モクバ直伝!
仲人されましょ★






 ――― なんなんだ?、一体。


 俺は多少 不機嫌に廊下を歩いていた。
付き従おうとするSPは早々に追い払う。
 屋敷でまでウロチョロされるのはさすがに目障りだ。


『ちょうどひと段落しましたし』
などと理由をつけて、早めに仕事を切り上げさせられた。
『すぐ帰れ』といわんばかりの秘書のタイドが釈然としない。


 少しは休めということなのか?。
確かに、最近会社に詰めきりというのは事実だが・・・。
 とうの本人が休みを求めていないというのもまた事実だ。
仕事はつまらないものも多いが、俺にとって、やはり自分の一部だと思う。



 ―――まあいい。

 モクバも、最近ちっともかまってやっていないから寂しがっているだろう。

 夕食に間に合う時間の帰宅は、考えてみれば一ヶ月以上ぶりだ。
悪いことをしたかもしれない。





 普段モクバは自室から近い部屋で食事をとっているのだが、今日はなぜか広間にいると連絡を受けたので そちらに向かう。

 見えてきた両開きの重い扉にノックをすると、元気のいい弟の声が返ってきた。長く不義理をしたというのに、機嫌は悪くないようだ。


 そのまま、ジュラルミンケースを持っていない右手でドアを開け。





 ―――――― 動きが止まった。





 ここにいるはずもない人間がいる。
 するはずもない格好をして。





「城之内―――」





 こんなに不意をつかれたのは、久し振りだ。


 俺は驚いている。



 だからこんなに、心臓がハネ上がる―――。







 驚いたのはお互い様らしい。
長めの前髪からのぞく、金の混じった薄茶色の瞳をパチクリさせて、椅子に座った城之内も俺を見上げていた。

 テーブルクロスで上半身のなかばまでしか見えないが、おかしなことに正装のタキシード姿の城之内。
 肩幅はあるのに、全体的にヤケに細いモデル体型がよく分かるその格好は、あつらえたように よく似合っていた。


「城之内、キサ――」
 貴様、なんでここにいる?。お前のような負け犬をこの屋敷に入れる許しは与えてないぞ?

 と続けようとした言葉は、メイドにジャマされて不発におわった。
 



 ――― いや、不発でよかったのかもしれん。
これを言ったらアイツはキャンキャン怒っていただろう。



 分かっているのに、なんで俺も こりずに このテのセリフを連発してしまうのか。



 ―――――― 謎だ。







 席につくよう うながされ、その通りにする。
テーブルは、すぐに食事を始められるようセットされていた。

 というとアレなのか?!。
 こ、これから俺と城之内と
二人で(←違います)食事を・・・・・・?。



「あれ?」
 対面の城之内がふいに声を上げる。
最近は学校に行っていないから、その騒がしい声を聞くのも久しぶりだ。なんとなく、なつかしさすら感じてしまう。

「なんだ」
「お前はなんでタキシードじゃねぇの?」
「・・・・・・?」

 質問のイミがわからないが、そんなことよりも、向けられる視線に身体が硬直する思いがする。

 なぜ、こいつは俺をそうまっすぐ見返すんだろう。
見られるたびに、こっちは心臓に負荷がかかってるんだぞ?!!。
 モクバのためにも、俺は長生きせねばならんというのに・・・、コイツのせいで寿命が縮んでいるに決まっている!!!。


 いや、とりあえず今は俺の健康はどうでもいい。
質問に答えてやらねば。


「・・・・・なんで家でそんな酔狂な格好をせねばならんのだ」

 いやっ!。
別に酔狂じゃないっ。
実によく似合っている!!!。
むしろ大歓迎だっ!!!!。


 ――― なのに、なんでこんなセリフがでるんだっ?!。




「・・・・・」
 モクバが心底あきれた目で俺を見上げたのが分かった。

 反論できん・・・、お前より、俺自身があきれているのだ。



 しかし僥倖といおうか、城之内は怒らなかった。
なるほど・・・『酔狂』を知らないのか・・・、助かった・・・・。お前と話すときは、義務教育必修程度の言葉が適しているようだな。


