―――― 参りましたね、これは。


 俺は内心つぶやいた。


 俺って、けっこー運悪い?・・・ってか日頃の行い悪い?・・・・・なんて、ガラにもなく考えちゃったりして。






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 ―――― で、事態はどーなったか時間経過で話してくと。





 ワケも分からないまま風呂場に乱入されて、呆然とした俺。

 でもそれは乱入した側も同様だったらしい。


 場は固まった。



 エースだけは、
「よぅルフィ!!」
 とか弟にのん気にアイサツしてた気もしたが、ルフィも俺も、ゾロもウソップも石と化していた、マジで。


 俺は硬直して、肩におかれたエースの腕をほどきもしないまま、浮かびよーもない イイワケを必死に出そうとしてたし。


 ルフィはヤツらしくもなく俺とエースを見比べて、続く言葉がないようだった。

 ゾロも似たカンジだ。
ウソップは顔を真っ青にして「あわわわわ」ってな慌てよう。




 そのまま どのくらいの時間がたったかはナゾだが、しびれを切らしたナミさんが様子を見にやってきたくらいだから、けっこーな時がたってたのかもしれない。






 ―――― と、ゆーワケで、俺とエースの『誰にもバレやしない』はずのいろんなコトはアッという間にバレた。クルー全員に容赦なく。







 ―――― 参りましたね、これは。


 っていう、俺の感想も分かるだろ?!!。



 でもさー、それだけじゃねんだよ。

 そもそも、いくら風呂場で長々とイロイロとねちっこく ヒト様に言えないコトをやってたとはいえ、ある程度の時間読みはしてたんだ。


 島で最も栄えてる港町に出かけるとき、ナミさんは船番の俺をねぎらった後、「明日の昼には戻るからね」って言ったんだぞ?!。
 俺は「ごゆっくり」って返したし、自分が買い出しに行く時に船番として誰かひとりいてくれればいいから、って説明したら、「じゃあゾロがいいかしらね」ってナミさんも答えたから・・・。
 てっきり、夕方あたりまで帰らないとも思ってたんだが・・・。


 その日はみんな町の宿に泊まるってことで、まぁだからこそ、夜の甲板なんてトコでエッチしたりもしてたんだが。




 ―――― それがなんでこんな早く、しかも全員帰ってきてんだよぉぉぉぉーっ!!!。


 叫びたい気分だった。



 念を入れて、昼前にはフロを出て服着てフツーにしてるつもりだったのに!!。
いい加減ハラもへってきてるし、エースにメシでも食わせてやるつもりだったのに!!!。




 ―――― ナミさん達は予定より三時間以上も早く戻ってきていたのだった。


 その理由は・・・・。





キッチンのテーブルの上に置かれた、大きなケーキ。
色んな ご馳走。
花束。
テーブルのわきに置かれてるラッピングされた箱。


 ケーキの真ん中には、ピンクのストロベリーのクリームで『ハッピーバースディ』の文字。



「・・・・・・・・・・」
 ホンキで忘れてた。





 ―――― 誕生日だわ、俺・・・・。





 つまりクルー達は、この日のためにわざわざ島に上陸して。
俺ひとりを船に残して、ケーキやメシの手配とか、プレゼントとかを用意してくれてたらしくて。
 俺がいないうちにキッチンを飾り付けて。セッティングして。
俺を呼んでバースディパーティ・・・という流れを作ってくれてたらしくて。



 そのめでたい日に。



 俺ってば、そんな優しい仲間たちに、あーんなトコを目撃されちゃった、と。
 





 ―――― 参りましたね、これは。






 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・そう思うに、十分な状況・・・だろ?。











 にぎやかで、そして幸せなバースディパーティが行われるはずのキッチンは すっかり色を変えていた。


 そう、デカチョーの取調室だ。


 俺とエースは並んだイスに座らされていた。被疑者席だ。

 テーブルを挟んで、その前にずらっとみんな・・・さしずめ刑事、だな ―――― が勢ぞろいしている。


 この緊迫した空気の中に挟まれている料理たちが ちょっとカワイソウではある。






「で」

 風呂にやってきて、石化した時間をまた復活させてくれた女性・・・ナミさんは細い指をこめかみにあてて低くつぶやいた。
 美人は悩んでても美しいなぁv・・・なんてセリフは、今は言わないのが身のためだと分かっているので思うにとどめておく。

