だからきっと大丈夫




  ―――・・・どうしよう・・・。




 頭の中で、さっきから何度も何度も繰り返していた単語を、飽きもせず またどんよりとつぶやいた時、後ろから聞き覚えのある声がかかった。



「イルカ先生」


 振り向くと、そこにはかつての教え子 ――― の中でも もっとも優秀な成績で卒業した、うちはサスケの姿があった。
 コドモにしては落ち着いた物腰で、小さく会釈をする。


「あ、サスケ。よぉ、ひさしぶりだな !!」
 あわててアイサツを返したが、こんなに近くにくるまで気配を感じなかった自分に少しあきれてしまった。

 いくら考え事してたからって・・・。


 鬱々と、マイナス思考の海に沈み込みながら歩いていたので、自分の家を通り過ぎて サスケの自宅近くまで足をのばしていたことにようやく気づく。
 この辺りはあまり人家もない。
夕刻を過ぎると、人通りも絶える。

 だから、
「こんなトコまで、どーしたんだ?」
 そう尋ねてくるのは しごくもっともで。

 オレは苦笑いして答えた。
「あー、・・・サンポ、みたいなモンかな?」

 ちっとも気分は晴れないけど。
人の感情に聡いサスケは、オレのタイドからなにかを察したのか、眉をひそめた。


「・・・なにか、あったのか?」

「・・・・・・」
 ごまかすコトバが瞬時に何個か頭に浮かぶ。
やろうと思えば、そのままウヤムヤにだってできる。サスケだって強く追及はしてこないだろう。
 けれど、それをしたくはない。
他者には冷たくうつる無表情の中にも、自分を気遣ってくれるサスケのキモチが分かったから。




「・・・実は、カカシ先生に・・・」
「なんかされたのかっ!!?」



 オレの言葉を待たず、常にない剣幕でさえぎったサスケ。
そこにはビミョーに、殺気にも似たオーラがただよっている気がする。
 ―――― のは、やっぱ気のせい・・・だよな、うん。担当教官に殺気なんて持つワケないし。ちょっと自分に言い聞かせておこう。


「?、サスケ?、どーし・・・」」
「あのヤロウ・・・あれだけクギさしといたのに・・・!!。なにされたんだ?!、先生!!」

 オレの両腕の袖をつかんで真剣な目のサスケに、事態が分からないまま、マヌケな声で答える。

「いや、なにもされてナイけど・・・?」
「そうなのか?。ホントに?」
 まじまじと確認するようにオレのカオを見上げ、サスケはホッと安堵のため息をついた。


 ―――― なにを心配されてるんだろ・・・オレ・・・。
少し不安になる。






「ならいいけど・・・じゃ、どーしたんだよ」
 話題が戻ったようだ。

 こんなこと、(元)生徒に気軽に話す内容じゃないんだけど・・・。
そうは思いつつも、相手がサスケだし、と甘えて、つい素直に口にだしてしまう。



「カカシ先生に・・・ひどいこと言ったんだ・・・オレ」





      『ナルトはアナタとは違う!!』





「あんなヒドいこと、なんで言えたんだろう・・・最低・・・」


 そんなこと、思ってないのに。
あれじゃあ、まるで。

 幼くして、忍になって。
ナルト達と大してトシの変わらない時分には、既に暗部所属だったと聞いた。



 ―――― あのヒトのこと、オレがまるで・・・。

同じニンゲンじゃないって、思ってるみたいじゃないか・・・。




 ・・・さすがに、遠慮なく突きつけた、あのセリフだけはサスケにも言えないよな・・・。



 自嘲的に考える。
オレって、ホント最低・・・。

 なんてヒドイ、拒絶の言葉だろう。





「・・・カカシのヤツ、それで怒った?」
 オレを無言で見上げていたサスケが、静かに尋ねる。


「・・・どうだろう・・・あのヒトの考えてることはわかんないけど・・・。でも、キズつけた・・・と、思う」









 ―――― あの場面。

 中忍推薦の話題があがった、会議中。
ここ数年なかったことなのに、上忍の教官がそろって新人下忍を推薦した。


 どんな意図なのかまるで分からない。
タチの悪い冗談にしか見えず。

 まずオレがカカシ先生にくってかかって。
信じられない険悪な雰囲気。
 仲裁のタイミングでガイ先生が入ってくれたことで、場はなんとか終わったけれど。


 おかしな空気のままだった会議の後、カカシ先生はいつもと同じやる気のない歩き方でオレの所に近づいて。
 ポン、とオレの右の肩を軽く叩いた。

「イジワル言っちゃってスミマセン」



 ・・・それで終わり。



 唯一うかがえる右目からは、なんの感情もよみとれなくて。

 オレは、自分が感情のまま、あのヒトに叩きつけたセリフを思い出した。




          『ナルトはアナタとは違う!!』












「まあ、別に心配しなくても、アイツが先生を嫌いになるなんてコトはないと思うケド」
 サスケはオレの右斜め、数歩先を一定速度で歩いていく。
ポケットに両手を突っ込んだまま。アカデミーにいた頃からのクセだ。



