――――― 気づいたら死んでいた。
まあそういうコトもある。
いや、よくある・・・と、周防克哉は苦々しく思った。
それというのも、
「天野くんが行き当たりばったりに行動するからだ・・・もっとレベル上げてからでないと・・・。そもそも通常敵にだってオタオタしてるのに、ボスキャラが倒せるわけもないじゃないか・・・。悪魔には『契約してやらん』とかイジワルされるし・・・」
ぐちってみる。なぜかといえばヒマだったからだ。
現在、下界で仲間たちは死闘の最中である。
克哉が指摘した通り、「レッツ早解きーvv」とか言った舞耶のせいで、一行はレベルが足りないままの行軍を強いられていた。
毎回の戦闘が かなりしんどい激戦となる。
被害者が出るのもまれではない (つーか、ほぼ毎回)。
―――― そして、今回の被害者は克哉だった。
だから、実際には死んだというよりは瀕死の意識不明状態である。
仲間はリカームとかやってるヒマもないほどテンパってるだろうから、戦闘終了後辺りに呼び戻されるはずだ。
――――・・・・・・全滅してなければ。
「今度は君か」
ふいに空から声が聞こえた。
その方向に目をやると、不思議な光をたたえた蝶が克哉に近づいてくる。
肉体と意識が乖離した時訪れる、普遍的無意識の世界。
この場所を統治している、フィレモンだ。
蝶は克哉のそばまでくると、人の姿に変化した。顔を覆う仮面と、その不可思議な雰囲気のために年齢などは分かりにくいが長身の男性の姿である。
「しばらく厄介になる」
律儀に挨拶をする克哉に、フィレモンは苦笑いだ。
「身体は大丈夫かね?」
「ここでは痛みはないが・・・起きたら痛そうだ。マハラギオン喰らったし」
魔法防御力がたりなくて・・・と克哉はため息つきつつ答える。
「いつまでもレベルの低いペルソナ使ってるからだよ。一度腰を落ち着けてレベル上げすべきじゃないか?。コンタクトもめったにしてないじゃないか。カードは集まってるのかい?」
克哉は話の通じる相手だと知っているから、フィレモンもつい熱意を持って忠告してしまう。
それにはワケがあった。
―――――――― 前回の戦闘で瀕死となり、ここを訪れたのは嵯峨薫ことパオフゥだった。
『・・っち。酒もねェのかここは』
自分が死んだこともどうでもいいらしい、仲間の行く末も気にならないらしい、やさぐれたセリフ。
『おぅ、なんか芸でもしてくれねェのか?』
と、半ば以上本気の声で言われ、あっけにとられた。
―――― その前の戦闘でやって来たのはエリーこと桐島英理子。
さんざん怪談話を披露して、さっさと帰って行った。
別にたたみかける口調でもなんでもないのだが、彼女はどうにも不思議チャンで・・・、口を挟みにくいというか・・・。
結果、言いたいことは何も言えず、エリーの怪談をひとりになった時思い出して
ちょっと怖くなってしまった。
―――― そのさらに前の戦闘でやって来たのは、芹沢うららだった。
名前の印象とかなり違う、実に荒々しいタイドで、
『かーっ!!、ムカつくぅーっ。高い授業料払って習ったモンを鼻で笑いやがったぁーっ!!』
怒鳴りちらしていた。
―――― 一体なにが・・・?。
ハラハラして見守るフィレモンが彼女の支離滅裂な叫びを統合して判断するに、戦闘でピンチになった時、色仕掛けでなんとかならないかと敵の前で色っぽくフラメンコを披露したらしい。
そんなことするくらいなら攻撃魔法のひとつでも食らわせた方が確実だとフィレモンは内心つっこんでいたのだが・・・、結局悪魔は『なにソレー』と笑うだけで色仕掛けは通用せず、ここに来る次第となってしまったようだ。
うららは、
『今度こそ奴らを魅了してやるぅーっ!!』
果てのない空間に向かって叫び、そのまま、隣にたたずむフィレモンにも気づかないまま、フラメンコを練習しだしてしまった。
もはや、そこに割り込んで話しかける勇気は持てなかった・・・。
―――― こんな具合で、誰もフィレモンの忠告を受け取ってはくれない。
が、今 目の前にいる人物は折り紙つきの真面目な男。
彼なら・・・と、フィレモンは実は克哉がここを訪れるのを待っていたのだった。死を望んでたわけだから、けっこう失礼なハナシだが。
