そう! 俺の名は・・・
〜後編〜





 3月といえば。


 ここまで読んでくれてるヤツなら もう分かってくれてるだろう。こんなグチにつきあってくれてありがとな。さすがにこんなこと、船の連中にゃ言えねぇし・・・。


 ま、とにかく、そう !。3月2日はサンジの誕生日だ。

 ゾロ目に生まれた俺の名前がゾロだから、あいつの名前の短絡さは今さらツッコむ気もねぇが、俺はこの日を心待ちにしていた。

 当然、両想いになれた半年前から そりゃもうラブで 甘々な想像をしてたわけだが、ここまでの手ひどい裏切られっぷりに、さすがに今回は・・・と、事前から少々あきらめムードなのは致し方ない。

 よくよく考えれば、俺の望んでるラブなカップルってのは 相手もそう望んでなきゃ なかなか実現するもんでもねぇんだよな。

 サンジは女相手だといくらでも浮いたことを言うし、ムードなんかも大事にしてるようだが、それでも基本的に冷めたヤツなのだ。現実的だしよ (伝説のオールブルーとやらは信じてやがるクセに)。



 ―――― ってか、この際言わせてもらうと !!。
アイツにゃそもそも情緒がねぇ!!。

 好きとか嫌いの感情も、人間的というより動物的なものに見えるときがある。
親愛の好きと友情の好きと、恋情の好きと・・・・、区別できてるのか?。と聞きたくなるくらいだ。あ、ちなみにウチの船長も そこらへんはドウブツだな。トナカイのがよっぽど機微ってモンを分かってるぜ。



 俺の告白に了承はくれたし、
「俺もまー・・・嫌いじゃねーぜ」 とは答えてくれたものの・・・。付き合って もう半年というのに、ここまでコイビトらしくならないというのはホンキで怖い。









「てめぇ・・・新しい宗教か?。止めはしねぇが外でやれ」
 ふいに冷たい声が上から降り注いだ。

 いくら かき氷並みに冷えていても、そこは愛しいアイツの声だ。すぐに俺は反応する。

 顔を上げると、声に見合う冷ややかな目をしたサンジがこちらを見下ろしていた。

 「あ?、何言ってんだ?」と返すと、俺の倍ほどの早口が帰ってくる。
いわく、キッチンのテーブルの上に突っ伏して モゴモゴなにかつぶやいてる俺が不気味でヤだと、同じ部屋にいたくねぇと、そーいうことらしい。



 ・・・・口に出してたっけ?。

 自分で分からないあたり、ホントにテンパってたよーだ、俺・・・。




 サンジは仲間に対して、ましてコイビトには向けない類の視線を俺に寄越している。不審者を見る目だ。
「調子おかしーんなら風呂はいってさっさと寝やがれ。いんな、ジャマだ」

 そうは言いつつ、いつの間にか切れたつまみを追加しに来てくれてるのが少し嬉しい。
 コイビトとしてはドンカンにもホドがあるが、料理人としては細やかに気を遣ってくれる男なのだ。

 ヘンな形の木の実を炒めたつまみはうまかった。

 







