達哉直伝!
お見合いしましょ★ 1





 それは、最終決戦を目前にひかえた とある日のことだった。
『打倒・ニャルラトホテプ!!』といくかという矢先、芹沢君が体調を崩してしまったのだ。

 ついては、彼女の調子が良くなってからと、パーティの面々は一時休息をとることになった。


 こういうところ、天野くんの落ち着きと気配りはスゴイと感心する。
僕だったらそのままの勢いでつき進もうとして 芹沢君の不調にも気づいてやれなかったに違いない。

 同居している間柄なので、芹沢君の看病は天野くんに一任された。
まあ僕や、まして嵯峨なんかに枕もとにいられても芹沢君も迷惑だろう。

 症状はさほどひどくはないので、一両日中には快復できるだろうとのことだった。









 さて、せっかくもらった自由時間だが、どうしようか。
僕・周防克哉は ぼんやり居間のソファに寝そべりながら考えた。

 この場に達哉がいれば、兄弟水入らず、膝をまじえて話し明かしたいところだが


『俺は寄る場所がある』
 と、そっけなく言い置いてどこかへ行ってしまった。



 やっぱり僕は避けられているんだろうか。
僕にとっては、異世界でもどこでも、達哉は大事な弟で・・・・・・それに・・・・・・。そうだ、それに・・・・・・・・・・・・・・・・・――――――――









「兄さん、兄さん・・・」

 繰り返される低い声。
耳障りの良い甘い声音が ごく近くから響く。


「こんな所で寝たら風邪ひくだろう」
「・・・・・・ん・・・」

 半分ほど覚醒した状態で目を開けると、長身を屈め、僕の肩を優しくゆする達哉が映った。

「あ・・・すまん」
 いつのまにか眠ってしまっていたようだ。
やはり疲労が蓄積していたのだろう。
スーツ姿のまま本格的に寝入ってしまうなんて久しぶりだ。

 ソファに上体を起こす。
達哉はその様子を黙って見ていたが、相変わらず何を考えているのかつかめない無表情だ。
 兄なのに情けないが、本当に分からない。
大方、だらしない僕にあきれているんだろう、と推理してみた。


 シワのよってしまったスーツを着替えなければと、部屋に向かおうとした僕に達哉はひと言、
「部屋着でなく きちんとした服に着替えてくれ」

「?、なんでだ?」
 当然の疑問を口をしたが、達哉はそれ以上何も答えてはくれず、早くしろ、と高圧的に顎をしゃくった。








 理解不能だが、弟がせっかく話しかけてくれたんだし最大限尊重しよう、と結論づけた僕は別のスーツ上下に着替えた。
 ブラウンのカラーシャツに焦げ茶色の細めのタイ。アイボリー色で無地のシングルのスーツ。
 『きちんとした服』といってもまさか燕尾服とかではあるまい。
家なので、サングラスでなくノンフレームのメガネを最後にかける。

 階下におりて、居間で待つ達哉に恐る恐る、
「これでいいか?」
 尋ねると、頭から足先までざっと一瞥した後、

「十分だ」
と答えてくれた。







 対面のソファに僕が腰を下ろしたのを合図に、達哉が口をきった。

「兄さん、俺は『向こう側』に帰る前に やることがふたつある」
「えっ?!、帰るってどういうことだ?!」
 寝耳に水の発言に、僕の声が裏返る。

 しかし達哉は相変わらずのポーカーフェイスを崩さず、
「質問はダメだ。とにかく、やることがふたつある。聞いてくれ」

 それどころの心境ではなかったが、この弟は『やるといったらやる』・我を通す主義なのだ。こちらの世界の達哉もそんな所があったが、こっちの達哉は実行力も伴っているからその比ではない。

 とりあえず、僕はおとなしく聞き役にまわることになった。




「ひとつは、当たり前だがニャルラトホテプを倒してこの世界を守ること。そしてもうひとつが兄さん、あんたを幸せにすることだ」


「・・・・・・達哉・・・」


 嫌われてる避けられてるとばかり思っていたが、僕のことを案じてくれていたのか・・・。
 そう思うと、単純にも感動してしまい、目頭が熱くなった。


 ――― あれ?。


「しっしかし、達哉、天野くんのことはいいのか?」


 質問はダメだといわれていたが、つい尋ねてしまう。
そもそも、弟は天野くんへの思慕が原因でこの事態をひきおこし、現在も天野くんを守るため、この世界で戦い続けているのではなかったか。