「天野くんは『前作のデータ継承してるから、フリータロット999枚あるのよーvv』とか言って、ちっとも交渉をしようとしないんだ。ちょっとコンタクトすれば すぐ集まるラバーズとかでもそれを使ってしまう・・・もったいないんだよ!!。いざという時にとっておけといつも言っているのに・・・。そんな計画性のないことをやっていたら、後半になるほど切羽詰まるに決まってるじゃないか?!。大体コンタクトだって、その時その時しか見られないコマンドがあるのに・・・ファンならひととおり見るもんじゃないか?、普通!!。僕はまだ『野球狂の唄』見てないし、『百物語』だって全部チェックしてないのに・・・・・」
「うんうん、そうだな」
ちょっと論点がズレたことも言ってるが、やはり克哉は現状のヤバさを分かっている。
フィレモンは仮面の向こうで微笑んだ。
ようやく自分の忠告がいかせる相手が現れたのだ。
そういえば、今までのペルソナ使いの中でも一・二を争うほど冷静に自分に名前を名乗ったのが彼だった・・・と、なつかしく思い出す。
あの頃はまだ少年だった彼が・・・現在は立派な青年だ。
隙なくスーツを着こなし、理知的な空気をかもし出す正義感あふれる刑事となっての、それは感無量の再会だった。
「今だっていっぱいいっぱいだからな・・・先を急ぐ気持ちは分かるが、どうか命を粗末にしないで欲しい」
かなり親しみが湧いたフィレモンは、克哉の肩に手を置き、優しい声音でさとした。
今日のフィレモンは体調が良かったので(?)、ちゃんと実体あるバージョンである。
てっきり、『ありがとう』とか言ってもらえるかなと期待したフィレモンだが、克哉の反応は違った。
「・・・・・・・・」
近くに寄ったフィレモンの顔の辺りを、無言のままじっと見つめているのだ。
深意を探る刑事の目ではない。
ネコが不審なものをみつけ、じっと目を開いたまま凝視するのに似ている。
「な・・・何かね?」
やましいことはないハズだが、まっすぐなその視線を受けて、フィレモンの心臓(←あるの?)がハネあがった。
「・・・・・・・・・・・・達哉?」
「・・・・・・・え?」
小さくこぼされた克哉のつぶやきに、フィレモンは絶句した。
目の前の男はおかまいなしに言葉を続ける。
「いやそんなワケないか・・・でもすごくそっくりな気がして・・・。セブンスで須藤竜也に襲われて、初めてここに来た時もそう思ってはいたんだが・・・」
「・・・・・・・・・」
確かに、フィレモンは最近 人型になる時は周防達哉の外見をコピーしている。それはそもそもフィレモンという存在が決まった形を持っていない概念だからだ。
ニャルラトホテプも同様で、彼も今回は周防達哉をコピーしている。
人間と会話するときはやはり人型のほうが相手もやりやすいだろうと思い 便宜上そうしていただけで、さして意味はなかったのだが・・・。
しかし、身内の嗅覚というのはスゴイ。
こんな、蝶をかたどったあやしげな(自分で言うな)仮面をつけてるのに・・・。
それともこの兄弟が特別なのだろうか。
と思った瞬間、克哉の両手がパッとフィレモンの仮面を取り去ってしまった。
すばやいのは兄弟よく似ている。
フィレモンは、前作『罪』のラストで達哉にいきなり殴られたことを思い出し、ちょっとムッとした。
「何するんだ」
しかし、仮面をとられてあらわになったのは達哉と同じ顔。
ニャルラトホテプと違い、邪気のない『達哉の顔』は本物とほぼかわりなかった。
「達哉っ!!!!」
克哉ががばっとフィレモンに抱きつく。ぎゅっと強く腕をまわし、そのまま離れない。
希薄な世界をずっとただよっているフィレモンにとって、生身の抱擁は気が遠くなるほど久しく、思わず動揺してしまう。
「ちっちが・・・っ、違うぞ克哉くんっ!!」
私はフィレモンだっ、と上ずった声で繰り返すが、からめられた両腕は外される気配がない。
―――― キモチは分からなくもないが・・・。
力ずくでひきはがす気が起きなかったフィレモンは、そのままおとなしくすることにした。
克哉が身体を離したのは、そのすぐ後だった。
「・・・そっくりだな」
意外に落ち着いた声である。
真実、本物だと思ったわけではないらしい。
会いたかった弟の姿を見て、つい抱きついてしまったのだろう。
普通の兄弟で、しかもいいトシした兄弟でそんなことするか?、と考えるとちょっと疑問が残るが・・・、フィレモンは強いて気にしないことにした。
「ああ、彼の外見をコピーしているからね。同じはずだ。・・・・・・もう仮面をしてもいいかい?」
衣服の上から感じられた克哉の体温にどぎまぎしたフィレモンはそそくさと仮面を拾い上げて尋ねた。