 ナミさんはちらっとエースを一瞥した。

 もちろん俺もエースもちゃんと服を着ている。いろいろ見られたくないものもあるから、きちっとスーツの上下だ。
 エースはもともと上は着てねぇけど。まあ、背中に爪あと残すよーなマネはしてないんでそれはいい。愛用のテンガロンハットも室内なのになぜかかぶっている。


 どーでもいいが、俺とエースの身体にはきっとあの入浴剤の香りが強く残っているはずだ。あんな濃い湯に何時間もつかってたんだから、相当強いはず。


 恥ずかしい。
なによりそれが恥ずかしかった。




「とりあえず何か言いたいことはないの?、サンジくん」
 エースから俺に視線を移して、ナミさん。
言いたいこと・・・、あるような気もするが、分からない。

「ない・・・です」
 そう答えるしかない。
勝手に使っちゃった入浴剤の件はエースのせいだし、蒸し返したくないから口をつぐむ。


 なんでか分からないが、クルー達の空気はびっくりするほど重かった。
珍しい気配に、俺は多少不安になる。



 ―――― ここまで深刻なのって、ヘンじゃねぇ・・・?。



 ひと言で言ってしまえば、濡れ場を目撃されただけの話だ。

 パーティの準備をしに帰ってみたら俺がいつもの定位置のキッチンにいなくて、しかも甲板の上に無造作にジャケットが放り投げられてたもんだから、心配して探し回ってたら風呂にふたりでいたってだけで。


 濡れ場つったって最中でもなく事後のことだし、まあその相手が同性で、おまけに船長の兄だったというのは問題かもしれないが、それにしたって。


 この、責めてる空気はなんだろう。




 ―――― 責めてる?。





 そうだ。
キッチンに入ってからずっと感じてる重圧はそれなんだ。




 ―――― 悪いことしたみてぇ。




 責められてる気がする。
なじられてる気がする。




 ―――― なんで?。




 冷たい視線が、ある気がする。





 知らないうちにうつむいていた。
心のどこかに罪悪感がある。なんでだ?。


 タバコが吸いたい。ずっと吸ってないから いい加減つらい。
唇をかみしめた。





 そこに、横からさっきとまったく変わらないのん気な声音。
あまりにも場違いだった。



「お前誕生日なの?」
 エースだ。


 全員がエースに注意を向けたのが分かる。
俺は首だけでエースを見やって小さくうなずいた。

「いくつになんだ?」
「二十歳」
「今日から俺と同い年だな!!」
 エースは笑う。冷たい雰囲気が溶けた。そう感じた。



 ナミさんが苦笑した。とりあえず、不問にすることにしたらしい。
「そ。だから用意してたのよ。冷めちゃったけど・・・サンジくんの腕にはかなわないけど、この私が一生懸命作ったのもあるのよ」
 それに合わせてウソップがうんうんとうなずく。
「ほとんどホテルで注文したヤツだけどな!!」

 テーブルの上に並んでる料理は、なるほど確かにプロの仕上げのようだ。こっている。俺が見たこともない料理もあった。この土地のものだろうか。
 数個、キッチンの皿の上にもりつけられているシンプルなサラダやつけあわせ。これがナミさん手作りのものだろう。


「嬉しーですーっvvv」
「食べましょ。サンジくん、誕生日おめでと!!」

 明るくナミさんが言ってくれる。
良かった、いつもの雰囲気だ。


 そう安堵した途端。











「俺いらねぇ」





 驚くほど冷たい声。


 ルフィだった。



 そのまま、ドアに向かって歩き出してしまう。
何も言わないで、俺の隣を通り過ぎた。


「っ!!」
 慌てて視線を向ける。
ほんの一瞬だけ、確かに俺を見た。視線が合う。



「・・・・・・・」



責められてる気がしてた。
なじられてる気がしてた。


 冷たい視線が、ある気がしてた。






 ―――――― ルフィ・・・・・・・・。

 




 かち合った視線はすぐにそらされ。






 麦わら帽子は、閉じた扉の向こうに消えてしまった。








つづく


 



エース 「誕生日パーティねえ。ホント仲いい海賊団だなぁ」


02 4 21

そうです・・・元々はコレ誕生日ものだったんです・・・・。
伊田くると