 僕のことより、彼女の幸せはいいのだろうか。



 この質問は受けつけてくれたようだ。
達哉はしっかりとうなずいた。

「舞耶姉は問題ない。向こうの世界でもそうだったけど強いし たくましいし。ひとりでも十分やってけるし、幸せをつかむこともできるだろう」
「はあ・・・ま、確かに・・・」


 確かに天野くんは強い。
一対一で戦ったら負ける・・・、だって主人公は戦いっぱなしだから自然とレベルが上がるじゃないか!!、僕なんかはけっこうパーティを抜けてる時期もあったし・・・うーん、イイワケだが。



「だから俺の気がかりは兄さんなんだ」
「そ・・・そうだったのか・・・」

 弟に気にかけられるのは嬉しいが。
僕はそんなに頼りないのだろうか?。

「いや、でも達哉、僕だって並より相当強いぞ?。柔道・剣道・合気道と段持ってるし・・・心配してもらわなくともやっていけると思うが・・・」

「どこがだ!」
 
 達哉が即座に反論した。



 ――― ひっ ひどい・・・かなり傷ついたぞ今のは・・・。


 そっそりゃ、天野くんにも、目の前の弟にもかなわない。
だって達哉ときたら前作のデータ継承してるからムダにレベル高いし。


「いや・・・俺が言ってるのはそういうことじゃない、『幸せ』になれるか否かだ」
 達哉は怒鳴ったことを反省したのか、声のトーンを落とした。


 深刻そうに、
「今まで兄さんを俺なりに観察してきたが、答えは否、だ。あんたは幸せにはなれない」



 ――― そんな・・・観察してるくらいなら声かけてくれればいいのに・・・。

 と、つい恨みがましく思ってしまったが、セリフの後半も気になった。


 
あんたは幸せにはなれない。





どーん |||||||||||。





「そっそうか・・・、うすうす僕は不幸体質だとは思っていたんだが・・・、弟の目から見てもそうなのか・・・。確かに、雑誌の懸賞も僕の名前で当たったことないし・・・、天野くんなんかは連続で景品あてたりしてるのに・・・。カジノでも、いつも僕が最初にコインなくなってるよな・・・。けっこう考えて賭けてるのに・・・。戦闘から逃げるのもヘタってのは運がないってことだよな、低確率の魔法の追加効果にも よくひっかかってみんなに迷惑をかけてるし・・・。ローンでようやく買った車のプレートナンバーも4219 (死に行く)で、あまりにひどいんで換えてもらったりしたけど・・・」


 『幸せになれない』なんて・・・ヒトから断定口調で言われると、どんどんそんな気がしてくる。
 この分じゃ、ニャルラトホテプとの最終決戦も、僕だけ死んでしまうかもしれない。

 戦闘で瀕死になると、たいていフィレモンがきて話し相手になってくれるけど・・・。ひょっとしてあそこって天国なんだろうか・・・。





「――― しかも俺の見立てでは、あんたはほっておくとロクでもない相手にひっかかるタイプだ。『僕がそばにいてやらなきゃ』、なんて責任感だけでそいつの人生や借金、トラブル全部しょいこむことになったり、自堕落なアル中を更正させようとか親切でしてるうちにそいつに喰われたりな」


「・・・・・・」
 よく分からないが、やけにリアルに語られてしまった。
近い未来、そうなりそうな恐怖におののいてしまう。

 ダークモード・『どんより界』へと突入した僕に、いつの間にか歩み寄って隣に座った達哉が、優しく肩に手をおいた。


 穏やかな表情で、
「俺がずっとここにいれば、俺の手であんたを幸せにしてやれるんだけど・・・それはムリなんだ。だから、あんたが幸せになるのを確かめてから行くことにする」

「達哉・・・・・」

 やはりよく分からないまま、とりあえず達哉の真剣な気持ちは痛いほど伝わってきて、僕は感動した。



「ありがとう・・・」



 なんだか、僕はかなりの不幸な人生を送ることになりそうだが、そんなことはどうでもいい気さえした。


 ――― いいじゃないか、ヒトのトラブルを背負いこんでも、アル中に喰われても !!。






 僕の返事をきいて、達哉がニッコリと笑う。

「まかせてくれ。兄さんを幸せにしてやる。じゃ、行くぞ」
 そのまま、僕の手をひきスタスタと歩き出した。


「??????」
 どうにもやはり理解不能なまま、僕はひかれるまま、異世界の弟についていった。





















「兄さんが協力的で助かった。やはりこういうことは合意があるのが望ましいからな」
 今日はやけによくしゃべってくれる。

 そんな弟の態度はすごく嬉しいのだが、・・・・・・いかんせん、言ってる内容がわからない。
 でもやはり上機嫌に僕に笑いかけてくれる達哉を見ると、不仲だった時間が全部ふきとぶ気がして、僕は幸せだった。






