そう! 俺の名は・・・
〜前編〜





 けっこう前の話になるが、先々先々月の11月11日は俺の誕生日だった。

 サンジとコイビトになってから、初めての誕生日。


 口には出さないものの、俺はかなり期待していた。


 誕生日といえば、世のコイビト達にとって最重要イベントであることは疑いのない事実だ。

 愛する人間がこの世に生を受けた記念すべき日。
ふたりが出会えたきっかけである日に感謝して ――――――





 ―――――― 俺のためにいろいろ悩んで、時間をかけて選んでくれるプレゼント。
( 値段とかはどーでもいい。ついでにいうと プレゼント自体なんだっていいのだ。ただ、ずっと俺のことを考えつつ プレゼントを決めて 用意してくれるというのが嬉しいのであって )。


 俺のコイビトであるサンジは料理人だから、腕をふるった料理を食べきれないほど用意してくれて。
( とは言うが、別に料理がヘタでもそれはモンダイないのだ。サンジはもちろん文句のつけようもないほどの料理人だが。俺のために時間をかけて頑張って料理を作ってくれるというのが嬉しいのであって )。


 俺は甘いモノは わりと苦手だが、お前が作ってくれたケーキを残すハズもなく たいらげる。



「おめでと、ゾロ」

 にっこり笑って そう祝ってくれるお前を抱きしめる腕のスタンバイも万全だったというのに !!!。











 先々先月はクリスマスがあった。


 サンジとコイビトになってから、初めてのクリスマス。


 口には出さないものの、俺はかなり期待していた。




 クリスマスといえば、コイビト達にとって最重要イベントであることは疑いのない事実だ。

 イエス=キリストがどんなヒトなのか俺はよく知らないが、この日が宗教色をちょろっと持ったムーディーな日であるというのは なんとなく理解している。
 ふたりがイチャつく、カッコウのきっかけである日に感謝して――――――





 ―――――― 表に降る雪を眺めつつ、シャンパンで乾杯。

 シャンパンみたいな軽い酒はあまり好みではないが、こんな日はシャンパンまたはワインに決まっている。ビールや日本酒 ましてや老酒の出番ではない。そっちのが好きだが。


 酔って少し顔を赤らめたサンジ。
クリスマスのことをよく知らない俺に、その由来を優しく説明してくれたりして。
( 別にそんな話はホントはどーでもいい。サンジとクリスマスな会話がしたいだけなのだ。「お前ってなにも知らないのな」なんて、スネたように言うしぐさがカワイイのであって )。


 クリスマスといえば コイビト達はプレゼントの交換だ。ここは奮発しておきたい。

 皿・包丁などという実用的・現実的なモノより、とにかくムードのある値のはったモノが望ましいだろう。
 クリスマスに都合よく陸につくというのは航路の都合上ムズカシイかもしれないので、早めに準備しておくのが鉄則だ。ラッピングはあまりカワイイ系だとサンジはひくし オトナな雰囲気にならないので、シンプルかつシックなのがいいだろう。


 お互いに、はにかんでプレゼントを交換して、
「せーので一緒に開けような」
 なんて約束して。

 なのに、俺がフェイントかけたりなんかして、
「ずりーよっ」
 なんてむくれるのもまたカワイイことだろう。



 でも、俺からのプレゼントに機嫌をよくして、
「ありがとな、ゾロ」

 にっこり笑う お前を抱きしめる腕のスタンバイも万全だったというのに!!!。









 先々月は正月だった。


 サンジとコイビトになってから、初めての正月。


 口には出さないものの、俺はかなり期待していた。


 正月といえば、コイビトというよりは家族・親族色の強いイベントではあるが。
そこはそれ、コイビトの持つラブラブパワーにかかれば厳かな正月も二秒でピンクに変えられるというものだ。つーか、そーゆーヤツがいなかったら姫初めなんて言葉は生まれてねぇだろう。


