料理の方もちゃんと支度できてるかな?。
城之内は毒さえいれてなきゃ たいがい大丈夫だろうけど、やっぱおいしいもの食べさせてやりたいし。



 なんて、いろいろ考えてる間に、目の前のドアが開いた。
思ったより早い。


「おー・・・い、モクバ?」
 出てきたのはもちろん城之内。ちょっと疲れた様子。
が、別人のよーないでたちだ。


「・・・・・――」
 分かってたハズなのに、思わず息を呑んだ。



 ――― コイツって、ホント、けっこーカッコいい・・・。



 いや、別に普段がダメってんじゃないけど、雰囲気がどーにも三枚目だから。


「なんでこんなカッコさせられんだ?」
 居心地わるそーに自分の身体を見下ろして、頬をかく城之内。

 そんなしぐさも含めて、オレは上から下まで城之内の姿を観察してみた。


 ―――ちゃんとしてると、かなり見れるなぁ・・・。
ジャニーズとしてやってけそーだぜ!!、城之内!!!。


 今の城之内のカッコは、正装の黒のタキシードだ。細い首に巻かれたタイも漆黒。
 やっぱ、特別な日に普段着じゃしまらないもんな。




 ―――兄サマは恋人にどんなカッコしてほしいとか思うのかな?。

 ちょっと兄サマの思考回路はオレじゃわかんないから、勝手に推測。
だらしないカッコとか、下品なカッコはキライみたいだ。

 兄サマ自身は服にシックな色を好むから、あまり華美なのもダメかも。
かちっとしてるっていえば男ならスーツだろうけど、城之内にフォーマルなスーツは似合わなそうだし。

 でも、ある程度ムードもある・・・っていったらタキシードだろ!!!。



 そんなわけで、城之内は学生服もよく似合ってるけど、多分兄サマはこっちのが好みじゃないかな?、と思って準備させた。
 部屋に控えてたのはもちろん屋敷のスタイリストの使用人たち。

 サイズ?。
海馬コーポレーション副社長をナメるなよ!。
 過去のデュエルの記録とかから、城之内の映像はたくさんもってる。
それをコンピューターにかければ、かなり正確な概算サイズがでるんだ!。
 コイツ、標準よりずいぶん細いし、タキシードはサイズが合わないとカッコ悪いもんね。


 使用人たちは、短時間にきっちりと城之内をしあげてくれた。
髪型はいつもとそんなにかわんないけど、ちょっと前髪のあたりをセットしてて、それもよく似合ってる。


 うん!!、かなりいいよ!!。
オレだってちょっとドキドキしたくらいだし!!!。





「おいモクバ?。シカトすんなって。なんでこんなカッコすんだよ?」
 使用人はほとんどメイドだったから、フェミニストの城之内は反抗もままならなかったらしく、あっさり観念して着替えたけど、やはり釈然とはしないようだ。 唇をとがらせて文句をいってきた。


「今日はご馳走なんだ!!。ウチではちゃんとした食事のときはちゃんとした服って決まってんだぜ!」
 用意していたゴマカシを出すと、単純にも信じてくれたようで、

「へー、金持ちってのはヘンなルールあんだなぁー」
 なんてつぶやいてる。

 別にオレが普段着なことには気付かないあたり、いい具合のバカで助かるよな。






 その後、ちょっと城之内とゲームなんかして遊んでるうちに、時刻は六時をまわった。

 早いけど夕食ということで、広間に城之内を連れて行く。
簡易な立食パーティーもできるくらいの大きさだけど、あんまり広くしても良くないから、その一部に席をつくった。

 ついでにいうと、毒ランチの記憶がよみがえられると困るので、あの時の部屋とは別の場所にした。
 オレもけっこう細かな気配りしちゃうタイプなんだよなっ。
まあ被害者の城之内はキレイに忘れてたみたいだけど・・・。



