サンジ直伝!!
オロシましょ





「前から気になってたんだけどさ」





 ―――― キッチンにて。


 次々と、おいしそうな湯気をたてる食材が 清潔なテーブルクロスの上に並んでいく。

 一応手伝いを申し出たのだが、「ジャマ」とすげなく断られてしまった。
なので、おとなしく座ってその様子を眺めていたルフィは、テキパキと動く彼自慢の料理人に声をかけた。




「なんだ?」
 サンジは両手と両腕に四つの大皿を乗せ、危なげなく運びつつ返事をする。
今日のルフィはなぜか少し しおらしく、彼にベタベタと まとわりつくことも、つまみ食いをしようともしなかったため、サンジは機嫌が良かった。返した声は穏やかだ。



「サンジって、よく敵とか俺たちに『オロスぞ』っていうだろ?。あれ どーいうイミだ?。なにを下ろすんだ?」

「・・・」

 サンジは ようやくルフィに顔を向けた。
麦わらの船長は 本当に分からないようで、きょとんとした表情で こちらを見返している。


 あらかたの食事を並べ終えたサンジは、ルフィのむかいの椅子をひき 腰を下ろした。





 そろそろ夕食の時間。
それと、流れてくる いいニオイにつられてほかの船員も顔を出す頃だ。
 いつもキッチンに入り浸っているルフィが、サンジに言われて皆を呼びに行くこともある。


 が、今は、暖かいキッチンには船長と料理人のふたりだけだった。






「あー・・・、お前は本当に コトバを知らねェなぁ・・・。大根オロシとか、三枚オロシとか聞いたコトねぇの?」

「ねえ!!」
 ルフィは断言する。
ちなみに、大根オロシは食べたことはあるハズだが、名前を知らないらしい。


 サンジは短くなったタバコを灰皿につぶし、ふたつ年下の船長に苦笑を向けた。
 「バーカ !!」と言ってやりたい気もするが、実はサンジはルフィに甘い。某剣豪氏が日頃イライラするほどに。

 年下とのつきあいがなかったサンジにとって、ルフィやウソップ・チョッパーには、今まで抱いたこともなかったような想いを感じることがある。
 なんとなく、アホなことを言っても笑って聞いててやりたくなったり、ワガママをかなえてやりたくなったりする。
 女性に対して無条件に甘いのとはまた違う、それは鷹揚な『お兄さん』的感情だった。
 まあ、よほど機嫌のいい時限定だが。


 というワケで、サンジは語彙の少ないルフィに丁寧に教えてやることにした。





 ルフィの右手を取り、その手のひらに指で『卸す』という漢字をゆっくりとなぞってみせる。

「こーいう字だよ。本来は品物なんかを問屋から小売商に売るってイミなんだけどな。俺が使うのは料理の方のイミで・・・」
 普段の彼とはとても思えない、優しい口調で説明してやっている。

 サンジの ひとさし指が自分の手を行き来する感覚に、ルフィはくすぐったいような、嬉しい気分になった。


 ―――― 細ェ指・・・。


 正直、ルフィにはサンジの書いた文字は分からなかった。
指の動きは追っていたけれど、それどころではなかったというのが正しい。

 ルフィからは、いつもサンジにベタベタイチャイチャ(?)と、それこそ相手がイヤがって蹴りを出すほどに まとわりついているのだが、むこうから自分に触れてくるのは とても珍しかったから。

 だから、アッサリ『卸す』と書き終えて手を離されてしまったのが すごく残念で。もう少し触れていたかったのに、と文句をぶつけたいのをこらえた。
 サンジの機嫌が秋の空以上にすぐ変わるのを、ニブい彼でも分かっていたのだ。




 温かい皿を運んでいたせいだろう、いつもより冷たくないサンジの指の感触の残る手のひらをなんとなく開いたり閉じたりしながら、
「料理の方のイミってなんだ?」
 ルフィは尋ねた。
 

 サンジは即答する。

「おろしがねで身をすりくずすことだ」



「料理でオロスってったらそれだな。大根オロシってのは、ホラ、こないだサンマ出した時 一緒に皿に添えただろ?。あれだよあれ」
「あーアレか!!。味は大根だけど、ぐちゃぐちゃだったから分かんなかった!!!」