 愛しあうふたりが一緒に迎える、一年最初の日。
これからの一年も、ふたりの愛が変わらないことを祈って ――――――





 ―――――― 俺のためにおせちを作ってくれるサンジ。

 サンジの生活圏内ではそういった風習はないから、初チャレンジの料理に不安が少しのサンジ。
「どーだ?、うまいか?」
 なんて聞いてくることだろう。


 逆に、俺のいた故郷では正月といえばオセチにゾーニだ。

 そーいうヤツに郷土料理を出すのは緊張するだろうが、そんな不安そうなカオもそそるってもんだぜ、サンジ。

 大丈夫、たとえ ちっと違う味付けだったとしても、俺は
「うまいぜ !。お袋の作ったのより全然な !」
って言うからな。

 そんな世辞作んなくても、お前の料理が失敗なわけないしな。
( 万が一、ホントに失敗でもそれはモンダイないのだ。俺の故郷のことを考えて、俺のよろこぶ料理を作ってくれようとするケナゲさがいーのであって。少し俺の故郷や故郷の味に慣れといてもらえれば、実家の両親や先生に紹介するときも便利だしよ)




 ふたりで初日の出を見て。
普段はしないけど今日は特別だから。

 ちゃんと、
「あけましておめでとう」
「今年もよろしくお願いします」
 敬語でアイサツ。


「今年も来年も再来年も・・・・・・・・ずっとな?」
 プロポーズってほど正式じゃないけど、ちょっと冗談めかして言ってみせると。

 とたんにカオを真っ赤にして、言葉が見つからないサンジ。
ちょっと涙目になって、

「うん・・・っ!」

 懸命にうなずいて、ぎゅっとしがみついてくる お前を抱きしめる腕のスタンバイも万全だったというのに!!!。











 先月はバレンタインデーだった。


 サンジとコイビトになってから、初めてのバレンタイン。


 口には出さないものの、俺はかなり期待していた。

 バレンタインといえば、コイビト達にとって最重要イベントであることは疑いのない事実だ。

 そして、現在片想い中という、半年前の俺と同じ立場の者にとっても気合を入れるべき日である ( がんばって早く俺みたいになれよ! )。


 バレンタインに由来なんかあるのか?。俺は知らないが、とりあえずチョコを渡してコクる日というのは間違いない。
 ここぞとばかりにラブラブになっていいと、菓子会社が宣伝している記念日を祝って ――――――





 ―――――― 俺のためにいろいろ悩んで、時間をかけて用意してくれたサンジのチョコ。

 男同士だし・・・とか、恥ずかしい・・・とか、あいつは悩んだろうけど、お前のチョコは そこらの女のチョコつんだ船五隻分よりよほど価値があるんだから気にすることなんて何ひとつないんだぜ?。

 ・・・ああ、確かに俺は甘いのがニガテだ。
チョコなんか甘いトコしかねぇもんな。正直キツイだろう・・・が、サンジがくれるもんなら どんだけムネがムカつこうとバケツ一杯食うって誓ってるんだ。

 でもきっとサンジは工夫に工夫を重ねて、甘くないよーにしたりとか、中に酒入れてくれたりとか、いろいろしてくれるんだろう。
( 甘くたっていいのだ。マズくたっていいのだ。愛の証として渡されるチョコが嬉しいのであって )。


「これ・・・一応、作ったんだけどよ、甘いの嫌いなんだよな。別に食わねーでいーからよ」
 決まり悪そうに、キレイにラッピングしたチョコの箱を渡してくれるサンジ。

「バカ、食うに決まってんだろ?。嬉しいよ、サンジ ―――」
 チョコを大事に受け取って、照れくさいがそう伝える。

 すると、ホッとしたように、そして嬉しそうにカオをほころばせる最愛のサンジ ―――。


 そんな、いじらしいお前を抱きしめる腕のスタンバイも万全だったというのに!!!。














「―――――― 現実って厳しいな・・・・・」


 ここまで理想と現実の違いに打ちのめされたのは、鷹の目との戦い以来だった。



 そう。
現実は厳しかった。


 半年前、決死の覚悟でした告白にサンジが うなずいてくれたまではよかった。

 俺は神に感謝したし、人生上り調子だなぁ、この分なら俺が世界一の剣士になって、あいつのオールブルーとかいうのが見つかんのもすぐかもな !、なんて浮かれていた。



 心の底から惚れてる相手と両想いになって、これからの幸せたっぷりv甘々な日々に心がとろけそうだった。



 てなわけで、上記のような想像をしてたわけだ。
誕生日・クリスマス・正月・バレンタイン・・・・・・・・・・・。


 ―――― すべて、俺の想像からドン外れなトコにいっていた。






 まず、誕生日。


 ―――― ヤツは俺の誕生日を知らなかった・・・・・・。


 当日、航海日誌を書いていたナミが、
「あ !、そーいえば今日アンタの誕生日じゃない?」
と思い出してくれなかったら そのまま流されていたのだと考えるとゾッとする。

