だからきっと大丈夫 2
「あのー」
「わっ」
「・・っ!」
突如、頭上からふってきた間延びした声に、オレとサスケはそろってガバッとカオを上げた。
そこには予想通り、灰色というより銀に近い髪の上忍が、形容しがたい表情を浮かべてこちらを見下ろしていた。
「カ・・・カカシ先生っ!!?」
「てめー、なんでこんなトコにいやがる !」
「・・・ふっふっふっ、甘いなサスケ。イルカ先生あるところ、常にオレもある!!。覚えておけ」
「それを世間じゃストーカーというんだ!!」
「・・・・・・っ!」
仲良く会話しているカカシ先生とサスケをそっちのけに、オレはひとり、バクバクいう心臓と戦っていた。
――・・・・どっ、どうしよう!?。
カカシ先生が、突然に、どこから出てきたのかもナゾで、すごく気になるんだけど、それよりなにより !。
――― あやまんなくちゃ、あやまんなくちゃ・・・。
しかしあまりに突然すぎて、言葉が出てこない。
そんなオレを、サスケとの対話がひと段落したカカシ先生が一瞥した。
かちあう視線に、思わず身体が硬直する。
「・・・あのー・・・そんな緊張しないで下さい」
きっと覆面の下は苦笑しているんだろう、困った声のカカシ先生。
「カっ、カカシ先生っ、オレあのその・・・」
あやまんなくちゃあやまんなくちゃ・・・。
さっきから、このコトバだけが頭をぐるぐる回っている。しかしセリフはひとつも出てこない。
――― なんて機転がきかないんだ!!、オレってば!!!。
我ながらアホすぎる。
「・・・いーんです。オレ、ほんとに気にしてナイですって」
地面に情けなく座ったままのオレに合わせて、カカシ先生もすっと腰をおろす。
そして、さっきのサスケと同じように、オレの頭を『いいこいいこ』のしぐさでなでた。
サスケより大きい、当たり前だがオトナの手だ。
なんとなく気恥ずかしい。
カカシ先生がこんなタイドをとるってコトは―――。
「・・・ひょっとして、さっきの・・・聞いてました?」
おそるおそる尋ねてみる。
サスケに相談したトコとか、サスケがオレの頭なでたコトとか・・・・・。
否定してほしかったのに、それはアッサリ裏切られた。
「ハイ、全部。集会場からずーっと尾けてたのに、イルカ先生ちーっとも気づかないでえんえん歩ってっちゃうから・・・。オレも声かけにくくて」
「・・・ヘンタイ」
ぼそっ、とサスケがなにかつぶやいたが、オレには聞き取れなかった。
カカシ先生は空いている左手でサスケを軽く (でもけっこう遠慮なく) 小突いてから、またオレに向き直って、
「・・・オレのこと、考えてくれてたんですね」
灰色の右目を細めた。
「・・・すみませんでした・・・カカシ先生。オレ・・・最低です」
最悪の場面を思い出して、オレはうつむいた。
とてもじゃないけど、目の前の上忍を正視できない。
かわりに、舗装されていない味気ない道路が視界に入ってきた。
「別の人間ですから、意見の食い違いは仕方ないですよ。あなたが気にしてるコトバも分かってるつもりですが・・・。生徒たちを想ってのことですし、あなたの本心とは思ってないですオレは。そうですよね?」
「・・・・」
そのコトバには、なにか引力が働いたみたいだった。
オレは自然に、下げた頭を上げてしまう。
見上げると、笑顔のカカシ先生。
あんな言葉を投げつけたオレに、普段以上の優しい笑顔を向けてくれる。
なんでこんなに優しいんだろうと、逆にフシギでたまらない。
「本心なワケ・・・ないです。だってオレ・・・あなたのこと・・・・」
今なら、ちゃんと言えそうだ。
サスケにも励ましてもらったし。
オレは意を決して、カカシ先生をまっすぐみつめた。
「えっ、ちょっとイルカ先生!?」
