Let's あいすくりんv
ジャンケン ポン!!!
グー グー グー グー チョキ
5人でやったジャンケンなのに、アッサリ 一回で勝負が決まってしまった。
確率的にいや、けっこうなモンだ。
「と、いうワケで〜。負けたのは克哉さん!!。残念ー」
残念、という割に明るい声の天野舞耶。
その親友の芹沢も、
「へー。このメンバーじゃ パオが弱いと思ってたんだけどなぁ・・・」
と、面白がっている。
俺が弱いってのはなんだよ、以前の『パラベラム』での負けを言ってやがるな?!、あん時はよくもポカスカ殴ってくれたよな・・・、ふつふつと怒りがこみあげたが、そこはオトナ・・・ガマンしてやることにする。
「・・・・・・・」
そんな俺の隣で、自分の出したチョキをうらめしげに睨み、『運の悪い敗者』・周防克哉はがっくりと肩を落とした。
「いいんだ・・・そういうこともある・・・。みんな楽しんでくれ」
己に言い聞かせるようにつぶやく。全然よくなさそうである・・・相変わらず、感情がよく出るヤロウだ。
「うーん・・・一番当たって欲しくないヤツが当たるとは・・・、やはり世の中うまくいかねェもんだな」
どんより沈んでいく周防を横目にひとりごとを言うと、近くにいた南条があいづちを打った。
「哀愁誘う背中ですね。よほど楽しみだったんでしょう」
―――― ここは日輪丸。
あいもかわらず事件究明のために四苦八苦のパーティは、戦闘の連続にかなり疲れていた。
周囲は敵だらけだし、船のクセにやけに入り組んだダンジョン。おまけに海の上ではもう街に戻ることもできない。
はやく先に進まなければならない状況でもあり・・・のしんどい強行軍の中、なぜか日輪丸内に『トリッシュの泉』を発見したのが十分ほど前の出来事だった。
当然ひと休みとなる。
相変わらず高額を要求してくる妖精に、殺意のこもった笑顔で応じる天野はちょっと怖かったが、全員疲れた身体を回復してもらった。
貧乏なパーティはその料金でかなりきゅうきゅうだったのだが、やはり娯楽の少ない環境に、癒しを求めたくなってしまうもので・・・。
もっとカンタンに言うと、甘味に飢えていたお子サマの周防は、トリッシュが販売しているアイスがむしょうに欲しくなってしまったらしい。
案の定、周防はガマンできなくなって、すぐに、
「どうせなら、アイスも食べていかないか?」
と 提案した。天野と芹沢も手ばなしで賛成した。
・・・・・のはいいが、どう金をよせ集めて数えても、全員がアイスにありつける額は残っていなかった。
「別に俺はいいぜ」 と辞退する間もなく、
「それじゃあ地獄のジャンケン勝負よーっ!!」
と、天野が握りこぶしを突き出し・・・。
―――てなワケで冒頭の、『ジャンケンポン!』になったのだが・・・。
結局、天野があいすくりん、芹沢がイタリアンジェラート、俺がイカスミシャーベット、南条がスーパーバニラを頼んだ。
きゃいきゃい言って品を選んでいる面々を、悲しげに見守る周防。
そう、ヤツにだけはアイスクリームを食べる権利がないのだ。
「・・・・・」
――― うーん・・・。
俺は悩んでいた。
自分はそんなにアイスが好きではない。
というか、甘いもの自体それほど好きではない。むしろ苦手だ。
なので、休憩はありがたいが、別にアイスを食べなくてもいい。
甘いもの好きな、そして現在自分が一番気にかけている刑事に全部あげてしまいたい。
そうすれば喜んでくれるだろうし、俺の株も上がるし、めったに拝めない笑顔つきで『ありがとう』なんて言ってもらえたら、アイスなんぞより よほど幸せになれるワケで。
いい事尽くめなはずだ。
しかし、ふたりきりならともかく、天野や芹沢の前で以前まで対立していた周防に優しくするところを見られるのはバツが悪い。
ふだんはトボけてるクセに妙なところで動物的にカンのいい天野に自分の気持ちを勘付かれそうだし、芹沢も鬼の首をとったように騒ぎそうだ。