 清潔なクロスのかかったテーブルには、まだナイフ・フォークとナプキン、ミネラルウォーターのグラスしかない。
 そこに、できたての料理が次々と運ばれてくる。


 学校帰りでなにも口にしていない城之内はハラがへってるらしく、すごく嬉しそーにその様子を眺めている。

 そーゆー、邪気のない笑顔に兄サマがひかれたのかな?、なんて考えながら、オレはスープを並べているメイドに状況を尋ねた。城之内には聞こえないように。

「・・・今こちらに向かっているそうです」
 小声で返してくれた言葉は、とっても満足のいくもので。
内心ホッとした。






 あらかた料理が並べられた辺りで、ようやく城之内が気付いたらしい。
「あれ、この料理・・・」


 ――― 遅いよ!。フツーはすぐ気付く!!。
つっこみたいけどガマンしておく。きっと、もうつく頃だ。



「三人分じゃねぇ?」


 ――― あたり。


























 その時、せっかちな性格がよくわかるせわしないノックがして、返事をしたのと同時くらいに広間のドアが開いた。
 ジュラルミンケースを片手に下げた、兄サマだ。



 ドアを開けた姿勢のままかたまっている。
視線はもちろん、あまりにも意外な『訪問者』にそそがれていた。



「「・・・・・・・・・―――――」」



 当然、城之内もかなり驚いたカオ。いないと思ってたヒトが急に来たんだからしょーがないけど。
 薄い茶色の瞳をみはって、兄サマを見上げている。



 一瞬、時が止まったように見つめあうふたり (うーん、オレも詩人だなぁ)。



 うんうん、やっぱけっこー絵になってるんじゃないか?。
なんて、唯一事情を知っているオレは余裕で、仲人気分を満喫していた。



「城之内、キサ――」
 兄サマが何か言おうとしたのを (どうせいいことを言うワケがない)、実にいいタイミングで遮ってくれたのは、メイドたちだった。

「おかえりなさいませ、瀬人さま」
「ちょうど準備がととのったところです」
「さあ、お席へどうぞ」

「――――・・・」
 うながされて、兄サマがしぶしぶ席につく。
すぐに気の利くメイドがコートを受け取った。

 兄サマは黒のタートルネックのセーターに、オレとおそろいのペンダントをつけている。会議とか取引がある時はスーツを着ることもあるけど、たいていは兄サマも普段着だ。


「あれ?」
 兄サマのカッコを見て、城之内が声を上げる。

 ホントは気になってたまらないことの証明で―――兄サマはすぐに反応した。愛想はなかったけど。
「なんだ」
「お前はなんでタキシードじゃねぇの?」

「・・・・・なんで 家でそんな酔狂な格好をせねばならんのだ」

 だーっ!!。
なんでそこでそーゆーコト言うかなあっ?!!、兄サマはっ。


 幸いにも、『酔狂』という単語は城之内のボキャブラリーにはなかったらしく、城之内は機嫌をそこねないまま、

「だってこの家の決まりなんだろ?」
 なおもフシギそうに尋ねた。

 兄サマはすぐに察したらしく、オレに怪訝そうな目を向けたけど、照れ笑いをしてごまかした。


 だって兄サマが喜ぶと思ったんだもんなー。

ってか、絶対
内心大喜びだし!!!。
 


「・・・・・・まぁな」
 なんとなく肯定っぽい返事をしてみせた兄サマ。
城之内はタキシードに関してはもう興味がなくなったらしく、並べられた食事に視線を移す。


 そして、三人での晩餐が始まった。






 兄サマが現れたのは予想外だったみたいだけど、城之内はそれを理由に「帰る!!」とは言い出さなかった。
 最悪のケースとして心配してたんだけど。

 ふたりはクラスメートなんだけど、城之内が兄サマを苦手、つーか嫌いとするのはまぁムリないもんなぁ。ムリないっつーか当然の権利とゆーか。

 でもとりあえずは、このまま いてくれるようだ。


 ――― オレと約束したってのが大きいのかな?。
コイツって、強情ってくらい、『約束は守るもの』『借りは返すもの』って思ってるみたいだから。


 今時珍しい一本スジとおってるヤツだから、オレとしてもコイツはキライじゃないんだよね (ただ食事に目がくらんだだけかもしんないけど)。
 こいつなら、兄サマの相手として、認めてもいーんだけどなぁー。







「すげーめちゃうまいーっ!!!」
 食事中も城之内はにぎやかだ。
オレにもよく話しかけてくるから、オレもつい学校のこととかゲームのこととか、普段いわないようなことまで話題にのせてしまう。
 それをリアクション豊かに聞いてくれてるのが嬉しいというか。
こいつが家にいたら、楽しいだろーなー・・・。

 そう思うのは、オレだけじゃないみたいで。
せっせと料理を消化して、元気に食べて、無邪気に褒めてくれる珍しいお客さんに、メイドたちも嬉しそう。


 それになにより。
ポーカーフェイスのまんまで、面白くもなさそうに器用にメインディッシュをきりわけている兄サマだけど。
 意識の全部が、城之内に集中してるみたいで。
城之内が笑うと、伝播するように兄サマの雰囲気も暖かくなるのがよく分かった。



 っても、やっぱいきなり仲の修復なんかできなくて。
オレをはさんで、言葉少なにちょろっと話す、くらいなんだけどねー。

 ちょっと油断すると、兄サマがケンカを売る (としかハタ目には見えない)のを必死に未然で止めたり、仲人のオレもけっこー大変なんだけど。
 さすがに、『後は若いおふたりで』なんてコトしたら血を見るケンカになるだろうしなぁー。





