「相性いいと、思わねぇ?」



 ふいに問いかけて
 ソイツは笑う。






LIKE LOVE
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 俺より・・・、確かひとつ上・・・だっけ?。
なのに、ニッと笑ったその顔は やけに ガキっぽくて。


 ―――― あー、ルフィに似てんだな。


 ここにはいない船長を思い出した。
そんなに似てないと思ってたが、やっぱ兄弟だからか、共通したもんを感じる。

 ヒトの言い分を まるで聞かなそーな強引さとか。
今の、イタズラが成功したみたいに笑ってみせるトコとか。



「知んねー」
 エースの言葉に、俺は深く考えずに答えた。


 答えた後、今の『相性』ってのはカラダのことをいったのか、性格についていいたかったのか、ふと疑問に感じたが、ノドが痛かったので口にするのはヤメた。

 胸ポケットに入れてたはずのタバコが吸いたいが、ジャケットが見当たらない。どこで脱ぎ散らかしたのか もしくは脱がされたのか、記憶をたどってみるが浮かばなかった。


 むりに上体を起こして手すりにもたれかかる。絶えず耳に響く波音。
冷たい潮風に髪が持ちあげられた。




 ―――― 信じらんねぇ、俺ってば甲板でイタしちゃったワケ?。


 視界に入るのは自分の『家』と化した船の甲板。船尾側だ。
夜闇でまぎれてたとはいえ、場所を選ばなすぎな自分にあきれてしまった。


 腰も背中も、腕も足も痛い。
身体の下にぐちゃぐちゃになったシャツがあったので慌てて羽織った。


 目の前の男は普段からなぜか上半身ハダカだが、俺にはそんなセクハラな趣向はない。







「この船フロあんだろ?。連れてくよ」
 俺の緩慢な動作から身体の不調を察したらしく、エースがそつなく申し出た。


 先ほどから冷えていた両肩をいたわるようにシャツの位置を直してくれる。手の動きは紳士的といってさしつかえない、丁寧なものだった。
 無茶をしたのは自分だと 多少は責任を感じているのかもしれないが、レディでもないのに気遣われるのは なんとなく気恥ずかしい。
 




 なにより恥ずかしいのは、コイツがルフィの兄ということだった。


 ――― 知り合いの身内!!!。


 考えたくねぇ・・・、こいつ、ルフィと血がつながってんだぞ?。アイツと同じレディから産まれてんだぞ?? (←おそらく)。

 一緒の家で生まれ育った、まぎれもないキョーダイ!!!。


 ルフィの身内と!!。
何やってんだよ俺はーっ!!!。



 思考をめぐらせていくと心底なえた。


 数時間前まで、そんなこと よぎりもせずにふたりでイロイロ、それこそ女の子相手じゃできねーよーなコトまでしちまったわけだけど。


 ―――― そーだよ、コイツ ルフィの兄貴なんじゃん・・・。


 さすがに俺、ちょーっとモラルなってねーっつーか なんつーか・・・・。



「??。どしたんだ」
 頭をかかえた俺に、フシギそーにエースが尋ねる。

 声は全く似ていない。陽気な口調だが、ほんの少し金属的な響きを持った声音だ。






 ―――― ま、いっか。


 どーせ誰にもバレやしねぇし。こいつも弟に言ったりしねぇだろーし。今日限りの限定エッチだし。
 なによりサービスしてもらって、痛いは痛いが楽しかったし。


 やっぱ具合悪いのか?、とか いろいろ言ってくるのを聞き流しながら、俺はアッサリ頭を切り替えた。

 もともと、あまり深く考え込むタチでもない。もっと言うとモラリストでもない。




 顔を上げた。
いつの間にそんな時間になってたんだろう。目の前にいる男の広い両肩ごしに真っ赤な朝日が見える。



 だるい右手を肩の位置まで持ち上げた。

「フロに連れてけ」
 エラそーに命令してみる。




「・・・喜んで」
 わざと、キザったらしく微笑んで、キザったらしく俺の手に自分の指をからめて。



 軽々と抱き上げる、手馴れた仕草。




 ―――― コイツのこーゆー、シャレっ気のあるトコはキライじゃねぇな。

 なんとなく考える。




 別に歩けんだけど。身体いてーったって、ケガとかの痛みじゃねーし。



 ―――― でも、文句は言わないことにした。
年上のヤロウには、容赦なく甘えて利用するもんだと昔教わったしな。


 こいつ、けっこー甘い男みてぇだし。









 ―――― 相性?。


 ―――― うん、悪くはないよな。











 あいも変わらずグランドラインを航行中の俺たち麦わら海賊団は、現在、とある島に停泊中だった。


 なぜその島に寄ったのかは分からない。食糧は前の島で十分補給してあったし、船の修理もせっぱつまったものはない。たまたまログの通り道の近くにあった島らしい。
 上陸を決定したのはナミさんだったから、俺に反対する理由なんか何もないけど。