「――― 先生のが、よっぽどキズついてんじゃないの?」

 ふいに、低い声で尋ねてきた。
どこか冷たい声音で。


「・・・・・?」
「そんなにアイツに嫌われたくない?」

「・・・・・・」


 なに言ってんだ・・・?。
オレに背を向けて話すサスケの表情が見えない。




 ―――・・・『嫌われたくない?』




 そんなの、当たり前じゃないか。


  
 オレはカカシ先生のこと、忍としても人間としても尊敬してるし、キズつけたくなんてなかった。

 ナルトとは違う、なんて。

 あんな最低なセリフ、ぶつけるつもりなんてなかったんだ。





 敵からも、そして味方からもおそれられる写輪眼の持ち主で。
数え切れないほどの死地を見ている人。
 つらいとか苦しいとか、そんなのおくびにも出さないけど、なにも感じてないワケがないのに。



「サスケ・・・?」
「あんたって、ホント、自分のことにはドンカンなんだな」


 いつのまにか足をとめてしまっていたオレに、振り向いたサスケはトシに合わない苦笑を浮かべ、ゆっくりオレのところまで戻ってきてくれた。
 道は小石が多いので、サスケが歩くたび、石と石がかちあう音がする。



 そして、

「先生、ちょっとかがんで」
「?」

 制服の袖をひかれて、いわれるままにすると、サスケがポンとオレの頭に手をやった。



「・・・サスケ?!」
 驚いて立ち上がろうとするオレに、そのまま、と小さく制して、サスケが頭をなでる。




 ―――居心地ワルイよーな、いたたまれないよーな・・・。

 どーしよ、と内心わたわたしてるオレに、元生徒は笑う。


「あんた、泣いてたり落ち込んでる生徒に、いつもこうしてやってるだろ」
「・・・え・・・」

「オレは・・・別に泣いたりはしなかったけど・・・先生にこうしてもらうと、元気でたから」
 そこまで言うと、サスケは夕焼けのせいでないと分かるくらい赤面してうつむいた。




「サスケ・・・」
 オレのこと、励ましてくれてるんだ・・・。



 嬉しい、なんて言葉じゃいい足りない嬉しさが広がって、思わずナルトにするのと同じようにサスケを力いっぱい抱きしめた。


「わっ、せ、センセイ・・・っ」
 一瞬、ビクっと身じろぎしたサスケだが、しばしするとまた優しく髪をなでる手を再開してくれる。
 その感触が心地いい。




「ありがとな、サスケ。許してくれるか分かんないけど、オレ、カカシ先生に謝ってみる。あんなひどいこと・・・ホントにそんなこと思ってないんだ・・・信じてもらえるかな?」


「・・・大丈夫だよ、センセイ」


 オレがしゃがんでるせいで、サスケの声がいつもより高い所から響く。
耳に近く、とてもやわらかい声音。



 ―――・・・なんだろ、ナルトだと、抱きしめるってカンジなのに。


 サスケって、オトナびてるからかな。
すごく、ホッとする・・・・。





 なんだか勇気が湧いてきた。


 ――― 明日、カカシ先生任務じゃないよな。
会ったらちゃんと謝ろう。
 彼の考えとオレの考えが違うのは仕方ないことだけど、オレはカカシ先生が嫌いなんじゃないって、ちゃんと言わなきゃ。

 あんなに暗い気分だったのに。
サスケのおかげで、浮上できた。





「ありがとな、サスケ」


 







つづく


 一本にまとめたかったんですが、キリがいいので二回に分けることにしちゃいました。
読んでくださってありがとうございますーv。
 チヒロ様のキリリクの『カカイル』なのですが、前半カンッペキにサスイル・・・・・・・・・。
すっスミマセンーっ!!。後半よーやくカカシ登場です。

 はい、今さらこのネタやんなよってカンジですね(←分かっててやるかコイツ)。
久しぶりに単行本読み返したら、どーしてもこの辺りの話が
書きたくなってしまって、ついやっちゃいました。

By.伊田くると








サスケ 「俺の家の付近はイナカなのか・・・(怒)」
イルカ 「人通りのあるところであんなコトされたら、さすがにオレもイヤだな」

 01年7月16日