 ―――― 味が大根なんだから大根なのだが。


「それがオロスってヤツだな。おろしがねっつー、表面にトゲトゲがついてるステンレスとかの硬い台にのせて勢いよく すりおろすんだ」
「なるほど!!。だから怒るとオロスっつってたんだな!!。そんなことされたら痛いぞ!!」


 やっと合点がいって、声を大きくして笑う船長。
サンジも薄い唇をつりあげた。



「そりゃ人間にやったら痛いだろーなぁ・・・。クソ剣士に斬られる方がずっとマシだろーな・・・。日本刀って切り口キレイだから 痛みはそんなに感じないんだよな、確か」
「へぇ、そーなのか?。じゃあオロされんのってどんなカンジなんだ?」


「んー、ノコギリで全身細かくブッタ斬られるよーなカンジかな?。あー、別に斬らねーか。肉 擦って、削り取るんだもんな。――― うーんそーだな、びっしりはえた針の山に 腕を数センチ突き刺してめり込ませて、そのまま 一方向にムリヤリひっぱるってカンジだろ。皮膚とか肉とか神経とか ぶっ通してさ。骨は残るだろーがよ。肉片までミンチにされんだし・・・」


「ミンチ!!。ハンバーグだな!!」


「まー味つけて焼けばな !!。ハハハ、でもお前ハラ減ったからってヒトは食うなよ?。そんなん超緊急事態だけだぜ?。でも痛いだろーなぁー、痛覚残ってるまんまやられたら、マジ拷問だなー。でも別に俺、オロスって言ってもそーゆーイメージで言ってないぜ?。どっちかってゆーと三枚オロシの方だしよ」


「ほかにもオロシがあるのか?」
 興味津々の様子のルフィ。
サンジはなんとなくその頭の麦わらに手を伸ばし、なでたりいじったりしつつ答える。

「ああ。こっちは主に魚の調理法だな。魚の頭を切った後、中骨とその左右の両の身の三つにわけるヤツ」


「俺たちに『オロスぞ!!』って言ってるときは、そっちをする気だったのかー」

「まぁそうだな。人間だったら、首切った後 背骨で分けりゃあ三枚だな。ハラ側と背中でよ」



「足は?」
「いい質問だな・・・、足にも太い骨が通ってるから、そこで分ければいいか・・・?。大腿骨に腓骨・けい骨・・・。――― うーん、やっぱメンドくせぇな。足はいーや!!。腰でいっぺん ぶった斬ろう!!



「それじゃ三枚じゃねぇじゃん!!!」
 ルフィが不満の声をあげる。

「んー・・・、いーんだよ、どーせ頭だって斬ってんだからよ!!。上半身さばけば十分!!。ハラと背骨と背中で三枚。キレーなもんじゃねぇか」


「内臓は?。ハラって胃袋とかあるんだろ?。チョッパーが、俺の胃袋はおかしいとか言ってたぞ !」
「ああ。内臓はとるんだよ。言っとくけど胃だけじゃねぇぞ?。下腹部ってのは胃に小腸に大腸に肝臓に・・・、とにかく臓器が集まってんだからな。あのクソ剣士がダセぇハラマキしてんのも、一応防御ってコトなんかな・・・?。あれじゃサラシになんねぇだろうけど・・・。ともあれ急所なんだから一応覚えとけよ?。まあ、内臓だと、即死じゃない分ツライんだけどな。でもオロス時は内臓はいらねぇよ別に。全部かき出しちまうし


「もったいねーっ!!」
「まぁな。ムダなく食わねぇとな・・・って別に食わねぇけどよ。でも人間って肋骨とかすげぇよなぁ・・・あーゆーのってキレイに筋肉はがれんのかな?。生だとなぁ・・・。よく分かんねぇな、さすがに人間はさばいたことがねぇからなぁ・・・」







