★それはヒミツです★





八戒氏の証言



「ん?、珍しい・・・」


 コーヒーカップを両手に持ち部屋に入った僕は、その片方を渡すはずの相手の姿に少々驚いた。

 わりと夜型人間のハズがよほど疲れがたまっていたのかまだ午後9時をすぎたばかりだというのに ぐっすりと眠り込んでいる。

 白いシーツに、それ自体輝きを放っているように見える金の髪が広がっていた。


 ―――― 三蔵。



 ベッドサイドのテーブルにカップを静かに置く。
僕の気配にも強いコーヒーの香りにも まるで気づかない。

 これも彼には珍しいことだった。


 宿でひとり部屋の時は ある程度外敵への警戒が必要だけれど、今日は僕と同室だから少しは気を許してくれているのだろうか。


 そう思うと素直に嬉しい。




「僕たち、『仲間』に なってきてるんですね・・・きっと」


 ただ命じられるまま旅を共にする・・・だけでなく。
みんなを信頼していけてる。
それは悟浄にも、僕にもいえることだけれど。





 ―――― しかし。


 せっかく悟空・悟浄の嫉妬・羨望の視線を受けて三蔵とふたり部屋になれたのに、と考えるとちょっと残念でもある。

 仲良くおしゃべりしてくれるヒトではないけれど、彼との対話は心地いい。
聡明で頭の回転も速いし、でも寺育ちで意外な必需知識がなかったりする。
 ちょっと返答を間違えると途端に不機嫌になるのがまたスリリングだ。
いまのところ僕は銃口を向けられたことはないが。

 ―――― 悟浄はどうも、間違った返答・間違った対応を ここぞとばかりに選んで自分で墓穴を掘っているような気がするんだけどなあ・・・。


 案外、銃を向けられたり 高飛車にののしられるのが好きなのかもしれない。

 イヤだなぁ・・・そんな嗜好のヒトと同居してたのか・・・。








「まぁ、あなたの寝顔でも拝ませてくださいね」
 おしゃべりがムリなら、別の楽しみを見つけよう。

 自分の分のカップを手にとって、ふたつ並んだベッドの空いた方に腰をおろす。ちょうど三蔵はこちらを向いて眠っていた。

 強い眠気に襲われたのか服も着替えていない状態だ。宿についてすぐにベッドに横になったようだ。
 寝乱れて法衣ははだけている。黒のアンダーをきっちり着込んでいるのがちょっと惜しい。




「・・・ホントに珍しいですね」

 三蔵の寝顔は安らかだった。

 あどけない・・・という表現は常態の彼にはあまりに似つかわしくないが、今はそれがしっくりくる。

 僕もそうだが彼も夢見は悪いタイプだ (マイナス思考の人間に多いらしい。そういえば悟空はいつもごちそうを食べる夢ばかりだと言っていた)。

 今日は例外なのか、きっといい夢なんだろう。
ふだん気難しく寄せられている眉間のシワもない。

 瞳を閉じて寝入っている。


 前から十分知っているけれど、本当に稀有な美貌の持ち主で。
強い眼光を持つ瞳がないせいか、その姿は見目の整った人形に見える。
 長めの髪が額や頬にうちかかっているのも、それに拍車をかけていて。


 どんな夢みてるのかな、と思う。
笑ってるわけではないが楽しそうだ。
そういうのは『気』というか、気配でわかる。



「お師匠さまの夢ですかねぇ」
 彼の尊敬する、大切なひとの夢だろうか。

 僕はもう、愛したヒトの夢はみなくなってしまったけれど。

 たとえ夢でも、大事なヒトと一緒にいられたら。
それはとても幸せな瞬間かもしれない。



「・・・―――・・・」

 ふいに、閉じていた薄い唇がうっすらと開かれて、何か言葉を発しようとしたのが分かった。
 が、不明瞭にゴニョゴニョと空気を振動させただけで、なんと言ったかは聞き取れない。




「・・・・―――」

 ―――― うーん。

 三蔵の寝言か。興味あるな。

「ここで僕の名前でも言ってもらえたら、こんなに嬉しいことはないんですけど」
 僕たちの中で三蔵の夢に出演できる可能性が一番あるのはやっぱり悟空だろうか?。
 悟浄みたいに、悪い意味で 印象深いのも夢に出てきやすいというけど。


