愛されてるけど

大事にされてるけど




一番じゃない







誠実なキスと恋心





「ナミさん。ごめんね?」






「かまわないわよ」





 ―――― 邪魔だと思う。


プライドとか意地とか。
上下とか経験とか。
みんなの思う私とか。





「たまにはいいんじゃない?。ずっと同じ相手じゃ飽きるでしょ?」





物分かりのいいフリとか。
いい女のフリとか。
さばけたフリとか。


ホンキじゃないフリとか。
先読みしてしまう自分のクセとか。



 みんな邪魔だ。




 私だって思い切り怒鳴ってなじって泣きつきたい。










 ―――― 初めてのことじゃない。



 そうだ、初めてのことじゃ全然ない。
だから傷つくことなんてないはず。


 でも初めてじゃないからって、
・・・・・・・何も感じないわけないじゃない?。




「・・・・・・・」
 ため息がでた。
額を覆う前髪をかきあげて空を見上げる。

 いつの間にか太陽は場所を移してしまっていて、空の色も青から赤みがかったグレーに変わっていた。




 ―――― 船に残っている必要なんてなかったのに。

 落ち込んだ時は、みかん畑にひとり座り込むのがクセになってしまっていた。


 故郷の村を思い出して、ちょっとホッとするから・・・・。






 心の中で、何度も自問自答を繰り返している。
このスタイルは、ひとり 考えごとをする時のもの。
 何かに迷ったときとか決断するとき。
いつも、頭の中で論議をする。

―――― この指針に間違いない?。
―――― この判断で大丈夫?。

 イエスの私とノーの私で討論して、決定を出す。
楽天的な思考の私と慎重派の私と言い換えてもいい。

 故意に作り出すふたつの人格というほど大げさではないけど、こうすると思考がまとまるのだ。

 こと、サンジくん以外の案件では。




 サンジくんに関してだけは、思考は堂堂巡り。
結論なんか出ないまま、ただ疲労する。
疲れる。つらくなる。


 そしてため息が出る。






 今、船には誰もいない。
ゴーイングメリー号はただ今 陸に停泊中。航海士の私も仕事御免だ。

 ログがたまるまで2日間。
いつもどおりの自由行動。



 サンジくんはいない。





 ―――― 初めてのことじゃない。









 初めての時は ――――
本当に驚いた。

 冗談だと思った。



 想いが通じ合ってから、初めて陸におりた時。

 そりゃサンジくんは買い出しの役目があるから、ずっと一緒にいようなんて思ったわけじゃないけど。



「じゃね、ナミさん」

 あっさり笑って、あっさり背を返されて。

 え?。

 って思う間もなく行ってしまった。






 そして、集合日まで顔を合わせなかった。


 そういうものなんだろうか、男って。


 正直に言って、サンジくん以外のヒトとは付き合ったことがない。それまでは そこらの子のように色恋とかに関わっていられる余裕がなかった。
 すべてから解放されて。ようやく自分として生きていけるようになって。
そして覚えた恋心だったから。



 船を下りたら仲間とつるむ理由はない。それぞれしたいことをして、また集まってまた船に乗る。確かにそれは慣例だった。


 けど、理由がなくても一緒にいたっていいんじゃないの?。
むしろ仲間がいないところでふたりというのも・・・・そう、この前街で見たコイビト達みたいに、ふたりで歩いたりとか。手をつないだり。一緒に買い物したり。



 口にはしなかったけど、楽しみにしていたのに。

 ・・・・・・・一緒にいる理由じゃないんだろうか、コイビトというのは。







 よく分からなかったから、複雑で、そしてちょっと傷ついた気もしたけど、あまり重く考えないことにした。

 ―――― 今回は滞在期間が短くて、買い出しで忙しかったからかもしれないし。なんせうちは大喰らいが多いもの。
 次は誘ってみよう、と今日のようにまたみかん畑で結論づけて。自分を励ました。
 うまく言えるだろうか。サンジくんから誘ってくれるのがもっともいいケースなのだけど・・・。

 そんな風に思いを巡らせた。





 約束の日時。結局、上陸の間 会わないままだったサンジくんが帰ってきて。つとめていつも通り会話をして。

 気づいた。



 ―――― 香水。




 サンジくんは香りをつけてない。
料理人だから当然だけど。けど、近づいた彼から香ったのは、シャワーを浴びたばかりなんだろう、シャンプーの香りと。

 それでも消えてない、甘い香り。


 お風呂に入っても消えないほど強い香りじゃないから、出てから香りが移ることをした、ということになる。


 頭のどこかが冷静に そうはじきだして、その結果にガクゼンとした。





 様子が変わった私に気づいたのか、サンジくんは まじまじと私を見た。
それから、笑顔を見せた。

 その笑顔はいつもみたいに優しかったけど、なぜか不安はつのった。

 否定する言葉が欲しくて、彼を見上げたまま待つけど、欲しいセリフをこのヒトはくれないだろう、というのも どこかで分かっていた気がする。




 ふいに、視界に金色の束が映った。
サンジくんの髪だ。
間近で見ると金というより透明で、とてもキレイだった。
 

長身をかがめて、
カオを傾けて、
頬に触れたのは、

唇。

コドモにするアイサツのように、軽いキス。




 すぐに唇は離れてしまった。
温度もわからないくらいの短い間。


 彼が近づいたことで、香水の残り香が強く香った。
髪からか、服からか、身体からか。



 たとえ頬でも。


 初めて、好きなヒトからされた口付けだったのに。






「バレちゃった?。ごめんね、ナミさん」
 悪びれもしない笑顔。






 もう、次の誘いなどかけられなかった。










「ごめんね」


 それは、上陸するたびの彼の決まり文句となった。


どこが謝ってるの?、と言いたくなる軽い言い回しで。
言った次の瞬間にはもう全部忘れてしまった顔で。



 そして、キス。



 近づく彼の身体からは、慣れない香りがただよっていた。
甘い香水・安い石鹸・酒・・・。


 私の知っている彼ではないみたいだった。





怒りたかった。
怒鳴りたかった。
なじりたかった。
責めたかった。



もうしないでと―――。

言いたかった。







けど、私に出来たのは。


物分かりのいいフリ。
いい女のフリ。
さばけたフリ。


ホンキじゃないフリ。




「かまわないわよ?」









ウソばっかり。











 そしてまた、自問自答。







END



別れた方がいいんじゃ・・・。
伊田くると


チョッパー 「オレ、香水のニオイ、嫌いなんだ!」
ゾロ 「俺も好きじゃねぇな」
サンジ 「・・・ああ、やっぱ動物には強すぎんだろうな・・・」
ゾロ 「―――(怒)」

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