  
ドサッ






 その時、背後でヘンな音がした。
ふたりは同時に振り向く。



「「なんだ?」」



 立ち上がって様子を見に行くと、キッチンの扉の前に、ゾロ、ナミ、ウソップ、ビビ、チョッパー、そしてカルーまで全員そろって突っ立っていた。

 いや、ひとりをのぞいて。

 ウソップだけは、なぜか床に倒れている。
顔色が悪かった。蒼白だ。



「ウソップ!!!。どーしたんだ一体っ!!?」
 サンジは慌てて屈みこみ、ウソップの頬をぺちぺちと叩いた。ルフィも心配そうに その様子を見つめている。

「おいチョッパー?!!、ウソップが倒れてんぞ!!。なにボーっとしてんだよ!!」
 突っ立ったまま微動だにしない船医に、しびれをきらせてサンジが怒鳴る。

 普段なら、言わずとも すぐに動くチョッパーの反応は悪い。
ふと気づくとチョッパーだけでなく、そこにいるメンバー全員様子がおかしかった。




 なんだか、時間がとまってしまったかのように硬直している。
一様に顔色はわるく、目はうつろだった。





「「・・・・・・何があったんだ・・・・・??」」
 サンジとルフィは顔を見合わせて首をかしげた。


























 ウソップはただの貧血だったらしい。
彼を男部屋で休ませ、ウソップぬきの夕食が始まったのだが。


 料理人 改心の出来の今夜の献立・ハンバーグは、サンジとルフィ以外、ダレも「食欲がない」と手をつけなかったのだった。











 

END







蛇足

「あ!!!なによアレ!!。ビビ見て!?」


 そろそろ夕食の時間ね、と ナミとビビは仲良く連れ立ってキッチンに向かったのだが。
 扉の前で足をとめた。


 扉の横の窓から、キッチンの様子がうかがえる。
そこには向かい合って座る、サンジとルフィの姿があった。

 しかも、サンジの指がルフィの手を優しくつかんで持ち上げている。


「キャーっ。なんかいいカンジvv」
 ビビが かわいらしく歓声をあげる。確かに、若干腐り気味の乙女としては燃えるシチュエーションだ。

「なんかアレだとサンジくんのが口説いてるみたいねぇ・・・、私の見立てでは逆のハズなんだけど・・・。なに話してるのかしら?」

 気になったナミは、キッチンの扉をほんの少しだけあけた。物音などまるでたてずに。さすが元盗賊。


 空間を若干開いたことで、声が流れ聞こえてくる。

 サンジが穏やかに、なにかを説明しているらしい。
手もすぐに離してしまった。ルフィが不満そうなカオをしたのが遠目にも よく分かる。ナミは思わず笑みをこぼした。

「なんだ・・・。期待と ちょっと違ったわね・・・」
「でも雰囲気いいですよ?。これなら いいカンジに転ぶかも・・・」
「そーね
v

 とりあえず、デバガメをきめこむふたりだった。






 ―――― 続いてやってきた、ウソップ・ゾロ (めずらしく寝てなかった)・チョッパー・カルーと、次々女性ふたりにひきとめられ、全員総出で盗み聞きをしたのだが・・・・・・・・。








 ―――― それを後悔するのに、時間はかからなかった。










 あまりの会話内容に、ウソップが貧血を起こして倒れても、ほかのメンバーも とっさに対応できない。

 そのくらい、固まっていた。








 ―――― その後、

「じゃあ食事にしましょうか。今日はハンバーグですよ
vv、レディ」
 にこやかに笑う料理人に、湯気をたてるジューシィな『肉のかたまり』を出されて。



 ――― 食べられるかーッッッ!!!!



 そんなクルーのココロの声など、聞こえない料理人と船長。



 ゾロなどは、逆に斬りあいなどで多少人体の知識が深い分、よりリアルに想像してキモチ悪くなってしまった。









 ――――― 夜。

「俺の料理、マズかったのか・・・?」
 と、かなりヘコんでいるサンジを、今夜ばかりは なぐさめる元気のない、某剣士だった。






END







ゾロ 「・・・食欲なくなるなんて久しぶりだぜ・・・・」
ウソップ 「信じらんねぇアイツら・・・・」
ビビ 「あんないい雰囲気で、あんな話 してるなんて・・・」




 さ、最低・・・。
どーか読み流してやって下さい。一応15禁なんですが・・・。

コメントもできない文だなぁ・・・
ハハハハ・・・。
こんなふたりイヤー!!!。
By.伊田くると 01.9.4.