 あいかわらず楽しげに眠る三蔵がまた何かをつぶやいた。
無音の部屋の中、今度はそれがハッキリと僕の耳に届く。



「・・・・・・、
×××・・・・・」









 ―――― え?。


 ――――・・・うーん・・・。



「それは、ちょっと・・・・・。意外な相手ですねぇ・・・」


 飲まないまま冷めてしまったカップを片手に、僕は肩をすくめた。









悟浄氏の証言



 今日はいい天気。



 珍しくサービスのいい宿に当たった。
部屋も良かったしベッドの寝心地も満足で、久しぶりにぐっすり寝て疲れを癒した。『そーゆー』宿ではないから、お姉ちゃんを連れ込めなかったのが残念っちゃ残念だけど。まぁそれは別の機会にってコトで。



 いつもなら食事は階下の食堂で、ウルサイ中かっこむってのがセオリーなのに、ここは客の部屋まで食事を運んできてくれるシステムで。
 昨夜は二部屋に分かれて泊まったのだが、ひと部屋にまとめて運んでもらい、ゆったりと静かな空気の中朝食タイムとなった――――。

 ―――― んだが。



 ―――― 気に入らない。

 短くなったタバコを灰皿に乱暴につぶして、そのまま続く しぐさで新しい一本に火をつける。

 すぐに見とがめた八戒が眉をひそめて注意した。
「あまりエンドレスで吸うの、良くないですよ。ガマンできなくなったら吸う、くらいにして下さい」
 相変わらずの小言だ。

 そして、『部屋も煙っぽくなりますし』とか言いながらベランダに寄り窓を開けた。清涼な空気が部屋に侵入してくる。
 確かに 空気が煙っているようだ、と気づく。


 ―――― だってしょーがないじゃんよ、イライラしてるんだからさ。
そのイライラの原因が今もバリバリ継続中なんだよ!!!。





「・・・・・・悟浄。ひょっとして僕のこと睨んでます?」
 邪気のない目で俺を見返した八戒に、一瞬言葉をなくして俺は黙った。

「――――。いんや。なーんにも」
「そうですか」


 なんとなく否定してみたが、人一倍聡いヤツだから俺の態度の不自然さはとっくに気づかれてるだろう。
 ま、いいや。いまさらコイツに隠し事なんざしてもイミねぇし。


 ―――― それに、八戒のせいでは・・・ない。


 どっちかっつーと、運ばれてきた うまそーな朝食にろくに手をつけず、さっきからずっと視線を八戒に向けている金髪美人のせいだ。



 ―――― 玄奘三蔵。

 俺たちの旅のリーダーっつーか王様っつーか女王様。
なんせヤツいわく、俺や悟空なんて『下僕』らしいからな。

 いや、いーんだけどね下僕でも、・・・・・・・って、ヘンな意味じゃねえ!。
えーとつまりなんだ、こんなガキみたいなこと言いたくはないが・・・。


 ―――― 三蔵って、俺たちにとって、アイドルだから。


 うわ寒!!。
いや、でもしょーがねえ、これが一番近い。
アイドル。うん。そんな感じ。うん。寒いが。

 で、アイドルの条件、つまり不可侵なもの。
俺たちみんな三蔵が好きだけど、三蔵には誰か『特別』を作って欲しくない。
 それが自分なら願ったりだが・・・ほかのヤツじゃ絶対イヤだ。

 好きなアイドルのドラマのキスシーンだってイヤなのに、彼女に『恋人発覚!!』なんてワイドショーで報じられたら許せないだろう、そんな心理だ(ファンってのはバカだねー、とあざ笑ってきたが まさか我が身がそうなるとはな・・・)。



 これまでの旅の中で、三蔵は (その性格からいくと当然だけど) 特別な存在なんか作ってなかった。
 まあ、悟空って少し特別だろうけど、アレは恋愛感情じゃないから別にいい。