 当然 俺は気づいてた・・・つーか かなり前から楽しみにしてたんだが、いつもの俺のキャラからして自分からヘラヘラと言い出せるものではなく。

 いや、別にこの船にサンジがいなかったら俺の誕生日なんてどーでもいいんだ。サンジ以外のヤツに祝ってもらっても大して嬉しくないしな。


 ともあれナミが気づいて、ルフィが「ならパーティだ !」とさわぎだしたので、サンジは嬉々として料理を用意してくれた。


 それはもちろん、嬉しかったんだが――――。


 パーティといえばみんなそろってだから、コイビトの 甘々ムードなんてものにはホド遠く。いつものどんちゃん騒ぎで時間は過ぎていった。


 夜中。
誕生パーティというよりは大食いパーティといったカンジの酒宴があけてから。

 後片付けをするサンジとようやくふたりきり。



 ―――― よし、かなり予定はズレたが、ふたりになってピンクな会話をするぞ !。

 と意気込んでいたオレだが、サンジは全くの常態。なにも変わりなかった。


 いろいろと探るように話をしていって、オレは気づく。

 ―――― こいつは、あまり誕生日を特別視していないということを!!!。

 あまりというより全然、だった。


 さらに言うと、俺とコイビトだということも特に特別視していないらしい・・・!!!。


 かなりプライドを捨てて発した、「おめでとうとか言ってくれねぇのかよ」という俺のセリフに、
「あぁ?、夕食ん時言ってやったじゃねぇか」
 皿洗いする手を休めもせずに、あきれガオでの返事。


 みんなそろって「おめでとーっっっ」ってのと、改めてコイビトからもらう祝辞と、一緒にすんじゃねぇぇぇっっっっ。


 俺はショックだった。




 この流れからいって、プレゼントも当然ナシで。
「欲しいモノなんてねぇだろが お前」
 と言われてしまえば、確かに具体的に欲しいものはないのだから言い返せない。
 即物的に欲しいものを与えてもらうんじゃなく、コイビトからの心づくしのプレゼントが欲しかった俺の純情など、ヤツにはカケラも理解してもらえなかったらしい。
 サンジは欲しいものがないのにプレゼントをねだる俺を見て、不思議そーにしていた。





 そして、その翌月のクリスマス。

 やはり航海中で陸に下りることはできなかったが、運良く冬島近くだったらしく見事なホワイトクリスマスになった。

 今回こそはと念を入れ、夜の晩酌には いつものラム酒や日本酒でなく、最初からシャンパンを希望しておく。
 ふたりきり、雪が静かに降り積もる中、シャンパンをあける ――――。
よし、今度こそ俺の理想のクリスマスになりそうだ!! と思ったのだが ――――。



「クリスマスって、どんな由来なんだろうな」
 ムードあるクリスマストークの切り口として俺がそう言うと。

「知んねぇ。この日は客が多くて大変っつー記憶しかねぇな」
 すげなくあっさりサンジはクリスマストークを打ち切り、実家・バラティエの話を勝手に始めた。こうなると止まらない。

 サンジいわく『クソジジイ』 ――― 近い未来のオレの義父であるオッサンの話が延々と続く。

 俺の義父さんでもあるわけだから嫌っちゃあいけない、と強く己に言い聞かせるものの、嬉しそうに別の男の話をされては、眉間にシワのひとつも寄るというもので。

 ―――― 結局、その日はケンカで終わった。



 プレゼント交換したかったが、当然サンジはそんなもの用意しておらず。
クリスマスムードのラッピングを外して、無造作に袋に入れたタイピンをやっとアイツに手渡せたのは、その翌月のこととなった。当然平日。

