だからボクを許して
〜前編〜






 ―――― 記憶が戻った。


 その間のことは何も覚えていない。
あんどれかんどれ達に尋ねて いくらか空白は補填されたが、自分なのに自分でないオレの体験などリアルに感じられるハズもなかった。

 ただ、記憶をなくす直前のことは覚えている。
当たり前だ。その時はまぎれもなくオレだったんだから。


 だから、『目がさめた』時、オレの中ではその時間からの続きなんだと自然に思っていた。
 実際は何日か開いていたんだが、記憶を失った場所と取り戻した場所が偶然同じだったから、時間が連続していると自然に思い込んだのもムリはないだろう。


 なぜかオレにケリを入れてやがった命知らずの連中をボコった後、そのままの足でマミーとの約束の場所に向かった。



 ――― 今日はマミーとの恒例のケンカの日。



 いつも通り、待ち合わせして、少し話したりしてからケンカ。
どっちが勝っても両方無傷ではすまないから オレかマミーの家に寄って軽く手当てして。
 メシ食ったり。


 そんな月一回の約束。




 マミーは来なかった。












 自分が記憶をなくしていて、申し合わせた日時は とうに過ぎていたと知ったのは翌日のことだった。


 オレはマヌケにも、夜が明けても約束の場所にずっといたのだ。
恥ずかしくて誰にも言えねぇな、こりゃ。

 イイワケにもならねぇが、マミーは遅刻魔なんだよ。自分本位な性格してっし、まわりの連中もあいつを甘やかしまくってるから悪びれもせず遅刻すんだよな。


 ―――でも、いくら遅刻はしてもスッポかされることはなかった。


 だからなんとなく、その場を離れがたかったのだ。








 マミーは来なかった。

 当たり前だ。約束の日は過ぎた。
スッポかしたのはオレの方だったんだから。











 『オレ』の意識が途絶えてた時、かわりに『オレ』をやってたのは えらく腰ヌケなヤロウだったらしい。

 ほんの数日の間に、オレの「ヒトが変わった」というウワサは広まっていたようで、実際、いくつもハジをかいたようだった。
 その礼参りも いずれ済ませなきゃなんねぇが、それよりなにより、今オレがすべきことはマミーに謝ることだった。


 他人に謝るなんて得意じゃない。
どころか、めったにしたこともない。



 ―――― しかも相手が、あのマミーだ。



 かなり前途多難な気がする。























 ―――― いつもの修行場所 (最近は寝食までこの場になりつつあるが)である森の中。


「そーゆーのは早めにした方が誠実っぽいっスよ!!」
 あんどれとかんどれが そろってそう勧めた。


 オレもそう思う。いや、オレ自身 早く謝らねばと切実に感じる。


「マミーのヤツ、記憶なくしたボンチューさん見てけっこーショック受けてたみたいだったスから。あ、ちなみにオレたちは その時 物陰から見てたんスけどね!!」
「うんうん、最初は怒ってたけど、帰る時、なんか寂しそうだったっスよ!!!」

 記憶を失った期間中に、偶然マミーとは一度 街中で会っているらしい。当然 オレは覚えていないのだが。
 その腰ヌケのオレは、マミーにどんな対応をしたんだろう。
ケンカもできないヤツだったってハナシだから、きっとマミーは幻滅しただろうな・・・。


 しかし、ふたりの言う『寂しそうなマミー』というのはどうにも想像がつかなくて (少なくとも、そんな表情は見たことがない)、ちょっと首をかしげてしまう。


 そんなオレに、
「ボンチューさんって、けっこードンカンっスね・・・」
 あんどれが ちょっとため息をつきつつ つぶやく。

「何がだよ」
 鈍感というのは、少なくとも褒めコトバじゃない。
こんな単語をこいつが使ってくるということは、今回はけっこうマミーに肩入れしているみたいだ (珍しく)。

「いやー、だってココ、喜ぶトコっスよ?。ボンチューさんが自分のこと忘れちゃったのがマミーはショックだったってコトでしょ。ボンチューさんが変わっちゃったのがイヤだったんですよ?」

「・・・・・・」


 ―――― なっナルホド!!!。


 噛んで含めるよーに丁寧に解説されて、ようやくオレの心に歓喜がわきあがる。


 ―――― そっそうなのか・・・・そー言われると、メチャクチャ嬉しいな!!。


 これは早く謝って、記憶戻ったって教えてやらねーと!!!。



 かなり上機嫌になったオレは、ダッシュで森を駆け出した。




 ―――― 待ってろマミー!!。オレはお前を思い出したからなーっ!!!。












 が、瞬時に駆けつけた、ひとり暮らしをしているヤツのマンションのインターホンは、いくら押しても応答がない。



 ―――― こりゃ留守か・・・。


 いきなり出鼻をくじかれてしまった。
マミーは外出してるコトも多い。おとなしくないし、カオが広いからな・・・。



 ―――― さて。
どーするか。



 あんどれかんどれにも言われたが、すぐに謝りたい。






 ―――― それに。

 やっぱり、会いたかった。






つづく


 ボンチュー記憶喪失話。
一話で終わっちゃったのがもったいない位スキです。きのこもいいキャラだったし。
 ボンよりマミひいきの私としては、状況から考えて絶対ボンチューは約束スッポかしてるから、謝りまくって欲しい!!と思ってたんですが、そのシーンがなかったので自分で書いてみました。

By.伊田くると


ボンチュー 「うーん・・・ちっとムカつくが・・・マミーの居場所知ってそうっつったらあいつだよな・・・」

02 6 19