「だってこの家の決まりなんだろ?」
 なおも首をかしげてフシギそうに、城之内。

 そんなワケあるか。どこの華族だ。



 ――― どうも、モクバがこの単純バカに なにか吹き込んだらしいな。

 弟を一瞥すると、『てへっ★』という擬音が似合う笑いかたをして見せた。



「・・・―――」

 フッ。弟よ―――。
今日ほどお前が弟でよかったと思ったことはないぞ!!!!。

 どうやら、城之内を呼んだのも、
俺好みの格好で出迎えさせたのも、兄へのはからいらしい。



 ――― 素晴らしい。
後で、なにか褒美を与えねばな・・・。
























「すげーめちゃうまいーっ!!!」
 食事中も城之内はにぎやかだ。


 それは知っている。
いつでもこいつはウルサイが、休み時間や昼休みになるとそれがさらに倍になる。
 どうして いつもいつも そう騒いでいられるのかとフシギなくらいだ。


 ――― どうしてそんなに笑えるのだろう。


 疑問に思いつつ、目が離せない。


 城之内は、さかんに弟と会話している。
食事を持ってくるメイドにも気さくに声をかける。愛想がいい。
 普段この屋敷の住人の誰も言わない「おいしい」という言葉を何度も もらって、料理人たちも頬をゆるめ、非常に嬉しげに言葉を返している。

 まあ、こいつの食生活からすれば雲泥の差の料理ばかりだろう。
味の違いなど大して分からないのだろうに。




「でさっ、そいつと勝負して見事に勝ったってワケだぜぃ!!」
「へぇぇーっ、やるじゃん!!」

 モクバはかなり城之内と打ち解けているらしく、学校の友達や、授業の話などを こと細かく話し出している。


 こいつがどんな口実で城之内を誘ったのかは謎だが、モクバはこの男を気に入っているらしい。タイドはあまりかわいげがないが (ヒトのことなど言えないが)、あきらかになついている。
 たわいのない小学生の話にも、城之内はうなずいたりあいづちを挟んだり笑ったり、表情豊かに聞いてやっている。

 別にムリしてつきあっているというカンジが微塵もしないのがスゴイな。

 お前は誰とでもすぐ仲良くなる。



 ――― 俺はいつも、別の誰かに向けられる笑顔を 傍から見つめる傍観者だ。



 でも、それで別にかまわない。




 ――― こいつが俺に笑いかけることなど、ありえないのだから。






 モクバは俺に気をつかっているらしく、時折会話をポンと回してくる。
モクバを仲介にして城之内と対話させる格好だ。


 今日の城之内は別に機嫌が悪いわけではないようで、俺に対しても含む所はない。
 まあ、それもそのはずで、どちらかというと俺が直情的なアイツを怒らせる、というパターンが通常なのだから当たり前だ。

 元来 城之内はサッパリした気質で陰にこもったりということがない。根っからのポジティブ人間だ。
 『DEATH-T』だけは、あいつのもっともキライな『オバケヤシキ』だったということで、かなり悪印象をもたれてしまっているが。


 この分では、俺はあまりしゃべらないほうがいいかもしれない。
城之内と直接話すと、どうにも制御がきかないというか、わざと辛辣な言葉を選んでしまっているからな。


「・・・・・ああ」
 ふられた話題に、ただ相槌をうってみた。


「なんだよ、つまんねーヤツだな」

 唇をとがらせて城之内が文句を言うが、俺に ふた言以上しゃべらせたら、お前はもっと怒るだろう?。



















「・・・・・・・・」

 ――― しかし、ホントによく食べるな、こいつは。


 そう感心しながらの三人の食事が終わり、そつなく食後の紅茶がだされた。


 なにか運ばれるごとに、律儀に礼を返す城之内はとても印象がいいと思う。
普段のタイドは粗暴で下品で雑だが、意外にしつけの厳しい家で育ったのだろうか?。

 かなりの甘党らしく、城之内はたっぷりミルクと砂糖を入れて色の変わった紅茶を飲んでいる。
 ティーカップを口元に持っていくため腕を持ちあげると、タキシードのボタンが目についた。
 変わった形で、ちょうど鈎十字がかたどってある金のボタンだ。

 
 ――― 服装が変わると、受ける印象も強く変わるものだな。

 モクバが用意させたのだろうそれは採寸もぴったりで、本当によく似合っている。

 と、思っているクセに、口に出したら、
『馬子にも衣装だな。いや、馬でなくて犬か』とか、
またイヤミを浴びせることになりそうだ。黙っていよう。



 ――― 俺も丸くなったものだ。










「ケーキはどうなさいますか?」
 歩み寄ったメイドが俺に尋ねてきた。

 ケーキ?。
俺はケーキが好きじゃないし、もともとデザートは食べない。モクバはいつもデザートはプリンとか、そういう系統が多いと思ったのだが・・・。

「すぐ持ってきてくれよ!」
 その弟が横から口を挟んだ。 

「デザート、ケーキなのか?。オレ好きなんだよなー」
 城之内が嬉しそうにカオをほころばせる。


 まだ食う気なのか。というか、まだ食えるのか?。
お前が実に健康的だとは知っているが、ここまで一気に食うのは逆に不健康じゃないだろうか。
 ネズミじゃあるまいし、体重の数分の一も食えないんだぞ人間は。