 ちなみにサンジはそれを自分への貢物と解釈したらしく それなりに喜んでいた。





 そして、そのさらに翌月は正月だった。
 
 ここでも計画はすべて頓挫した。
まず、オセチ&ゾーニは作ってもらえなかった。

「そんな材料はねぇし、お前の食文化にのみ合わせてられっか。新年早々ワガママ言ってんじゃねぇよ。そんなにクニのメシが食いたいんだったら帰れ」

 ―――― 前半はまだしも後半はひどい。ひどすぎる。


 たしかにオセチもゾーニも特殊な料理だから、航海していて食糧が制限されてる中ではムリなんだろう。それは考えが及ばなかった自分が悪い。

 が、船長やその他のクルーと違って、普段リクエストなんてしない自分のワガママをここまでバッサリ切り捨てるコイツもどうかと思う。仮にもコイビトじゃなかったのか?。


 やはりというか ――― この日もケンカで終わってしまった。

 あけましておめでとうのアイサツすらまともにかわしていないことに、二日目に気がついた。
 




 そのさらにまた翌月には、バレンタインがあった。

 いままで かなり手痛い目にあっている俺だが、さすがに今回こそは、という想いがあった。


 ―――― この日は誰がなんといおうとコイビトの日だ。ラブな日だ!!。

 さすがにサンジもそれは知ってるだろうし、さすがにサンジも俺とコイビトだとは思ってくれてるハズだ (弱気だな俺・・・・・人生上り調子のハズだったのに・・・)。



 が。

「あーあ。さすがに今日だけは俺もブルーだぜ」
 なぜか、サンジはチョコを作る気配もなく、ぼーっと甲板でタバコをふかしている。


 ―――― なんだ?。もう既に作ってくれてあるのか?。せっかく今はふたりきりなんだから早く渡してくれてもいいだろうに・・・、それとも夜まで待ってるのか?。

 期待と不安でけっこうテンパってる俺をムシして、サンジは なおもため息。

「バラティエにいたときは、バレンタインっちゃ天国だったなぁ・・・、入れかわり立ちかわり常連のお客のレディが『サンジさんにv』ってチョコ持ってきてくれてよぉ・・・。『料理人のサンジさんのお口にあうかどうか・・・』なんて不安そーにおっしゃるのが またカワイイんだよなぁ・・・vv。はぁ・・・それがなんの因果かグランドラインの船の上。これじゃオレを愛するレディも来てくんないぜ・・・」



 ―――― しまった・・・!!!。


 俺は気づいた。つーか当然といや当然だが、いまさら気づいたってことでもねぇが、サンジは男だった。

 つい、そこを頭に入れないでラブな計画をたててたが、こいつの中にチョコは『あげる』という選択肢はないのだ。
 あくまで『もらう』もんなのだ。

 チョコを欲しがってブルーになってるこいつを見て、しまった、俺があげるべきだったかと後悔するが もう遅い。サンジじゃないが、ここは海の上なのだ。チョコなど用意できるものではない。



 ショックを受けていると、船にペリカンが飛んできた。手すりの上にぴょんと着地する。

 航空便だ。
送り主はバラティエ。

 ―――― サンジが旅立ったと知った女達が、今日の日に間に合うようにと、事前にチョコを集めて送ってくれたらしい。

 箱につめられた たくさんの菓子を嬉しそうに両手に抱くサンジ。
勝ち誇った調子で自分のモテっぷりを自慢し、俺のモテなさっぷりをコケにした。


 ―――― やっぱりといおうか・・甘い雰囲気などオレ達の間には微塵もただよわなかったのだった。
 届けられたチョコの山は、かなり甘ったるいニオイを船中に ばらまいていたのだが。











 ―――― そして、現在。


 ついに、3月。







つづく


ゾロ、ひとり相撲の巻・・・・・
哀れ・・・。
By.伊田くると



ナミ 「オセチかあ。今度 材料 仕入れたら作ってよ。食べてみたいわ」
サンジ 「ナミさんが希望されるんでしたら喜んでvv。専門外ですが、腕をふるいますよvvv」
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