 達哉が僕を連れてきたのは、青葉区の落ち着いた純和風の料亭。
僕の安月給ではとてもじゃないが なじみ深い場所ではない。

 世界はけっこう (?)大変なことになっているが、営業はしているようだ。手入れのいきとどいた玄関広間で、品の良い従業員が総出で歓迎してくれる。

 達哉は前もって予約していたらしい。
受付に二・三、口をきいただけで部屋に通された。
 いわゆる、お座敷というヤツだ。
プライバシー保護のため、きちんと仕切られたひと間に、大きめのテーブル、座布団が三つ並べられている。
 
 達哉はそのうちのひとつに座れ、と目で合図した。
おとなしく従ったが、僕の動作はぎこちない。あまりに場違いなので緊張してしまう。
 達哉も空いている席のひとつに腰を下ろした。
僕には着替えろとか言ったクセに、自分は普段着のままである。確かに、こんな料亭に来るんならそれなりのカッコは必要だが、まあ達哉は未成年だし いいのかな。

 残りひとつの空いている席は、位置からして上座だった。
その空席が気になったまま、僕は弟が説明してくれるのを待っているのだが・・・。

 やはり要領を得ない。



「達哉、何の話をしてるんだ?、ところでこんなトコに来てどうするんだ?。食事でもするのか?」
 いきなり連れてこられたからサイフなど用意していない。
まさか弟に金を出させるワケにもいかないし、と不安がつのる。

 決戦前の最後の休日に豪華なメシを食おう、というのはどうも彼らしくない行動な気がした。





 達哉は赤茶色の目を細めて、人の悪い笑みを浮かべた。





「違うよ兄さん。
見合いするんだ」





「・・・・・・・・見合いというと・・・あの、」
「そう、その見合いだ」

 何も言っていないが達哉はうなずいた。


「・・・・・・誰が?」


「兄さん」


「・・・・・・・・・・・」

 僕は体調を崩していない、疲れも先ほどの睡眠でかなり癒えた。
しかし・・・確かにメマイを感じた。

 しかし しかし しかし・・・、これだけは聞いておかねばなるまい。





「・・・・・・・・・・・・誰と?」





 僕の質問に、達哉はよくぞ聞いてくれました、という満足げな表情。
そして、部屋と部屋とをしきるフスマに手をやり、

「実はさっきから待ってくれてるんだよ。兄さんも知ってるヒトだけど、改めて紹介する」


 フスマを開いた。








 時が止まった。
いや・・・・・冗談抜きで。



 開かれた空間に姿を現した人物は。

 た・・・確かに知っている人物ではあったが・・・・。












「サラーム・ラディーンさん」

 












「オ兄サン、トッテモ キレーネー
vvvv
「兄さんのこと、すごく気に入ってくれてるんだ」


 にこやかな達哉の笑顔。
それが見られるのはすごく嬉しい。非常に嬉しい。大変嬉しいのだが・・・・・。




 その時、僕は改めて実感した。
やっぱり、弟のこと、よく分からない・・・・・・。












つづく



 私にもたっちゃんが分かりません。

 っつーか、サラーム・ラディーンって名前だけ言われても・・・。
地図マニアなアラブ系の油ギッシュなオジサンでした。私はゲーム中、一度も地図のバイトしたことないです。メンドくさい!!!。とか思って。

 克哉さんはものすごい几帳面にやりそう、あーゆーの。
「嵯峨!!、悪いがそこ歩いてくれないか?」
「おわっ!!、どー見てもダメージゾーンじゃねぇか!!。ヒトにやらせんな!!」
「地図のためだ。耐えてくれ」
 みたいな。

 リク下さった椋井サマ、続き物になってしまってスミマセンがもらってやって下さいー。まだパオが影も形も出てないですが・・・。

By.イダクルト


うらら 「私が風邪でダウンしてる間に、大変なことになってるみたいね・・・」
舞耶 「間断なく不幸よね。克哉さんって」
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