 俺があきれているうちに、すぐに運ばれてきたそれを見て、城之内とモクバは歓声をあげた。

「すっげー」

 市販のサイズより大きめの、ラウンドケーキ。ロウソクは立てられていないが、クリームや砂糖菓子でハデに飾られている。
 中央にはホワイトチョコレートで大きく、『ハッピーバースデー』と筆記体で記されている。




「・・・・・・・・」
 それを見れば、さすがに俺も思い出した。
本当にサッパリ忘れていた。


 
 ――― 今日は――――。




「ひょっとして今日って・・・」
 感動した様子でケーキを見つめていた城之内が、モクバに目を向ける。


「モクバの誕生日なのか?」
「ブーッ!!!」
 オーバーリアクションでモクバが否定した。
そうだ、確かにモクバの誕生日ではない。



 さすがに気付いたらしく、城之内は今度は俺を見た。
どう答えたものか、一瞬ためらう。


 とりあえず、少し視線を外してうなずいてみせた。


「――― 今まで忘れてたがな」





 誕生日なんて。
意識もしなかった。





 そうか。
城之内を呼んだのは、モクバから俺への誕生日プレゼントだったのだな。


 弟が何を考えているのかと思ったが、フタをあければ実に単純な理由で。


 『多分今、俺が一番喜ぶもの』。
そう考えて、いろいろ手を尽くして用意してくれたのか。





「へー」
 城之内が、感心したような声をだした。

 俺の誕生日をこいつが知らないのも当然だ。


 ――― お前の誕生日より三ヶ月早いから、俺の方が年上だな。

 などと、つまらないことが頭をよぎった。



 城之内が俺をみている。
無垢なような、好戦的なような。



 ――― その瞳が、苦手なのだ。



 しかも、今日は怒っていない。
怒っていない城之内は、なお苦手なのだ。
ムキになって かみついてくる方が、ずっと扱いやすいのに。





 目はそらしていたほうがいい、と経験でわかっている。
俺は、こいつが誰か他人に向けた笑顔を見るのが安全距離だと、分かっている。


 しかしその時、なんとなく、つられるようにカオをあげてしまった。


 目が合うと、城之内はニカッと笑った。



「なんだよ!!、めでてぇじゃん!!!。オメデトさん!!!」



 ――――――――。


 これは、ヤバイんじゃないか?。
こんなに、心臓が激しく脈打ったら・・・
身体に悪い。倒れてしまうかも知れない。



 思いもよらなすぎたんだ。
こいつが、俺に微笑むなんて。




 俺に向けて、笑うなんて。






 十七歳の誕生日プレゼントは―――――――






 今までの人生で一番、心臓に悪かった。










END





 というわけで兄視点でした。なんというカッコ悪い海馬・・・(泣)。
これ書いてた頃、アニメでは海馬さんめちゃくちゃ出張ってて(バトルシティ予選で、遊戯と共闘してる辺り)、カッコよかったのになぁ・・・。
 海馬氏の声スキです!!、声優さんには詳しくないので知らないんですが、ちょっと鼻にかかってて低くて良いですーvv。怒鳴ってるトコも またよし!!。
 しかし、アニメのモクバくんは出番増えてるしブラコン度も上がってるし、おいしい役どころな気がします。
 そして、アニメの杏子ちゃんもカワイイです。杏子もともとスキなんですがーvv。あのグールズに襲われてるシーンは、杏子×城之内っぽいなぁ、と。
アニメ感想でした。

By 伊田くると





城之内 「ま、誕生日ってのはめでたいよな。うまいモン食えたし。にしてもアイツの赤ん坊の頃とか、想像つかねーな・・・・・。少なくとも、かわいくはなかったろうけどよ」
本田 「遊戯のコドモの頃も気になるよな・・・、あいつ、もとからあの髪型なのか?。どーやって中学校の頭髪検査を乗り切ってきたんだ?」
バクラ 「あと、いつ遊戯くんの身長が止まったのかも気にならない?。ボクは小学校高学年とニラんでるんだけど」

本田 「・・・お前さりげなくヒドイこと言うな・・・」

 2001年9月22日