ひと騒動あった通りを抜けて、目に付いた いい香りを出す定食屋に入り、ちょっと時間外れのメシになった。
食べたばっかなのに、やはりこの兄弟に常識は通用しないのか、エースはまたも三人前以上を平気でたいらげている。
それにつられたのか、最初は遠慮がちだったガキ (そいや名前聞いてねーや・・・、ま、今さらか) も、けっこういい食べっぷりだ。
俺も朝は食欲なくて食ってなかったが、やはりふたりにつられて いくらかハラに入れた。
庶民的な味でなかなかおいしい。
そう言うと、
「おう。でも、お前のメシのが何倍もうまいぜ」
エースは口一杯ほうばりつつ答える。
「・・・・・・」
料理を褒められるのは何より嬉しい。しかも、こんな、当たり前みたいにひょいっと言われるのは
かなりポイントが高い。
「おうっ、まあな!!」
思わず、浮かれた口調になってしまった。
「あんた、料理なんかできんの?」
フォークの持ち方がちょっとヘンだが、一生懸命ナイフとフォークを使って肉を切り分けていたガキが尋ねてきた。
すこしは打ち解けてきているらしい。俺とエースの会話を興味深げに聞いている。
皿を俺のほうに引き寄せて、肉を食べやすいサイズにカットしてやりつつ、
「俺はイースト・ブルー1のコックだぜ?」
「コックなのか。すげぇ!!」
おお!、ガキにまですげぇとか言われちゃってるよ俺!!。
と、また嬉しさゲージが上がってた俺だが、そいつの続けた言葉にガクっと肩をおとした。
「全然見えねぇ!!」
なんだそりゃ!!。
すげぇってそっちかい!!!。
そりゃ、俺はバラティエでもウェイターに間違えられてばっかだったがよ!!。こう見えても副料理長はってたんだぜ?。ったくよー。
文句を言ってやろうとしたが、その前にガキが笑った。
「あんた、優しそーだからさ」
―――― は?。
イミがつかめなくて、ナイフを使う手が止まった。
そんな俺の代わりに、
「―――― コックってのは優しいんだぜ?」
エースがグラスのワインを飲みながら口を出す。そういうエースの声も優しげだった。
が、ガキはその言葉に首を振る。
「優しくねぇよ。だって俺、ひでぇ目にあわされてばっかだし」
「・・・・」
―――― あー、そっか。こいつ、食い物欲しさに泥棒してるヤツなんだっけな・・・。
ワケのわからなかったコメントに合点がいった。
この年だと、店員とコックの差ってのもよく分かってないんだろうが、確かに、つかまったらひどい目にあわされるのは当たり前だ。自業自得って言や
それまでだが、そうせざるをえない事情ってのもあるんだろう。
「・・・・っ」
つらい記憶を思い出したのか、ガキがうつむいて押し黙る。
泣くかも・・・、と思ったので、ガキから目をそらしてまたその頭をなでてやった。なでるというには乱暴な手つきだが。
「ハラへってるヤツには食わせるのがコックだ」
それは『優しい』というよりは、俺にとっては当たり前の『主義』と言ったほうが近かったが。
ガキは答えない。
案の定、小さく嗚咽して肩を震わせたので、やっぱ泣いちまったかー、と、ちょっと困った。泣き虫なとこまでガキの頃の俺に似てやがる。
どう対応すればいいか分からない。基本的にガキには慣れてない。つきあいがないのだ。あまりつきあいたくもねぇし。
仕方ないので放っておいて、俺だけしゃべることにする。
「ホントは俺の手料理食わせてやりてーんだけどよ。海賊船にガキ連れてくわけにもいかねぇしな。海賊船のコックやってんだぜ、今は」
―――― こうしてただ ご馳走するより、ハラへったヤツにはテメェでメシ作ってやりてぇと思うのは、やっぱコックのサガなんだ、と思う。
かさついた感触の髪をぽんぽん叩いてやりつつ、俺はまたルフィを思い出した。
―――― ハラすかしてねぇかな・・・。
ちゃんと食ってやがんのかな・・・あいつ。
年がら年中空腹状態だけど。
さすが たくましいというべきか、ガキはすぐに泣き止み、また食うのを再開した。
きちんと全部食ってから、ガキなりの誠意いっぱいのタイドで礼を言われる。そんなつもりはまるでないだけに、逆に照れてしまう。
―――― 捨て猫に、気まぐれで一度のメシをやったわけじゃない。
ほどこしだとは思っていない。
そして、こいつを救えたとも思わない。明日、またハラが減った時どうするかはこいつ次第だ。
ガンパレよ、というのも自分には合わないと思ったから、ただ黙ってしまう。
そこに、テンガロンハットを指で回転させながら、エースがガキに目線をあわせてしゃがみ、
「今度はヘマすんなよ」
ルフィみたいに しししと笑ってそう言う。
海賊らしいそのセリフ。
思わず笑ってしまう。
ガキも、
「おう!!」
と、やっぱりガキの顔で笑った。
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