なぜか、隣でサスケが慌てた声をあげる。
『ナルトはアナタとは違う!!』
「本心じゃないです・・・カカシ先生・・・。オレ、あなたのこと、ナルト達・・・サスケもサクラも・・・生徒みんなと同じくらい大切で、大好きなんですから!!」
「・・・・生徒とおんなじ・・・」
カカシ先生がボソッと反復した。無表情だ。
かまわず、俺は言葉を重ねる。
「そうです!!。『ナルトと違う』なんてウソなんです。なのに、傷つけるようなこといって・・・・本当にすみませんでした!!」
言い終え、そのままの勢いで頭を下げた。
―――オレのキモチ、ちゃんと伝わっただろうか?。
不安になる。
なんでこんなに不安なんだろう。
―――・・・ああ、そうだ、サスケの言った通りだな。
オレ、このヒトに嫌われたくないんだ。
―――・・・もう遅いかもしれないけど・・・。
「――― イルカ先生って、やっぱサイコーですね」
少しして、笑いを含んだ声が聞こえてきた。
そして、
「カオ上げてください」
やさしく顎をもちあげられる。
オレはまたうつむいていたらしい。
「バケモノ扱いは馴れてますけど・・・そんなのに傷つくほどコドモじゃないですし。そう思われてたんなら、普段のつきあいでちゃんと気づきますよ。あなたはいつだってオレのこと、ちゃんとニンゲン扱いしてくれてたじゃないですか。ま、あなたに本心からそう言われたらヘコみますけど」
「・・・・」
オレは、やっと気づいた。
――― カカシ先生は、怒ってなかったんだ・・・・・。
最初から。
ちっとも。
「あなたには、わかんないかもしんないですけど・・・、大丈夫なんですよ、ほんとに。まわりの連中になんて思われたって、事実そうだって、大丈夫なんです。あなたがそう思ってないのが分かるから」
――― それどころか、オレに真っ先に謝ってくれて。
オレを心配して追いかけてきてくれたなんて。
カカシ先生の真摯な言葉に、泣きたくなった。
・・・そこに、
オレの顎にあてがわれた長い指を、邪険に払った小さな手。
なぜか、いつもより不機嫌そうな顔のサスケだ。
サスケは無言でオレの腕をひいて立ち上がらせようとする。確かにいつまでも道にへばってるワケにもいかないので、素直に従った。
―――ずっと年下の、しかも生徒に、恥ずかしいところをだいぶ見られてしまった・・・。
まぁ元からサスケって、オレのこと教師として認めてないと思うけど・・・。
でもちょっと決まり悪いかな。
なんて考えているうちに、またサスケとカカシ先生が会話している。
「勝手に期待してんなよ!!、『生徒と一緒』ってだけで あんたにはもったいないんだからな!!」
「アホ!!。ここにはおまえがいるから素直に告白できなかっただけなんだよ!!。ガキはさっさと帰れ!!」
「告白??!!、そんな日一生くるか!!、ウスラトンカチ!!」
なぜかふたりは小声だ。オレには聞かれたくない話なんだろうか?。
ズボンについたホコリ払っていると、(どういう経緯でかはナゾだが) カカシ先生に小突かれた後ろ頭に手をやったサスケが、あきれた表情でオレをにらんだ。
ふたりの会話はひと段落したらしい。
・・・ホントに仲がいいな、と感心する。いい師弟関係を作り上げてるみたいだ。
「あー・・・、先生がなに言ったか大体わかったけど・・・それでアイツが怒るワケないだろ。だってアンタ・・・」
そこで、サスケはヘンなタイミングで言葉を切った。
あきらかに『しまった』、というカンジに。
「なんだ?」
思わず尋ねると、サスケはカカシ先生を一瞥した後、ため息をつきながら、
「ナルトにも・・・・・・オレにだって―――。優しく・・・人間扱いしてくれてるじゃん。いつだって」