 ―――― 現在、3月1日の夜。


 ついさっき、最愛のコイビトであるサンジに不審者扱いされた一件をのぞけば、今のところ大きなモンダイなくコトは運んでいる。

 つい、今日までのツライ道程に思いを馳せてしまっていたが (そしてそれをサンジに気味悪がられてしまったが)・・・。


 待ちに待った、『サンジの誕生日』まで、あと少しなのだ。


 以前の数々のイベントは ことごとく失敗した。
さすがに今回は当初の予定ほどピンクになろうとは期待してないが、それでも、という思いがある。今度こそ、と。

 現に、先月の上陸の時に きちんとプレゼントは買った。

 ほかのクルー連中が入ってきて前回みたくパーティになると ますますいいムードに持ってけねぇから、1日から2日に切り替わる瞬間を狙ってキッチンに残っている。

 サンジはもともと夜遅くまでキッチンで仕事してるからな。日付が変わるまで起きてるのは知っている。


 ―――― ハラマキの中には、しのばせてあるプレゼントの感触。
だいぶ前から用意していたものだ。



 サンジはつまみを置くとさっさと俺に背を向け、今はキッチンで湯気のあがるナベをかきまわしている。明日のスープだろうか。





 ―――― 12時を過ぎたら、あいつのそばに寄って。

「ハッピーバースデー」の言葉と一緒にプレゼントを渡して。


「・・・一番にお前に言いたかったんだ」
 なんて囁けば!!!。


 さすがに落ちるだろ!!、さすがに嬉しいだろ!!。
これなら、時間をかけて雰囲気つくんなくていいし !。






 ・・・・・・・・・・―――――― ビックリして目を丸くした後、俺と、渡されたプレゼントとを交互に見やるサンジ。

「え・・・・・・あ・・・・・・忘れてたぜ、俺、誕生日だったんだ・・・」
「ったく。忘れるなよ。ま、お前が忘れても俺が覚えてるけどな」
 苦笑して言ってやる。

 サンジは少し不思議そうに その細い首をかしげてみせる。
「よく覚えてたなお前・・・」

「俺にとっちゃ何より大事な日だぜ。お前が生まれた、俺がお前に会うための大事な日なんだから―――」
「ゾロ・・・・・っ」





 ―――――― なーんてな !!。これで決まりだっっっっ!!!。



 ピンクな空想に悦に入っていた俺。


 が、ふいに頬に冷たい風が当たった。

 我に返る。


 冷えた風は、扉が開いて外気が入ってきたためだった。


 ―――― あ?。外気?。


 ふと気づくとサンジがいない。



 ―――― のわーっっ、俺がピンクな空想に浸ってる間に出てっちまったかーーーっ !。

 なんてヤツだ、俺の計画をまたお前が壊す気かーーーっっっ !。




 慌てて椅子から立ち上がり、後を追いかける。

 ドアが開いたのがさっきだから、当然まだ近くにいるはずだ。男部屋に戻る前につかまえねーと。さすがにルフィたちの大いびきの中ではピンクなもんもピンクにならねぇ。



「サンジ !!!」


 バン !、と乱暴に扉を開けて外に出た。夜中だが晴れた月夜なので視界はそう暗くない。

 すたすた歩いていくサンジの後ろ姿が見えた。
闇でも目立つ金の髪が揺れ、俺の声に反応したヤツがちらりと首を曲げてこちらを向く。

 でも歩みは止めないのが なんだかムカつく。

「待てっつってんだろが !」
 足早に近寄って、腕をつかんで引き止めた。
さほど力を込めたつもりはないが、とたんに相手は不機嫌そうに眉をしかめる。
「あんだよ。俺は明日も忙しーんだ。寝かせろ」

「ダメだっっっ」
 寝られちゃ困るッ!!。力いっぱい否定すると、

「・・・・・・・・・・あ?」
 眉間によったシワがさらに深くなった。
あと一歩怒らせたらケリがくる・・・・日頃の経験でそれを察知してしまう。



 ―――― どうすべきか・・・。


 ケリがきたら もう雰囲気の修繕は不可能だ。サンジはキレやすく機嫌が直りにくい。いや、ナミ達がいればすぐに上機嫌になって次の瞬間にはバカ笑いをしてたりもするが、俺の独力ではムリだ。

 ―――― これ以上絶対に怒らせられない。が、誕生日プレゼントを渡すなら12時をちょうど過ぎた頃にしなきゃなんねぇんだが・・・今は何時だ?。さっき見た時計が11時40分くらいだったよーな・・・。もうそろそろだろうか?。でも・・・。

 逡巡して無言のままの俺を、今にもピキピキいいそうな顔でサンジが睨んでいる。

 ―――― ダメだ、限界だ・・・こりゃキレちまうだろ。まだ2日じゃないかもしれないが、ぜいたく言ってられねぇ!!。


 サンジの様子に俺は覚悟を決めた。今渡すしかない。

「サンジ・・・・っっ、あ・・・・あの」

 ―――― が、口を開いたはいいものの、渡す時のセリフが浮かばなかった。



 ―――― あ・・・あれ?。

 キッチンで料理してる背中を抱いて囁く予定だったのだ。状況が急変した今、思考がおいつかない。俺はなんて言うつもりだったんだっけ?、ええと・・・。

 ―――― まずなんか言わなきゃだよな・・・・・、できればサンジがキュンときたりドキッとしたりするよーな決めゼリフを・・・ってどんなだ?。まあいい、そんでドキッとさせた後は間髪いれずにハラマキの中に入れたプレゼントを出して渡して・・・・・・、その後は?。いや、後のことより先に まずプレゼントだ、とにかくプレゼントを・・・。



「離せクソ野郎ッッ」

 健闘むなしく、ついにキレて怒鳴ったサンジが、ガッチリつかまれたままの手をふりほどこうとした時。
 混乱の極みにいた俺は、とにかくプレゼントは渡さなければ、プレゼントは渡さなければと それしか考えられず――――・・・