 島には2日ほど停泊する予定らしい。
じゃあ買い出しは最終日でいいだろう。俺は即座に判断した。
 せっかく陸につけたんだから、不足しがちな生野菜類はやっぱり仕入れたい。



 当然、陸におりるといっても、船をカラにするわけにはいかなかった。
一見商船に見えるゴーイング・メリー号だから、海賊船よりもよからぬ輩に目をつけられやすい。
 実際にナミさんの部屋には かなりの宝がしまってあるしな。

 とどのつまり、非常事態に対応できる戦闘員が残ってなきゃなんないわけで、今回の居残り船番は俺となった。



 ルフィは知らない土地といったら、『冒険』かまさなきゃ気がすまないヤツだし。

 ゾロ改めクソマリモは前回上陸した島に鍛冶屋がなかったせいで ずっと不機嫌だったから、真っ先に愛刀の手入れをしたがるだろうし。

 ウソップはいても役に立たねーし。チョッパーは陸で薬を補充する用があるし。

 俺のしたいことっつったら当面はナンパだけだしな。
仕方ねぇ、譲ってやろう。


 オトナな俺はそう判断したってワケだ。
どうせ一日だし。明日の昼には買い出しに行く俺のかわりに誰か船に戻ってくるし。


「ごめんねサンジくん。船番よろしくね」
 ってナミさんも言ってくれたしな!!。








 そんなくだりで、ひとりで船に残ってキッチンの整理なんかやってた俺だが、ホントにはずみとしかいいようのない流れで―――――― 、停泊中のゴーイング・メリー号を見かけてやってきたという、コイツと寝てしまった。




 ―――― ポートガス=D=エース。



 のん気に鼻歌なんか歌ってる男。


 俺の知らない曲だった。さっきから同じ所を繰り返してるから、こいつもサビしか知らないのかもしれない。

 俺のまん前で湯につかってるエース。
よく分からないが、上機嫌ぽい。


 わかんないといえば、こーしてふたりでフロ入ってる状況も分かんねーってハナシだけどよ。


「ヤロウとフロってサムくねぇ?」
 俺はガックリと肩をおとしてみせた。


 この船備えつけのフロは狭くはないが、もちろんひとり用だし、俺もエースも長身の部類だからわりとキツイ。向かい合って座ってるこの体勢だって、けっこーヤバイと思うし。

 まあ、入浴剤のおかげでお互い肩から上しか見えないからいいけど。



 ―――― 大体コレ、ナミさんのヤツだぜ?。

 濃いピンク色に染まった湯をちょっと指ですくってみた。強く香る花の芳香。

 勝手に使ったら怒られるよなー・・・でもエースのヤツが面白がって、止めんのも聞かずに、しかも大量に入れやがったんだよなー・・・。この不透明な濃い色と香りからして、絶対適量超えてると思うが。




 肩を落とした俺と対照的に エースは笑った。
「ほかのヤロウだったらサミぃけど、お前となら金払ってでも入るぜ!!」
「俺はソープ嬢か!!!」
 どーん、と言い放った男に ついツッコミを入れる。またエースは笑う。つられて俺も笑う。



 そーだ。はずみってよりか、こんな流れで、流されてエッチしたんだった。



 ――― 思い至る。


 俺ってホント、会話のテンポの合うヤツに弱いんだよなー・・・。

 弱いったって男だぜ?。ヤロウだっつーの ( しかも仲間の身内だし)。




 ―――― 参るよな・・・。






「バーカ」

 罪悪感のカケラもない笑顔のこいつがにくらしくなって、手ですくった湯をエースにひっかけた。思ったよりずっと勢いよく、水がエースの顔にかかる。



 突然そんなことされたのに、エースはとがめずに薄めの唇をもちあげて微笑んだ。


 俺がかけた湯がルフィと同じ黒髪をぬらして 頬を伝って落ちていく、いく筋かのライン。


 微笑んだまま、なのにやけに真剣な視線がはっきりと俺に向けられて、思わず身体が硬直した。



「・・・」
 レディに感じる感情ともまた違う、それは欲情だった。




 キスしてぇ、と思った瞬間、エースの唇が重ねられて。







 せっかくさっき後処理したばっかなのに、とか。
何回ヤんだよ、身体もたねーよ、とか。

 昼には誰か戻ってくる予定なのに、バッティングしたらどーすんだよ、とか。

 いろいろよぎったけど。





 ―――― どーせここ、風呂場なんだし。
身体は、ヤって欲しがってるし。


 誰か帰ってくんのは昼だ。多分ゾロだから昼過ぎも過ぎだろう (道に迷ってなければな)。今からヤっても会やしねーか。


 なんて。
カンタンに理屈をつけて、軌道修正してしまった俺は。



 エースの首に濡れた両腕を回して、さらに深く口付けた。











「―――・・・湯当たりしちまいそー・・・」
「こんな長ブロは初めてだな」



 結局、どっちもやめないままフロエッチまでしちゃった俺たちは、終わった後も まだウダウダと湯につかっていた。
 いい加減湯も冷めてきているが、あがるキッカケがないまま のんびりしちまってる。