さりげなく、でもそれとなく感謝されるようにアイスを渡すにはどうしたらいいだろう・・・、渡されたアイスに手をつけないまま考え込んでいた俺は、横を通り抜けた南条の行動に、次の瞬間衝撃を受けた。
「周防巡査部長、よろしければどうぞ」
端整な容貌に笑みを浮かべ、同じく手付かずのアイスを差し出す。
なっなにィィーっ?!。
考えるまでもない。
やりたかったことを、まんま先取りされたのだ。
しかもあまりにも自然な態度で・・・。
「いや、しかしそれは南条くんのだから。受け取れないよ」
もんのすごく欲しくてたまらなそうな顔だが、それでも律儀に断る周防。
『人のものを欲しがるのはいけないこと』というガキの頃習ったルールを思い出し、必死に耐えているのだろう。
が、こいつの甘いもの好きは もはやニコチン並の中毒であると知っている俺には、今の周防が拷問状態にあると容易に推察できた。
年がら年中、甘いモンを食ってないとイライラするタチなんだ。
南条は目を細めて笑った。
年よりずっと落ち着いている男だが、間違いなく周防より精神年齢は上である。
「あなたに受け取ってもらいたい、と思っているものなんですから。あまり甘いものは得意じゃないですし」
「でもそれじゃジャンケンしたイミが・・・」
言いながら、周防はちらっと天野たちに目をやった。
アイスクリームをぱくつきながら、女たちふたりはトリッシュとおしゃべりというか、口論をしている。
もっと安くしやがれ!、ぼったくりすぎ!!ふざけんな、等々。
こちらの様子は眼中にないらしい。
それを見た周防は、
「じゃあ・・・」
おずおず切り出した。
「君が食べてから、残りを少しわけてもらえると嬉しい・・・」
恥ずかしそうに顔を多少うつむかせて、小さく言ったセリフに。
「!」
南条は、ババッと赤面した。
はたで見てた俺まで、照れた。
―――か・・・かわいすぎる・・・!!!。
セリフは、『好きです・・・ずっと前から・・・』とアフレコした方が似つかわしいな、と思えるほどに初々しい、恥じらった薄い茶色の瞳で。
「じゃ、じゃあ、そうしますね」
見とれていたことに気付いた南条が、慌ててそう言ってアイスをパクパクと急いで食べた。
五・六口、球状のアイスが欠けたところで、すぐに周防にパスする。アイスの味どころではないようだ。
今度は周防もおとなしく、礼を言って受け取った。
実に嬉しそうにスーパーバニラを食べる。
そこまでうまそうに食ってもらえれば、アイスも満足だろうよ、そう思えるほど。
俺も、ほったらかしにしていたイカスミシャーベットに口をつけた。
色は毒々しいが、あまり『イカスミ』という味はしない。甘味も少なく、まぁイケる方だと思った。
三分の一ほどかじったところで、周防と南条の所に行き、ほい、とアイスを渡した。
南条にもらったアイスはもう食べ終わりかけている。
周防はまたきょとん、と俺を見返した。アイスのせいで上機嫌になっているため、トゲのない視線だ。
「やるよ」
あれこれ考える前に、動けば良かった・・・と後悔しても遅い。
二番煎じは感動も薄いと分かっているのだが、いたしかたない。
「俺はもう十分食ったからな」
まあこれも事実だし。
「嵯峨・・・ありがとう。ふたりとも、僕に気を使ってくれて・・・素晴らしい仲間だっ」
感動した周防は涙目である。
そんなに嬉しいか・・・と思うとやはり悪い気はしない。
俺たちの優しさ (というか下心)より、甘いアイスに心が占領されているのは間違いないが、まあよしとする。
南条も嬉しそうにそんな周防を見ていた。
――― しかし油断できねェな。この南条コンツェルンの坊ちゃんも。
以前は、ホントは新世塾の回し者じゃ?、と疑っていたが、今は別のイミで警戒の対象だ。
さすが切れ者だけあって、ツボを得た攻め方をするというか・・・俺よりひとまわりも年下のクセに。