はやく元の姿に戻りたい。蝶でもいいから。
しかし、克哉は眉をひそめ、
「できればしばらくそのままでいてほしい・・・ダメだろうか?」
少しせつなげに見上げられる。
これで邪険にできる男はそういない。フィレモンは思わずうなずきを返してしまった。
パーティの前に何度となく現れては、すぐに消えてしまう達哉。
その存在が気になっている筆頭が舞耶と克哉だろう。
「弟が心配なんだね」
「・・・・・・」
克哉は小さくうなずく。
「・・・ムリをしていそうでね」
「大丈夫、無事だよ。彼はここには来ていない」
――――・・・新しい世界が創られた、『あの日』以来・・・。
内心つぶやく。この先の言葉は、まだ克哉に知らせるには早かった。
「そうか・・・」
ホッとしたように笑う克哉。
「・・・・・」
フィレモンは目を見開く。
普段は不機嫌そうな整った容貌が、笑うと幼く、柔らかくなる。
弟よりも線が細い、優しげな雰囲気。
「フィレモン、あの、もうひとつ頼みがあるんだが・・・」
言いにくそうに切り出した克哉に、
「なんでも言いたまえ」
フィレモンはにこやかに迎えた。本心だった。
ニャルラトホテプの件で頭を悩ませる毎日だが、今の笑顔のおかげで心に余裕が生まれた気がしたのだ。
自分にできることならなんでもしてあげたい、そう思わせる笑顔。
克哉は赤面して、
「あ・・・髪型も、達哉と同じに出来ないか?。どうもそれだと・・・」
フィレモンは背中の中ほどまでの長さの髪をポニーテール(笑)にしている。克哉はそれがお気に召さないらしい。
「カンタンなことだ」
フィレモンはつぶやく。
次の瞬間には、達哉と全く同じメッティカットに変貌していた。
フィレモンは内心自分のヘアスタイルが気に入っていたので、実はちょっとヘコんでいたが、克哉のために・・・とガマンする。
克哉が嬉しそうにフィレモンを見上げた。
ちなみに身長も達哉と同じである。達哉は高校入学のあたりから既に兄を追い越してしまっていた。
それから少しして、また克哉が先ほどと同じく注文を出した。
今度は、
「服装も・・・できたらセプンスのにできないか?。あれを着てる達哉が一番なじみ深いんだが・・・」
服にまでチェックが入ってきた。
造作もないことなので、セプンスの制服にチェンジしてやる。
克哉が細かく、
「ネクタイは三年は青なんだ!!」
と指摘してくるので、それも直してやった。
―――― どこから見ても周防達哉のできあがりである。
「達哉がいるみたいだ・・・」
フィレモンだと分かっていても克哉は嬉しいらしい。
いや、逆に相手がフィレモンだからこそ、素直に喜びを前面に出せているのだろう。
どうしても人には強がって自分を制してしまう克哉だが、フィレモンのことは『ニンゲンじゃない特別なモノ』と認識しているようで、普段の壁が取り払われている。
そんな克哉に、自然とフィレモンに笑いがこみあげる。
その優しげな微笑を真っ向から受けた克哉は真っ赤になった。
「達哉の顔でそんな表情されると・・・なんともテレくさいな・・・普段は、会えばケンカばかりになってしまったから・・・」
「ほう、難しいな。君はとても達哉くんを想っているように見えるが」
ヨソからは、少々いきすぎるほどに見える。
しかし克哉は悲しげに首を横にふった。
「何を言っていいか分からないんだ。沈黙になるのが気まずくて、何か言わなきゃと焦るんだが・・・結局小言になってしまう。嫌われるのもしょうがない」
赤く染まった肌が恥ずかしいのか視線をそらし、自嘲的にこぼす。
「嫌ってなどいないだろう」
周防達哉の心に触れたことがあるからそれはよく分かる。
それに・・・少し不器用だが、目の前の誠実でまっすぐな男を嫌う者などいないと思ったフィレモンは本気でなぐさめた。
「いつか君の心がちゃんと通じるよ・・・」
いつもより体温の上がった克哉の頬に手を触れる。
色素の薄い肌は驚くくらいなめらかで、手を離すのが惜しくなる。
「・・・ありがとう。君は優しいんだな・・・」
「誰にでもというわけじゃない」
フィレモン自身はなぐさめるつもりだったのだが―――― というか、ハタ目にはどう見ても口説きにかかっていた。
頬から、顎へと手をずらし、その顎を持ち上げようとしたとき・・・・・・・・
「おい」
背後から、押し殺した低い声が聞こえた。
「うわっ」
思わずのけぞる克哉とフィレモン。
ふたりから距離約三メートル地点に突如出現していたのはパオフゥだった。