 だから安心していたのだが、昨日宿に一泊して そして目覚めた時から三蔵の様子が変なのだ。


「さんぞー、食わねぇの?」
 ちょうど三蔵の斜め隣に座って、あいもかわらずバクバクとよく食うサルが ご主人サマに声をかけた。

 ハシが止まったままの三蔵は、やっと我に返ったようで、
「ああ・・・」
 細くつぶやき、茶を一口飲んだ。
その間も、やはり目は八戒を追っている。



 ―――― だーっ!!、それやめろよマジで!!!。


 ・・・・こんなにキツイのかよ、知らなかったぜ・・・。
三蔵が誰かを見てるって、ただそんだけなのに。



 ・・・・昨日、なんかあったんかなー。

 八戒のヤツ、抜け駆け禁止っつー暗黙の了解をしれっと破りやがって・・・・。

 元同居人をついまたニラんでみるが、すぐそれに気づいた八戒はわずかに苦笑して肩をすくめて見せた。



 ―――― はぁ?。



 言葉にしなくとも分かる。
八戒は『僕にも分からない』と言ったのだ。

 ってことは。
特に八戒が三蔵にモーションかけたとかそーゆんじゃなくて、ただ単純に三蔵が八戒を気にしてるってコトか・・・???。



 それって。



 ―――― もっと悪い結論に持ってっちゃいそーなんですけどボク・・・・・。





 それじゃ三蔵、マジ八戒に惚れたかもってコトじゃねーの・・・・・・???。









悟空氏の証言


 あれ?、八戒は?。


 あ、買い出しに出かけたんだ。なんだよー、ついてったらなんか買ってもらえたかもしんないのに。なんで教えてくんないんだよー。


「それさせねぇために知らせなかったんだよ」

 ・・・どーせ三蔵の金じゃないクセに。


「お前に好きなだけ食わせたら口座しめられんだよ」

 ・・・好きなだけ酒は飲むクセに。


 と言いたいトコだけど、言ったらまたハリセン喰らうから今日はだまってよう。
まーいーや、八戒買い出しで、悟浄も荷物持ちでついてったみたいだし。


 ふたりが帰ってくるまではさんぞーとふたりだし。

 と思った途端、


「俺は寝る。出てけ」

 冷たい声。

 う。この声の時は反論しても聞く耳もたない時だ。
つきあい長いからそーゆーのは分かる。

 ちぇっ、せっかく一緒だと思ったのにな。



 けど、三蔵の部屋を出ていこうと扉に手をかけた時、

「宿のヤツにロープ借りてこい、丈夫なヤツがいい」
 ベッドに座って新聞に目を落としたまま三蔵が低い声で言った。

「ロープ?」
 なんでロープ?。
と思ったけど、待ってもそれ以上説明がない。黙って、完全に読書の世界に入っちゃったみたいだ。

 ま、いっか。


 俺は言いつけどおり、廊下で行き会った宿のお手伝いさんに洗濯ものを干すのに使うロープを一本貸してもらった。


 ごほうびに、なんか食わせてくんねーかな?。








そして


 三蔵にかまってもらえず、宿のまわりをうろついて遊んでいた悟空は、買出し帰りの悟浄と八戒にはち合わせした。

 買出しと言っても食糧は後回しで、たりなくなってきた生活用品をいくつか補充しただけだったらしい。一時間もたたずにすぐ終わって帰還してくるわけだ。
 大きな市が明日に開かれると街のものに聞いたので、買い物を明日の朝にずらしたと八戒は説明した。

 いいニオイのまるでしない買い物袋に悟空はガックリと肩を下ろし、ついでに遊んでくれない三蔵への文句も口に乗せてみた。

 コドモじみた口ぶりに苦笑しながら聞いていた八戒だが、ふと考えるしぐさを見せた。
「でも、なんか今日は様子が変でしたね」

「―――― なんかっつーかかなりヘンだろが・・・」
 悟浄がイラついたしぐさで髪をかきあげる。
血のような暗い赤い髪だが、陽光にすけていると朱色に見える。悟空には血色というより鮮やかな火のように思えた。

「僕につっかかんないで下さいよ」
「お前、またすっとぼけてんじゃねーだろーな」
 八戒と悟浄が小声で言い合っている。八戒のテンションはいつも通りだが。



「さんぞー、ロープなんか何に使うんだろ」
 そんな二人の言い合いをムシして悟空はひとりごちた。
宿でロープを使う用事なんて思いつかない、そういえば。大体、彼にロープってのがもう似合わない。


 悟空の言葉に反応した八戒も怪訝そうに首をかしげる。
「ロープ?。妖怪を捕らえたとしても捕虜になんかする気はないはずだし・・・」
「瞬殺だな」
「ですよねぇ。――――――――」