 信じがたい行動に出た。








「〜〜〜〜〜ッッッッッ??!!!」
 サンジが固まる。


「――――――・・・・あ・・・・」
 俺もさっきから似たよーなモンだったので、やっぱり固まってしまった。






 丸くてデカい月が俺たちを煌々と照らす中、痛いほどの沈黙がおりた。





 ―――――――――・・・。





 そのまま、『そこ』だけを見てたサンジが俺の顔にゆっくりと視線を移し。

 あ、サンジがビックリした表情でこっちを見てる。そーだ誕生日おめでとうって言うんだった、と遅まきながら『段取り』を思い出したとき。




「ギャーーー!!、離せッッ、殺すッッ !!。こんのクソセクハラヘンタイ野郎ーーーーっっっっっ!!!」


 船中に響く絶叫。そして 間をおかず恐ろしい破壊力とスピードののったケリが俺の頭部に炸裂した。
















 ―――― サンジの怒声は、

女部屋で読書していたナミ。
見張り台にいた今夜の当番のウソップ。
男部屋で寝てたが、もともと眠りが浅いチョッパー。

 ―――― の三人にも聞こえていた。





 また場所はキッチン。
俺を囲むように、今言ったメンバーと そしてサンジが立っている。


 マジで俺を抹殺しようと殺気だっていたサンジは、巨大化したチョッパーに取り押さえられ、
「実刑は裁判の後でしょ?、サンジくん。この船は法治主義なんだから」
 というナミのとりなし(?)で今はなんとか落ち着いている。
が、当然怒りは おさまっていないようで あきらかにキレていた。





 そして、ナミの言うところの『裁判』が始まった。


 まず、目撃者ウソップの証言。

「あー、キッチンから出てきたゾロが、急にサンジの手をつかんだのが見えたな。ひきとめてたみてーだ。その後 少し会話してたようだったが、何の前触れもなくゾロが・・・あんなことをしたんだ・・・・・・やっぱ魔獣だな、アイツは・・・・」

 サンジがうなずく。被害者役はコイツらしい。


 どーでもいいが、そこまで細かく見えるもんなのか?、あんな上にある見張り台からよ。ウソップのヤツ、ゴーグル使って完全 確信犯で盗み見してたんじゃねーか。

 そんなことを苦々しく考えてる俺を、被害者の身内(?)、チョッパー(今は通常サイズ) がニラむ。ふてぶてしい態度にみられたらしい。




 裁判官 ( しかし判断は公正ではなさそーだ。どう見ても) のナミが これ以上蔑めない、というほどに軽蔑しきったまなざしを俺に向けた。
「この船に変質者が乗ってたなんてね・・・」
 ルフィの人を見る目もあてにならない、とか ため息まじりにつぶやいてやがる。

「あのなぁっ、変質者なワケあるかっっ」
 反論しようとする被告 (なんだろうなやっぱ・・・) の俺だが、ドン、と拳をテーブルに叩きつけて怒鳴り返された。迫力あってコワイ。

「突然 人の手つかんで股間触らせるヤツが変質者以外のなんだってのよ!!!。このヘンタイ!!。セクハラ親父!!。強姦魔!!。色魔!!。ノゾキ!!。チカン!!」
「カンケイねーのも混じってるじゃねぇかっ!!」
「じゃあ変質者でヘンタイでセクハラな色魔なのは認めるのね?!!」

「認めるかぁーーーーッッッッ!!!」

 俺の魂の主張は誰にも聞き入れてもらえなかった。






「えーんナミさーーーーんっっっ。きたねーモン触らされちまったーーーっ。俺もう料理できねぇ・・・こんな手で作ったモンを、いとしのナミさんには食わせられねーよーーーっ」
 サンジはナミが来たことで絶好のチャンスとばかりに泣きついている。
泣きつくだけでなくホントに抱きついている。

 ナミもしっかりと黒スーツの背中に腕を回し、
「大丈夫よサンジくん、狂犬にでも噛まれたと思って忘れなさい。サンジくんはケガれてなんてないわっ。あなたの身体はキレイなままよっっ」

 ―――― なぐさめている。そりゃもう切々と。親身に。


 俺はそんなバッチィんかーっっっ!!。と逆ギレしたくなったが、さらに変質者扱いされるのは間違いない。今この簡易裁判所には俺の味方がひとりもいないからな。

 ―――― 孤立無援だ・・・・・・・。
 
 と、ヘコんでおとなしくなった俺に、味方とまではいかないが そこまでサンジに肩入れしているわけでもないウソップが声をかけてきた。

「つーか・・・。結局お前は何がしたかったんだ?」

「・・・・・・・・・・・・」
 尋ねられて思い出す。
キッチンに置かれた壁時計を見る。時刻は12時30分をさしていた。

 時間の感覚がよく分からなかったが、もう2日なのだ。



 そう結局 ――――。
ウソップの言った通り、俺の計画はまた見事に頓挫したコトになる。


「・・・」
 ナミに抱かれたサンジが少しだけ顔を上げて俺を見た。
ころっと機嫌が直っている。理由は言わずもがな、ナミにぴったりくっついてるからに決まっている。くっ・・・このエロコック。