「嵯峨っ、お前、死んじゃったのか?!」
フィレモンから離れた克哉が駆け寄った。
もちろんここに飛ばされてくるのは意識なので、外傷はまったくない。
「そーだよ。ったく、ちょっと目ェ離すとこれだ・・・人が戦ってる時に何やってんだよっ!!」
パオフゥはかなりのご立腹である。
当たり前だ、死闘をくり広げた挙句あえなく瀕死となって、来てみたらなんとまっ先に集中攻撃で死んだヤツが、フィレモンとイチャついてるではないか。
いや、克哉本人にはそういった意識がまるでないから余計に頭に来る。
最初はパオフゥも、それがフィレモンとは気付かなかった。
どう見ても周防達哉そのものだったからだ。
しかし、甘ったるく口説く声音と、足元に落ちた仮面を見つけて状況を正確に察知した。
「すまん、つい・・・」
確かに地上でヒドイ目にあっている 仲間を思うと、弟の姿を見てなごんでいた自分が申し訳なく感じられ、克哉は素直に謝罪した。
意地っ張りだが、自分に非があると感じればきちんと謝る折り目正しさをパオフゥはとても気に入っていたのだが、今日はアッサリ許す気になれない。
「『つい』でお前、あんなコトされて平気なのかっ?!、もう少しで・・・」
「??」
「―――― っっ。・・・・・」
もう少しで襲われるところだったんだぞ、とはさすがに言えず、パオフゥは黙りこんだ。
「大体フィレモン!!。てめーも俺たちに戦わせといて、何コスプレ遊びなんざしてやがるっ!!!」
怒りの矛先は克哉よりまずこっちだ。
思い直したパオフゥは周防達哉まんまのフィレモンに怒鳴りつけた。
「すまない、つい・・・」
「『つい』でコスプレすんなっ!!!」
「フィレモンを責めないでくれ。僕が頼んだんだ」
克哉がムッとした目でパオフゥを見上げる。
フィレモンがどうの、というより、『達哉の姿』に向かって怒鳴りちらしたのが気に入らないようだ。
―――― どこまでブラコンなんだ・・・パオフゥは寒気を覚えた。
こんなヤツに惚れてしまった己の因果をうらんでみても、もはや時は戻らないが・・・。
「お、戦闘が終了したようだぞ。かろうじて」
突然フィレモンがむりからに話題を変えた。
「さ、君たちも還る準備をしたまえ」
準備といってもやることなどないのだが、克哉はとりあえずうなずいた。
「邪魔をした」
いろいろハプニングが起きてしまったが、これだけは、とフィレモンは最後に忠告をしておく。
「とりあえずレベル上げはちゃんとやっといてくれ」
「やるよ!!。二度とここには来させねェからな!!」
パオフゥはまだ怒りが残る毒のこもった返事を返す。
隣では残念そうなカオをする克哉がいるが、その頭を容赦なくぽかっと叩いた。いい音がする。
「ひどいじゃないか、嵯峨」
「とにかくもうここには行かせねェからな!!」
「そりゃ僕だって好んで死んでるワケじゃないぞ。でも魔法攻撃に弱いペルソナつけてたんだからしょーがないだろう
!」
叩かれた部分に手をあてて抗議する克哉。
その姿にタメ息ひとつこぼしたパオフゥ。
「・・・・・・ったく、どこまでニブい野郎だよ・・・」
―――― ヤキモチにも、気付いてもらえないのか?。
―――――――― その後も、
「やーよ!、早解きよっ!!」
と主張するリーダー・天野舞耶の方針を変えることは誰にもできず・・・・・・、一行は被害者続出のまま旅を続けることになるのだった。
克哉がフィレモンと会ってイチャイチャ(克哉にいわせればホンワカ)するたびに、胃と神経に負担のかかるパオフゥの受難は長く続く。
ホンモノの周防達哉がやっと仲間に入ってくれたことに、舞耶よりも克哉よりも歓喜し安堵したのは、実はパオフゥだったりするのだが・・・。
今度は、ホンモノの達哉とのイチャイチャ(克哉にいわせれば以下略)をさんざん見せつけられるコトとなる。
彼の受難は、終わりそうにない。
END
|
とりあえず周囲にハタ迷惑な周防兄弟。
リク下さったサクライ様、お待たせいたしましたーっっ。
達哉と克哉のSSかイラ・・・というリクだったのですが、どうでしょう・・・こんな兄弟(大汗)。
ってか、達哉出てないし(←オイ)。
伊田くると
達哉 「フィレモン・・・俺がいない間によくも勝手なことを・・・許せん」
パオフゥ「つーか俺はお前も許せねぇ・・・」
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