「サスケ・・・・・・」
「あんたがそうだから・・・ナルトも・・・オレだって・・・大丈夫なんだよ」
ナルトは、九尾のキツネを腹に宿した身体。
そしてサスケは、陰惨な事件の生き残りであり、現在良い意味でも悪い意味でも『特殊』な血継限界の持ち主・・・。
そっか・・・あまり意識してなかったけど、カカシ先生と同じで、このコたちも・・・。
「だから、別にお前だけ特別なワケじゃない、勘違いするなよ。ウスラトンカチ」
「ヒトがイイ気分なのを水差すなよ、上司を思って気ィきかせて消えるくらいしろ」
「そんな危ないこと誰ができるか!!。なんだって三代目はこいつを野放しにしてるんだ!!」
あれ。
オレがサスケの言葉をかみしめている間に、またふたりは仲良く(?)スキンシップしている。
サスケの投げつけたクナイをあっさり片手にとらえて、持ち主に返しつつ軽くゲンコツをおとしてだまらせたカカシ先生は、肩をすくめて笑った。
「ヤツの言ったとおりですよ。サスケのヤツも、まあ写輪眼なんで。それが広まったら今までより こいつも、いろいろあると思うんですけど。サスケ、おまえも大丈夫だよな?」
「・・・あたりまえだ」
憮然として返事をするサスケ。殴られた頭に不機嫌に手をあてるしぐさがとても彼らしくて、思わず笑みを誘われた。
「イルカ先生も、こいつが写輪眼で、この先 ヒトを殺したって、サスケのこと、嫌いになったりしないですよね?」
「当たり前です!!」
力いっぱいうなずく。
それだけは自信があった。
オレの剣幕に、カカシ先生は笑った。
明るい笑顔。
「ホラ、だから大丈夫なんですよ。あなたがそう思ってくれるから、オレも大丈夫です」
「――――・・・。カカシ先生・・・ありがとうございます」
ホントに。
あなたがナルト達の先生で、よかったです。
「これが分かったら、もうサスケとイチャついたりしないでくださいね」
泣きたくなるほど感動していたオレに、一転してカカシ先生は気の抜けるセリフをはいてくれた。
『さっきの人格者ヅラはどうした!!』といいたくなるくらい、雰囲気も変わってしまっている。
というか、いつもの彼になっていた。
「はぁっ??!!、なっ、イチャつくってあなた・・」
「思わず嫉妬して飛び出してしまいました。いやー、殺気をおさえるのが精一杯でしたよ。あとひと押し サスケがなんかしやがったら、スリーマンセルがひとり欠けちゃうトコでしたねーそしたら試験も受けらんなかったですねーハハハハハ」
カラカラ笑う。
なんとなく、ホンキに聞こえるからコワイ。
―――・・・なんなんだ・・・このヒト・・・。
やっぱりいろんなイミで、ナルトたちとは違うカモ・・・。
そう思わざるをえないオレと、盛大なため息をつくサスケ。
いつの間にか、日は完全に落ちていた。
―――でも今日、オレはカカシ先生のことを、今までよりもっと尊敬したし、好きだと思った。
サスケには、カッコ悪いところを見られちゃったけど、なぜかサスケならいいか、と思う自分に気づいた。
カカシ先生。
オレが大丈夫ならカカシ先生も大丈夫、って、言ってくれたけど。
それなら、絶対大丈夫ですよ。
オレ、あなたたちのこと、大好きだから。
END
やっと後編です。カカシ編。
でもやっぱサスケ出ばってます。
というか、ジャマせずにはいられないんでしょう(笑)。
カカ×サスもスキですが、仲悪いカカシとサスケはもっとスキだったり。
読んで下さってありがとうございました!。
リク下さったチヒロ様、こんなですが受け取って
くださいませv。
By.伊田くると
カカシ 「あいかわらずチューのひとつもない・・・(泣)」
サスケ 「あるか、バカ!!!」
01年8月14日