「三蔵、寝るから近づくなっていってたけど」
「寝る?!、そんでロープ?!!、まさかっっ」
「いや、それはないでしょう」
 他意のない悟空のひと言になぜか青ざめる悟浄。に八戒が冷静にツッコミを入れた。いいコンビだ。




「じゃあ一体何に・・・」



 はた、と顔を見合わせる三人。



「行ってみますか」
「行ってみっか」
「見に行こーぜ!!」

 時折(特に三蔵関係では)すごく息の合う三人は、ひとりでいる三蔵の様子をさぐりに勢いよく宿に戻った。












 三蔵(と八戒)の部屋はドアからだと視界があまりよくない。観葉植物が室内に飾られているからだ。ドアを開け中に入ろうとする間に隠そうと思えば隠されてしまう。

 悟空から離れたということは、『していること』を三蔵は誰にも見せたくないつもりに違いない。
 三人はそれを探りたかった (ホントにただ昼寝してるんだったらそれはそれで別にいい)。


 なので、隠れてひそひそ、窓から様子をうかがおうとしているのだ。
部屋は二階なので壁をよじのぼって。

 第三者から見たらアヤシイことこの上ないし、何よりヒマな行動である。
三人とも、三蔵のこととなると少し常識に外れるくらい平気らしい。というより、もともと常識意識が薄い三人だった。




 常識からは外れていても運動神経はすぐれている三人は、さほど苦もなく二階に上がった。ひっかけたロープを伝ってのぼったので楽勝である。ロープはまた宿屋から借りた。ロープぱかり借りて、そこもまたアヤシイ客だと宿の者は思っていることだろう。


 それはともかく、三人は二階のベランダに着地した。物音はほとんどたてていない。泥棒になれそうだ。

 きれいにみがかれた窓ごしから、室内がうかがえる。

 気配を殺して中に視線を走らせた。




 ―――― 今日様子がおかしかったのと関係あるんですかねぇ・・・。


 ―――― ロープ使ってナニやる気だぁ三蔵っっっ


 ―――― こんなトコ見つかったらまた怒られっかも・・・ま、いっか。





 三者三様にいろんなことを考えつつのぞいた先は――――――――










 ぱたぱたぱたぱたぱたぱた




 ガラス窓ギリギリ、つまり三人のすぐ目の前に、巨大な瞳があった。

「おわっ」
 あまりに近くで目があってしまったため、思わずのけぞる悟浄。

「わ」
 悟空もこうも至近距離でいきなり見たことはなかったのでちょっぴり驚いてしまう。


「ジープ・・・」
 唯一、態度に変化のない八戒がつぶやいた。



 三蔵はひとりではなかった。
ジープと一緒にいた。




「あっ、てめぇら、なんでんなトコに隠れてやがるっっ!!」

 わずかな動揺の気配を当然見逃す三蔵ではなく、わずか三秒ほどで三人はあっさり見つかってしまった。









「ナニやってんの???、三蔵・・・・・」
「うっうるせぇ、見んな!!!」

 『見つかってしまった』のは、三人だけでなく三蔵も同様だった。
悟空に素の表情でつっこまれたことがよほど恥ずかしかったらしく、三蔵は乱暴にジープをひっつかむと自分の背後に隠した。
 飛んでいたところを急に向きを変えられひっぱられ、ジープが「キュー」と鳴く。


 あっさりノゾキがバレて気まずかった三人だが、当の三蔵もまた怒るというより動転していて、その彼らしくない態度に、つい三人もきょとんとしてしまう。


 なにより、ジープのその姿にも・・。








 三人が見たのは、

 ロープでがんじがらめに拘束された、あわれなジープの姿・・・

 ではなく。



 コップをくくりつけたロープを抱えて飛ばされているジープの姿だった。





「「・・・・・なんだこれ・・・」」
「なんでしょう・・・」

 三蔵は隠そうとしたものの、ジープは飼い主である八戒のもとに戻ろうと暴れたため、その姿はあっさり三人に囲まれた。
 三蔵は苦虫を噛み潰したようなカオでタバコを吸っている。万引きが見つかったコドモに似た、ふてくされて居直った態度かもしれない。



