正しい兄弟愛について
〜僕らの習慣の巻〜
今日から達哉が仲間になった。
「んー、じゃあこのまま戻るのもツライから、ここで野宿にしちゃおっか」
「そねー。寝心地よくなさそーだけど」
あいもかわらず、指針を決定するのは女性ふたりである。
特に異議をさしはさまず、そのまま岩戸で暖をとり 休むこととなったのだが。
「じゃ、おやすみー」
「ちゃんと起きろよ芹沢」
「起きるわよぅ」
なごやかな雰囲気の中、同じようななごやかな声で、ひとこと。
周防克哉刑事の、爆弾発言。
「達哉。お休みのキスは?」
「 「 ! ! ! 」 」
南条くんがずっこけた。
すでに横になっていたうららと舞耶はがばっと飛び起きた。
パオフゥは右手にもっていたタバコを取り落とした。
ようやく仲間になってくれた影のある少年―――― こと、周防達哉もまた例外ではない。
あれほど崩れず重い憂いを秘めていた表情に、ハッキリと驚きが浮かんでいる。
周囲の雰囲気をまるで察知していない周防巡査部長は、
「?。どうかしたのか達哉?」
あっけらかん、と尋ねた。
「お・・・おい周防、まさかと思うが、いや・・・・。――――・・・冗談だろ?」
さすが年の功というべきか、まっさきに持ち直し、ことを穏便に済ませるためのセリフを切り出したのはパオフゥだった。
ここで克哉が、「もちろんだよハッハッハ」とでも答えてくれれば、みんな安心して明日のために英気を養えるのだが。
しかし、克哉はいつでも真面目な男。いつでも本気な男だった。
「なにがだ?」
――― ほ、ホントなんだ・・・・・・!!!。
一同は驚きの表情のまま、弟の達哉にいっせいに目を向けた。
慌てた達哉は、
「違う !!。こっちの世界のことは知らないが、向こうではそんなコトしたことない!!!」
必死で抗弁した。
それは確かに事実だった。
『こちら側』と『向こう側』は、似ているが差異も多々ある。
現に、目の前の達哉の兄も『向こう側』とはかなり違うわけで・・・。
克哉はおもしろそうに弟に尋ねた。
「そうなのか?。ひょっとして、『向こう側』の僕と達哉は仲悪かったりするのか?」
「・・・悪いというか・・・そんなに接点がなかったんだ。兄さんもあまり俺に関わろうとはしなかったし・・・」
だから逆に、自分に多大な愛情を持って接してくる『こちら側』の克哉のタイドに とまどってしまったのだけれど。
「そんなことより周防さん、ホントにホントにえーとその・・・寝る前にしてたの?」
衝撃から立ち直ったうららと舞耶に、続いてわきあがってきたのは好奇心。
世の一部の女性はそのテの話題が大好きだった。
うららの質問に克哉はうなずく。
「朝もしてたけど・・・今はあまり時間が合わないからね。達哉は高校から少しグレ初めて反抗的になったけど、この習慣はなくならなかった」
「ってことは、そのトシでもしてたんだっ?!」
まだ、『コドモの頃』の話題なら微笑ましい、と持っていくことも可能だが・・・。
十八歳と二十五歳のキョーダイである。
それはむしろ・・・。
「うっわーっ、いかがわしいわねぇ!」
良識から、うららが『思ったけど言うのはやめた』言葉をアッサリ口にしたのはパーティリーダーの舞耶。
彼女はなおも、やらしー、とかなんとか繰り返している。
「なっ・・・舞耶姉っ」
信じられない濡れ衣を着せられ、焦ったのは達哉だ。彼にしてみれば自分がやったことではないので まさに濡れ衣である。
でも内心、認めたくはないが悔しいと考えてしまう部分もあり、ポーカーフェイスのまま動揺してしまっていた。
(・・・なんだよ、『こちら側』の兄さんがやけに世話好きだと思ったら、けっこうこっちの達哉のヤツ、ベタベタしてたんじゃないか・・・!!。お休みのキスだとっ?!。そんな(うらやましい)こと毎日してやがってたのかっ?!)