「そーだそーだ。何がしてーんだおめーは。今日ずっとヘンだったじゃねーか。まぁ前からヘンだけどよ。ついにおかしくなったか」
 まだナミにしがみついたまま (今回ばかりはナミも同情してあまりあるらしく、しがみつかせたまま振り払っていない)、サンジが問いただす。

「・・・」
 反応につまった。


「答えないってことはヘンタイって認めるのね?、とうとう」
 ナミも問い詰めてくる。チョッパーはまだニラんだ目のまま じっと俺を見上げていた。



 ――――――。


 観念して、俺は口を開いた。

「・・・プレゼントを――――渡そうとしただけだ」


 そう。
俺が一方的に悪者扱いされているこの裁判のきっかけは、本当に ただそれだけなのだ。


 怒って行ってしまいそうなサンジに慌てて、時間も気になってたし、動転していた。
 祝うセリフを思い出せず、とにかくプレゼントを渡さなければと――――――。





 聴衆が全員、きょとんとした顔になった。

「「「「プレゼントぉ??」」」」

「――― そーだ」



 ハラマキの中に隠しておいたプレゼント。
そこから取り出して手渡せばよかったのだ、今になれば心底そう思うが。


 ―――― 慌ててた俺は。
つかんだままだったサンジの手をそのままハラマキの中につっこんだ。







 そしてサンジの悲鳴。
 そしてサンジの怒声。


 そして今にいたる。







 言葉だけじゃ信じてもらえねぇか、とハラマキからそれを取り出し、キッチンテーブルの上に置く。
 
 サンジの目の色に合わせて、明るい青の包装紙で包んでもらった小さな箱だ。
中には、ヤツが以前新聞広告で見て欲しがっていたバックルが入っている。


「今日――― そっか、サンジくんの・・・」
 あきらかにプレゼント用とわかる包装に、ナミが真っ先に気づいた。
その言葉に触発されて、サンジがハッと目をみはって俺を見る。

「俺の誕生日・・・だからか?」


 変質者と勘違いされた今、なんと言えばいいものか、カッコつけてもアホらしい気がして、俺はただうなずいた。





 キッチンの雰囲気が変わっていく。

 ウソップは苦笑して、俺のことを不器用なヤツだな、というようなオトナびた顔で見やった。ボソッと、「ハラマキになんか入れるか?、普通・・・」とかつぶやいてたが。

 チョッパーは一気に敵意がうせて、むしろ尊敬のまなざし。

 ナミは優しくサンジを抱いていた腕を外し、眉尻を下げてため息をついた。
「よかったわねサンジくん、開けてみたら?」



 本当はふたりきりの時に開けて欲しかったのだが もはやゼイタクは言うまい。



 サンジはうなずいて、包装紙に手をかけた。白い指が丁寧にパッケージを外して箱を取り出す。


「これ・・・俺が欲しいっつったヤツ・・・」


 ドクロの精緻な透かし彫りが入った、銀細工のバックル。

 もちろん新品だが、銀はピカピカでなく少しさびたような色合いで。
『使い込んだカンジがカッコイイ !』とかコイツが騒いでたものだ。
 限定品だし、通常のバックルの値段からとび抜けてたので実際に手に入れようとは思ってなかったみたいだが。

 興味があるのか、ウソップも覗き込んで歓声をあげた。



 パックルを直接手に取ってサンジが嬉しそうに笑う。


 ―――― この顔が見たかったんだよな。


 気づいた。



 俺、お前に喜んでもらいたかったんだ。





「誕生日おめでとう、サンジ」
 あんなに言えなかった言葉がするりと出てきた。



「おう !、クソ嬉しいぜ !」
 俺を見て、にかっと笑うサンジ。

 その笑顔は、想像したよりずっと嬉しそうで、ずっとカワイかった。







 もっとロマンチックな雰囲気を望んでいたが ――――――
こんな誕生日もいいかな、と幸せになれるくらいに。




































 俺の名はロロノア=ゾロ。
近い未来の大剣豪。


 またの名をイベント男。



 俺は負けない。
愛しのハニーとのピンクな時間を過ごすため、今日も明日も俺は戦う !!。




 待ってろよサンジーーーーーーっっっっっ!!!。







 

おわり






「そう! 俺の名は・・・」の続きは、『イベント男』でした。
ゾロってイベント男の対極をいってそう(行事に疎そう)なので、あえてチャレンジ。
スミマセン・・・・・・。サンジさん、誕生日おめでとうv。
By.伊田くると
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ゾロ 「次の戦いは4月1日、エイプリルフールだな!!!」
ナミ 「それってコイビトのイベントじゃないと思うけど・・・」
ウソップ 「ってか俺の誕生日なんだがな・・・そっか・・・お前には関係ねぇのか・・・」