俺、桃城武 (青学2年。浮き沈みあるけどいちおレギュラー) は、ある日ぐーぜん。
ちょっと珍しいものを見てしまった。




 ―――― それはなにかというと。



 過度なくらい かわいくラッピングされたちっちゃい包みを、かわいらしく (きっとわざとだ) 両手に持って。


「コレ、俺の気持ち。受け取って?」

 かわいく作り声を出して、それをさしだすエージ先輩。




 ―――― というものだった。









 それ自体も珍しかったんだが。
その、プレゼントを差し出されてる相手が、なんと、手塚部長だったもんだから。





「―――― ?!」

 部室のドアをあけたカッコウのまま、俺は思わずかたまっていた。









恋愛悪戯
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「―――― 菊丸」
 エージ先輩のセリフから数秒おいて、好対照に落ち着いた声を発したのは部長。

 ほんの少し、ドアを開けて入ってきた(そして固まっている) 俺を一瞥してため息をつき、
「カードが挟まったままだぞ」
 意味不明の言葉。


 ―――― は?。プレゼントにメッセージカードを挟んどくのって普通じゃないの?!


 現状が飲み込めないが、部長の言葉もさらに謎だ。しかし、エージ先輩はギクッと肩を震わせた。やべっ、ってカンジに。


「――――お前の字じゃない」
 それは捨て台詞だったらしい。
部長はもう一度ため息をつくと、ラケットを手にとり部室を出て行った。ドアの前につっ立ったままの俺をよけて。




「????」
 やっぱりワケのわかってない俺と、なんだか悔しそーなエージ先輩が残された。












 事情を聞いてみれば、アホらしいというか、あっけないモンだった。

 今日はバレンタインデー。
エージ先輩が部長にさしだしてたのは、チョコレートだった。

 それだけなら、普通に(?)告白なんだけど。


「ちょっとは ビビるかなーとか、気になんじゃん!」
 と、エージ先輩は肩をすくめてみせた。

 俺のいっこ上にあたる菊丸エージ先輩。
彼の性格の中でも厄介な部分・・・『イタズラ好き』。
 よーするに、手塚部長をおどかそうと、イベントに便乗して告白演技をしてみた、ということらしい。
 自分のチョコなんて持ってないから、(自分あてに) もらったチョコをさらに部長に渡そうとしたのが またアバウトだ。偶然部室で部長とふたりきりになって、ふと思いつきでやったのかもしれない。このひとの行動力 (と いきあたりばったりさ) からいえば十分ありえた。


「すごいコト考えるっスねー」
 あきれたいような、驚いちゃうような。
俺も悪ふざけは好きだが、男にチョコあげる演技なんてやろうとも思わない。

 ―――― と内心考えたところで気づいた。


 ―――― あ、逆にこのヒトならアリかも。


 失敗に終わった計画をぐちりつつ、制服からジャージに着替えているエージ先輩。
 タッパはあるけど全体的に細くて、顔立ちも整ってるけど男っぽくはないし。
さっき部長にしてみせてたみたいに、かわいこぶりっこ(笑)すればマジでかわいいし。


 ―――― なるほど。こんくらいかわいくないとできないイタズラだ。


 俺がやったらその瞬間にギャグだと爆笑されるのがオチだろ。でも、このヒトだったら、本気にして慌ててもおかしくない・・・気がする。



 部長に受け取ってもらえなかったチョコの包みが机の上に放置されてて、着替えのおわった俺はついそれに目をやった。

 薄いピンクの包装紙に、赤と白で二重になったリボン。いかにもカワイイ感じだけど、店のじゃなくて自分でやったものみたいだ。リボンは何度か結び直したらしく、薄く折り目が残ってる。

 そのリボンの間に挟まれてるカード。
一応見ていいかと確認をとると、まだのろのろと着替えてる先輩が了承してくれたので、手にとってみた。『For You』と、ペン字で小さくかかれてた。手書きだよオイ。そして、右下スミに『Aya K』。



 ―――― なんか、本命っぽい。



 これをイタズラに使っちゃう神経ってどーだろ。一歩間違えたら、別の男(手塚部長)に渡るとこだったというのに。
 この『アヤ』ってヒトを俺は知らないけど、なんだかかわいそうになった。


「手塚部長さすがっスね。これに気づいたなんて」
 俺だったら突然の事態にびっくりしてチョコ本体に目はいかない気がする。

「だよにゃー。名前んトコは見えないよーにしてたんだけどなー」
 やっとはおったジャージのチャックを のどもとまで閉めて、エージ先輩がムッとした声で答える。

 イタズラ失敗にすねる様子がおかしい。『アヤ』さんのこともあって、ちょっとざまーみろとその顔を眺めてると、ふ、とその表情がなくなった。

「字で分かったんだ・・・」
 小さく、つぶやいた。

 ああ、確かに、
『お前の字じゃない』
部長はそう言ったっけ。

 またテーブルに戻したチョコのカードを見下ろす。
『アヤ』さんの字は大人っぽくて右上がりぎみの字だった。丁寧だし。でも、決して上手という字でもない (そのあたりが自分で書くことにこだわったカンジで、いかにも本命っぽいと感じてしまう)。

 字だけで見れば、男か女かは分からない。けど、部長は即断して決め付けたよな。


 ・・・・・・・・・・・・・・・それって、スゴクないか?。

「・・・俺、エージ先輩の字 わかんないスね」
 みたことないはずはないけど、よほどヘタとかよほどうまいとかじゃないと、他人の字なんて印象に残るもんでもないだろう。

 部長、あてずっぽうって言い方でもなかったし。


「ほかのヤツなら成功したはずスよね、タカ先輩とか副部長とか、マジでおろおろしそーだし」
 エージ先輩の敗因はよりによって部長をターゲットに選んでしまったことだろう、と明るくふってみると、



「手塚だからやったんだっつの」




 またスネた顔にもどって、エージ先輩が とりようによっては意味深なセリフを吐いた。












end



 

菊の字はけっこう特徴ありそうかも。
By.伊田くると







桃城 「エージ先輩けっこチョコもらってるんスね」
菊丸 「ん? 当然でしょ」
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04 2 14