 ―――― さすがに身体もダリぃし。


 もともと、俺ってあんま濃いエッチってしないタイプなんだよな・・・、相手に気、遣うし。
 今回はその『相手』がヤロウだったせいか、そーゆー遠慮とかを どっかに置いてきちまったから、かなり・・・・まあ、そーゆーことになってるんだけどよ。



 隣の男に話しかける。
「初エッチで野外とフロって、とんだヘンタイみてーじゃねえ?」
 初エッチで場所変えて2回もきっちり本番やってるってのも、けっこーなもんだしよ。


 エースも納得顔でうなずいた。
「確かにな。じゃー次は正統派にベッドか?」


「あ?、次って、次なんかあんのか?」
 未練っぽく言ったわけじゃなく、ホントに疑問に思って口にした。



 すると、とたんにエースは不機嫌になる。眉にはっきりとシワがよった。
うわ、コイツのスネたツラ、ルフィそっくりじゃん!!、ガキかよ。
 吹きだしそうになってしまい、あわててこらえる。




「なんだよその一回きりみてーな言い草」


 ―――― 言い草って言われても・・・。


「・・・・・・」
 返事につまった。



 何も約束などかわさなかったが、暗黙のうちに『一夜の遊び』ってことで まとまってると考えてたのは俺だけなんだろーか。




 ムッとした表情の出し方が、よく似ている。

 笑顔よりも。

 そのカオは年下の船長を想起させた。



 だから、エースが怒っているというよりはスネている、ムカつくというよりは伝わらなくて もどかしがっている、というのがよく分かった。




 ――――。

 エース。


 海賊やってるというこの男とは、まだ通算して二度しか会ったことがない。
初対面もいいトコなんだが、長いつきあいのルフィのおかげでなんとなく、この男の心情が推し量れる気がした。


 ―――― コイツ・・・。



 俺の想像以上に、ルフィに似てんのかも。



 口で説明するのがヘタだとか。
説明しないでも伝わると考えてるらしいトコとか。
だからこそ、いきなり行動にでるトコとか。



 そう考えてみて、心のどこかがホッとした。


 何も約束なんかかわさなかったから。
お前が、『一夜の遊び』ってことにしてるんだと思ってたぜ?。






「一回きりじゃヤなのかよ?」
 尋ねてみた。笑いたくなる。





 ―――― お前がそのつもりだってんなら

 ―――― 俺もそれでいいけど。





 それは、口に出してやんねーけど。



 相手の反応は天邪鬼な俺と違って素直そのものだった。

「ヤだ」
 きっぱり断言。


「お前は?、サンジ」

「・・・・―――」

 エースの質問にどう答えようか、一瞬悩んだが。
それより先に質問した当人が笑って宣言した。

「まーいーや、お前がどー思ってても、あきらめねぇし」



「あきらめねぇの?」
「あきらめねぇよ。相性いいって言ったろ?」


 ああ、言ってたよな。
その口調から判断すると、あながち『カラダ』だけってハナシでもねぇのかな。




 ―――― そーゆー、押しまくるタイドもキライじゃねぇな。






 俺、くどくのもスキだけど、くどかれんのもスキなんだよ。






「相性ってセックスの相性かよ?」
 否定しなかったら即座に殺すと決めつけつつ尋ねてみる。


 そんな俺の内心を知ってか知らずか、エースは笑って、力強い腕で俺を抱き寄せた。










 ―――― その時。




 乱暴にドアが開く音。


 えっ?!、
と思う間もなく、複数の気配が近づいて。



 制止の声などひとつも出せないまま、脱衣所のドアに続き、問答無用にフロの扉がぶち開けられた。



 目の前に立っているのは。


 ルフィ・ゾロ・後ろにウソップ――――――。




 で、こいつらが見てんのは。



 俺とエース。



 一緒にフロに入って。
だけじゃなくて、エースの右腕は俺を抱き寄せたまんまで。







「・・・・・・・・・」



 俺は思った。







 ―――――― こりゃ、イイワケのしよーもねー・・・・。
 





つづく



サンジ 「『ソープ嬢』っつったけど、俺 実は行ったことねぇんだよなソープって・・・」
エース 「今度一緒に行くか?」
サンジ 「・・・・・・・・・・」

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ホントに言い訳のしようもないよサンジさん・・・。
By.伊田くると