 ジープは見かけより力があるので、コップひとつ抱えて飛ぶくらいはなんともない。八戒は腹にくくられたコップつきロープをほどくのはとりあえずやめておいた。

 コップがあるためいつものように八戒の肩にはとまれず、ジープは相変わらずぱたぱたとコップを吊るして飛びつづけている。


「なにコレ?」
「なんなのこれ」
「なんですかコレ」

 三人がイヤミでなく、完全に目をハテナマークにして尋ねてきた。じっと凝視され、三蔵がつまる。


「お前らには関係ねぇだろ・・・!」
 赤面したまま言われても迫力がない。むしろカワイイと悟浄辺りは考えてしまうだろう。

 やはり三人は動じなかった。
「いや、ジープは僕のペットですし」
 関係あるでしょ?、と のほほん笑顔の八戒。

「ロープ借りたのオレじゃん !」
 関係ないなんて言うな!、と悟空。

「オレとさんぞーなんて前世からの仲じゃん!!」
 そりゃもー深い関係っしょ?、と悟浄。

 ホントに前世からの知り合いだったりもするが、さすがにそれはお互いまだあずかり知らないことである。



「なにコレ?」
「なんなのこれ」
「なんですかコレ」


 また三人そろってジープを指差し質問。

 根負けした三蔵が、長い逡巡の末、消え入りそうな小声で答えた。




「気球だ・・・」













 その後、八戒が巧みに聞き出したところによると。
けっこう答えは簡単だった。

 三蔵は、ある着想から『ジープを気球のように』してみたくなったらしい。
つまり、カゴつきロープをつけて、そこになにか乗せて飛ばしてみたくなったわけだ。
 実際の気球と違って、ジープの場合独力で飛べるわけだが、重要なのは何かを乗せて運ぶという点にあったようだ。

 三蔵の口ぶりからすると、本当は人間(つまり自分)が乗りたかったようだが、さすがにジープの大きさからはムリそうだと考え、とりあえずコップをくくりつけてみた。

 コップくらいなら楽に飛んでくれるジープに気をよくして、もっと重いものを積んでみようとしていたところで八戒たちに見つかった・・・・・・・・・ということらしい。








「だから朝から様子が変だったんですね・・・」
「八戒じゃなくて、肩にいたジープ見てたのか・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。・・・なんつーオチだ・・・・・・」
 オレの嫉妬ってなんだったの?!!、と悟浄は喜んでいいやらアホらしくなるやらだ。

 悟空は三蔵の実験が気に入ったらしく、オレもやるー!!、とコップに水を入れ始めた。


「二十キロくらいはイケると思うんですけどねぇ」
 動物虐待にならない程度でお願いしますね、と八戒は相変わらずのほほんテイストだ。


「・・・」
 三蔵だけ、キマリ悪そうにあらぬ方を向いている。
自分が仲間たちの留守に子供っぽいことをしていたのがバレたのがよほど恥ずかしいらしい。

 そういえば、彼のしたことは子供が外でする遊びとよく似ている。カブト虫に石やケシゴムを運ばせたりするような。



 そう考えて、八戒は楽しくなった。


 ―――― ああ、ナルホド。

 昨夜の三蔵の無邪気な笑顔を思い出したからだ。






 いつの間にか、ジープ気球化計画は、途中参加の悟空と悟浄の手によってジープ最大積載量実験へと変貌していた。当初の三蔵の理想とは外れてきている。

 水の次は石を持たせようとして懸命になっているふたり (そろそろ虐待の域な気がする)。
 三蔵は外野がうるさくなって興味がそれたのか、いつもの不機嫌そうな表情でその様子を傍観している。





 ふたりの前をすいっと通り過ぎ、そんな三蔵の前に立った八戒はニコッと笑って見せた。人畜無害そうな、それでいて食えない笑顔。





「カワイイ夢みるんですねぇ三蔵って」






 次の瞬間。


 八戒が、初めて玄奘三蔵氏から銃口をつきつけられたか、または発砲までされたかは。




 とりあえず、昨日三蔵が見た夢と一緒で、秘密ということで。








END


 沙羅双樹様のリクエスト、『ジープと三蔵のほのぼの』でした。
三蔵の突飛な着想は、夢からでてきたものなんですね。
ほのぼののはずが、今いちジープなついてないなぁ・・・。
伊田くると



ジープ「キュー(なんでこんなメに・・・)」
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