 ―――でもさ。
これでも、やっぱ進歩だよね?。













 あらかた食事が終わって、またスッキリ片付けられたテーブルにお茶が出された。

「ケーキはどうなさいますか?」
 メイドが尋ねてきて、不審げに眉をよせた兄サマのかわりにオレが、すぐもってきてと頼む。

「デザート、ケーキなのか?。オレ好きなんだよなー」
 わりと食が進んでた・・・、つーか兄サマの五倍はガツガツ食ってた (どこに入るんだろ・・・)城之内だけど、まだまだ余裕があるらしい。
 会話を聞いて、嬉しげに声を弾ませた。



 でも、運ばれてきたそれを見て、さすがに目が丸くなる。
「すっげー」


 市販のサイズより大きめの、バースデーケーキ。
真ん中に、チョコで大きく『ハッピーバースデー』と書かれている。

 どーせ兄サマはあんまりケーキが好きじゃないので、城之内の好みをとってチョコレートケーキにしてもらった。
 もちろん手作りだぜ!。作ったのはオレじゃないけど!!!。




「ひょっとして今日って・・・」
 城之内がケーキからオレに目を向ける。


「モクバの誕生日なのか?」
「ブーッ!!!」
 二者択一で間違えないでほしい。まぁ仕方ないか。


「・・・・・」
 城之内は今度は兄サマに目をやった。
ちょうど対面に座っている (つーか もちろんそうセッティングしたの!!) 兄サマも、しぶしぶといった様子でうなずいた。


「今まで忘れてたがな」



 ――― だと思ってたけど。

 カードとイヤガラセ以外にはホント淡白なんだよなぁ・・・、そこがいいトコなのかもしんないけど。






 ともあれ。
こっからがモンダイだ。


 城之内の機嫌は悪くないハズ!!。


 なんで自分がここに呼ばれたかの理由まで察せとは言わないけど(そこまで高望みしないよ・・・コイツ相手に)、
ここでどーすべきか、とか、ちょっとは分かってくれてるよな?!!。


 オレは今日二度目のお祈り気分で城之内の反応を待った。




 そんなオレの願いが届いたのか・・・、

 いや、結局はなんにも考えてないんだろうけど、城之内はふいにニッコリ笑った。

 まっすぐに兄サマを見る。少し兄サマの方が背が高いから、ちょこっと見上げるように、



「なんだよ!!、めでてぇじゃん!!!。オメデトさん!!!」




 !!!!。
 こっこれは・・・・・・・っ。

 
期待以上、かも・・・・・。



 
よっしゃああっ!!!。
オレは心の中で大きくガッツポーズ。


 過去にあれだけイジメられた相手に、誕生日とはいえ、ここまであとくされなく接してくれるなんて・・・。
 ホント、サッパリした気性なんだなコイツって。ちょっと感動。


 それとも料理でよほど上機嫌なのか?。
とにもかくにも、オレの計画、かなり大成功じゃないか!??。


 これでふたりは一歩 (仲直り、そして
結納に向けて)、驀進前進だねっ★。




 ホラホラ!!、兄サマも早く『ありがとう』って言わないとっ!!。
たま――――っにオレに見せてくれるよーな、オトナびた、優しい笑顔もつけてくれれば言うコトなしだし!!。


 がんばれ兄サマ!!。


 催促するように兄サマの方を見ると。





 そこには。

 ポーカーフェイスも尊大なタイドも、なにもかもなくして、赤面したまま石のごとく固まっている兄の姿があった。







「・・・・・・・・・・・・・」

「・・・・・・・・・・・・・」

「・・・・・・・・・・・・・」







 ――― な、なんつーか・・。
兄サマの反応も、いろんなイミで期待以上、かも・・・・・・・。








ヘタレ兄編へ




 またなれそめか・・・。相変わらずまだるっこしいふたり・・・。
 次は兄視点バージョンになりますー(いいトコなしだよこの海馬・・・。ほかのサイトさんみたいに男前な社長が書けたらなぁ・・・)。

 特異な髪型が多い『遊戯王』界ですが、実は小学生にしてあのザンバラロンゲなモクバ君は、目立たないけどかなりのものだと思います私・・・。

 おつきあいありがとうございましたv。
リクくださった、帆田カヨ様、こんなですが受け取ってやって下さいv。

By,伊田くると








城之内 「ちゃんとした食事の時はタキシードなのか・・・。金持ちってのは奥が深いってか変なオキテがあんだなぁ・・・」

裏遊戯 「聞いたことないけどな・・・。まぁオレも日本の風習は詳しくないが・・・」

 01年8月20日