嫁売ジャイアンツファンのクセに・・・ってそれは今は関係ねェか。
いや、しかしあの球団のファンにゃロクなヤツがいねェ。このままでは、先の球界が案じられ・・・・って、だから関係ないんだって。
俺が球界の未来に思いを馳せていた間にも、ぱくぱくと、周防はスーパーバニラとイカスミシャーベットを消化していく。
胃にもたれないのか・・・と心配になるが、甘党にはなんてことない、むしろ至福の時らしい。
「・・・」
でもこれって、間接キスだよなー・・・と、コーンにぱくつく周防を眺めつつ、思う。
本人に手なんて出せる状況じゃないせいか、それだけでも嬉しいと感じるなんて・・・ガキか、俺は。重傷だな。
案外、南条の坊ちゃんも同じこと考えてたりしたらお笑いだけどな。
「あー、克哉さんたら、みんなにもらってるのねー!」
急に振り向いた天野が、周防をビシッとゆびさした。
悪事がバレたみたいにビクッと硬直した周防を見て、天野は黒い瞳を細めて微笑む。
「甘いの好きだものね。私のもあげるから」
おいでおいで、と手招きされる。
注文した時点で、四人バラバラのものを頼んだと知っているのだろう、周防はなつく犬のように女ふたりのところに駆けていった。
その無邪気なうしろ姿に、残された俺と南条はため息をつく。
「なんか・・・あれが二十五かってカンジだな・・・」
「おそるべし甘いもの・・・」
しかし、嬉しげな周防に心が癒されていたのもつかの間。
俺と南条は、
「なにィィ?!!」
落雷のごとくショックを受けた。
天野は、アイスの残りをやったのでなく、コーンを持ったまま 『ハイv』と言って周防の口元に差し出したのだ。
それを周防は、ためらいなくぺろっと舌を出し。
なめた。
天野とは身長差があるから、少し背を屈めて。
薄めの唇を開いて、桃色の舌先を動かし、なめとったしぐさ。
「やだー、克哉さんってばネコみたいーvvvvv。カワイー!!、カワイーっっっ!!!」
「ホントだー。ねっ、周防さん私のもあげるよー。イタリアンジェラート!。こっちもおいしいよー」
それを間近で見ていた女ふたりは、「カワイー」ですましているが。
少し離れた場所に立ち尽くす俺と南条は、瀕死寸前のダメージを受けていた。
『いっぺん死んで来な!』ってなモンである・・・。
――― お・・・俺の理性ってのもタカがしれてんだな・・・。
これが目の前でやられてたら・・・マジでヤバかったかも・・・。
「うーん、確かに高いがおいしいな。ありがとう、天野くん、芹沢くん」
「ねー、お金たまったらまた来ようね。今回は克哉さんゴメンね」
「いや、みんなのもらったから」
「でも一個じゃたりないよねぇアイスってさ。周防さん何個くらいイケそう?」
「五個くらいかな?。あんまり食べると冷えそうだが」
「アハハ。私もそんくらいだわー」
のどかに会話する周防と女ふたり。
「じゃ!。リフレッシュもすんだし レッツらゴー!!」
まだダメージの回復してない俺たちを無視して、元気に歩き出した。
そして俺と・・・おそらく南条も、かたく心に誓った。
今度は俺もあのテで行こう!!! と・・・・・・・。
END
実際は、パオのセリフは「いっぺん死んできな!」じゃなくて「一回死んできな!」。
たっちゃんはラスボス戦の時、特別のセリフがあるのに(『お前は俺が倒す!』)、なんでみんなにはナイんだろうー。
『あんただけは許さない!』とか、『超法規的措置、お前は死刑だ!』とか、みんなにも言ってもらいたかったなぁー。
でも、別に資金不足にはなんないですよねこのゲーム(そんなツッコミすんな・・・)。
伊田くると
「しかしアイスに一万円て・・・どうなんだ・・・」
「どうかしたか嵯峨?」
「・・・・・・ドリキャス買った方がいいだろ・・・(小声)」
「あまり時事ネタは言わないでくれ」
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