現在身体を借りている関係の異世界の自分に、メラメラ嫉妬がわきあがる。
「でもフツーのキョーダイならイヤだけど・・・達哉クンと克哉さんなら絵になるっていうか、いいわよねー」
なおもニコニコ嬉しそうに語る舞耶。
彼女の頭の中では既に、そのシーンが色あざやかに再現されているのだろう・・・。
「うーん確かに・・・、けどマーヤの言う『絵になる』ってさぁ、恋人っぽいってコトでしょー。兄弟でいいのかなぁ・・・親はなにも言わなかったのかなあ」
舞耶よりは多少常識のあるうららはちょっと心配ガオだ。
さらに常識のある南条くんは、やけに真顔で、克哉の隣に腰を下ろし説得にかかっていた。疲労などすっとんでいったようである。
「周防刑事 !。悪いことは言わないからそんなことやめてください!!。犯罪を誘発するおそれがありますよ !」
「は・・・犯罪?」
「第一、弟だっていうだけで、どうしてそんな役得なことさせるんですか !。十八っていったら立派なオトナです !。オトコです !。金輪際、やめていただきたい!!!」
毅然として言い放つ南条くん。
重ねるように、
「そうだ異常だっ!。そんな忌まわしい風習すぐやめろ周防っ!!」
ヒートアップして抗議するパオフゥ。
何かわからないが、自分たちのしていたことが みんなにすごく不評を買ったり驚かれてしまった・・・。
そんなにヘンなことだったのだろうか・・・・(←ヘンだよ)。
克哉は、ちょっと消沈して弟を見上げる。
「・・・達哉・・・」
「・・・・・・・・・」
そんな克哉の様子に、達哉にいたずら心が浮かんできた。
スッと克哉に寄っていく。
ジャマな南条くんとパオフゥをわきにどけ、文句をいわれる前にすばやく右頬に軽く口付けた。
「・・・おやすみ。これでいい?。兄さん」
きゃーっ、という、うららと舞耶の歓声。
それと反対に、ぎゃーっ、という男たちの喚声が岩戸内を反響した。
「わーっvv。やっぱ絵になるぅ!!」
「でしょーうらら!。いいわねこーゆーのー。乙女の夢よねー。写真とりたかったなー」
「『クーレスト』もこーゆー特集やんなよォ!。でもこれって、カオよくなきゃダメだよねー」
ピンクな空間が広がっている。
反対に、ドス黒い空気になったのはこちら。
「なっなんてコトするんだっ!!、みんな必死にガマンしてるんだぞっ!!!。ひとり抜け駆けなんてフェアじゃないだろう!」
「そーだそーだ!!。いきなり出てきておいしートコ取りたァ、問屋がおろさねェぜ!!」
「君の意を汲んで、パーティから抜けてやろうと思っていたが・・・許せん!!」
南条とパオフゥのふたりに詰め寄られても、達哉は知らん顔だ。
どことなく嬉しそうである。
しかしそこに、さらなる爆弾発言がふってきた。
その主は、またも天然刑事である。
「『向こう側』の達哉は頬にするのか?」
―――え?!!
それってつまり ―――――。
つい先刻までの勝利者である達哉の顔がひきつった。
その達哉に激怒していた南条くんとパオフゥは、固まったまま視線だけを克哉に移した。
『ほっぺにチュvv』、に喜んでいた舞耶とうららも、なぬっ?、と目を見張った。
「まあそれもいいか。それじゃおやすみ。明日もがんばろう!!」
メガネを外してニッコリ微笑み、そのまま横になる克哉。
いつも通りすさまじい寝つきの良さで、すぐさま熟睡モードに入ってしまう。
「・・・・・・・・・・・・・・」
一同は無言のまま、そこに固まっていた。
石化モードが解けるまでに かなりの時間を要したのだが、それはもちろん克哉の知るところではない。
結局 ―――――――
『こっち側』の達哉のひとり勝ち。
END
やらねーよそんなん!!等々、つっこみは多々あると思いますが、許してやってください。私もさすがにそう思います(笑)。
こんなんでスミマセン、一夜ナルさま〜。
キリリクは、『兄弟もの』だったんですが、こんな兄弟イヤですね・・・。
伊田くると
達哉 「許すまじ、こっち側の俺・・・」
パオフゥ「つーか俺はお前も許せねぇ・・・」
2001 7 25