片付けられない男たち





「もうダメだ・・・・」





 全てが終わった・・・とでもいうような、末期的に暗い声。








 同時に漂ってきた重いどんよりと曇ったオーラに、ぎょっとしたルフィ・ゾロ・ウソップが振り返る。
 男部屋のドアの前には、いつものスーツ姿の料理人が立っていた。みるからに悄然として。



 うつむいているので表情はうかがえない。
しかし、ドアの取っ手にひっかけたままの手が かすかに震えているのは分かる。激情をこらえているようにも見え、また寒そうにも見える。






 ――― なんだ?。


 ちょっと様子がヘンだ、と三人は思った。


 『もうダメだ』――― って、なにがダメなんだ?、と言葉の続きを待つが、それきりサンジはもう何も言わない。相変わらず下を向き、つらそうに立ち尽くしたまま。








 突然やってきて、突然のヘンなセリフ。



 ナゾである。







「サンジー?。どしたんだ?」

 ルフィがにょんと首を180度曲げたダミアンのカッコウで尋ねる。


 ――― コワイ。
が、この船の乗組員はすでにそれに慣れていたので、特に感銘を受けた者はいなかった。





 船長の問いにもサンジは答えない。

 ゾロは『こいつホントにどーしたんだ?』、と不安になり、幾分真剣に

「おい、クソコック?」

 言いかけたところで、その声はかき消された。
気遣われた張本人のサンジが、船中に響くような大声で叫んだからだ。




「もーやだっっっ。ダメだっっっ。許せねえぇぇぇぇぇぇっっっっっっっ」












 ―――― その声は、女部屋で優雅に読書にいそしんでいたナミとチョッパーにも届き。

(ちなみに、甲板で優雅に涼んでいたロビンにも届いていたが、彼女は我関せずと黙殺することにした)。


「ちょっと!、どうしたのよ?!」
ふたりが駆けつけるまでずっと、男部屋は常にない沈黙に覆われていた。





 ルフィもゾロもウソップも。
目の前の料理人の切羽詰ったオーラが怖くて、何も言えなかったのだ。










 やって来たナミに、サンジは「ナミさーーーーんっっっ」と泣きついた。そして抱きついた。

 長身の男に突然抱きつかれては、ナミもバランスを崩す。
勢いよく床にしりもちをついてしまった。その身体に母親にするようにサンジがひっついている。
 ふたりとも年頃&見た目もかなりお似合い
v、なのだが、どうにもその様子は色っぽくはない。

 ナミと一緒にもちろんチョッパーもやって来ていたが、それはサンジの眼中になかったようだ。



 普段ならおとなしく抱き枕になってやってるナミではないが、サンジの様子がヘンなのと、くどこうと抱きついてるのでなくホントの意味で泣きついていたので、仕方なくスーツの肩をポンポンと叩いてなだめてやる。打った腰がちょっと痛かった。


「もーヤダぜこんなんっっっ。許せねぇっ」
「帰りてぇよバラティエに・・・クソジジィーーーっっ。パティーっカルネー―――っっっ」
「ダメだよ俺・・・・ガマンできねぇぇーーーっっっ」
 続けられる泣き言。




 サンジがこんなになるなんて・・・・・・・・一体なにが起きたのかと、ナミは問いただした。


 そして、彼が泣きついた理由は―――。





「・・・・・・・・汚いんです」

 のひと言につきた。









 ナミはしりもちをついたまま、改めて男部屋を見渡した。彼女のいる位置はちょうど部屋の入り口(ドアを開けたところでサンジに抱きつかれたのだから当然だが)。全景がなんなく見通せる。


「・・・・・・・・・・・・・・・・・・(汗)」

 なんとなく、汚いんだろうな、と思ってたし、好んでムサ苦しい男たちの居住空間に足を踏み入れることもなかろうと、彼女は今までに男部屋を訪れたことはなかった。

 ――― 賢明な判断だったようだ。








 男部屋は、惨憺たる有様だった。

 まず、悪臭。
もう少しで異臭騒ぎが起こりそうである。

 なんのニオイかは分からないし、ナミも突き止めようとは思えないが、つみあがっている服の群れに原因がありそうだ。あとウソップが持ち込んでる必殺技の道具とか絵の具とか。チョッパーの医薬品なんかも混じっているのだろう、いろいろ合わさってそりゃもう不審げな異臭。


 そして、言葉どおりだが汚い。
ひとへやを四人(+一匹)で使っているのだから、雑然としてしまうのはムリもない。が、正直ひどい。

 どうやってハンモックにあがってるの?、と言いたくなるほど床がない。見えない。

 答えはひとつ。
床に置かれたものを平気で踏んで歩いているのだろう。
現に今もルフィとゾロは床の上のもののさらに上に座ってるし。

 地層のように物の上にものが積まれ、段になっている。下の物を発掘しようとしたら雪崩が起きるのは必至だ。








 ナミがため息つきつつ判定を下した。
判断に迷うどころではない、サンジが全面的に正しい。


 ホンキでフビンになって、ナミはサンジの背中に腕をまわして抱き返してあげた。普段ならそれだけで目をハートにしそうなサンジだが、今はそれどころでないのか唯一の安全地帯のようにナミにすがっている。視線を上げないことから考えて、彼はもう男部屋を直視したくないらしい。



 ――― 追い詰められてるわねー。

 ガマンにガマンを重ねていた末のマジギレだったのだろう。





 が、そんなサンジの想いも知らず、サンジ以外の男連中・・・・・中でもサンジのキレた主な原因であるヤロウ二人・・・・・は、別の意味でキレかかっていた。

 サンジとナミがいつまでたってもひっついているからだ。


「サンジっ!!、抱きつくなら俺にしろよー!」
「ナミっ、いー加減はなせっ」

 ルフィとゾロである。



 お互い、敵意の向く先がビミョーに違うのが面白い・・・・。ナミは冷静に考えておかしくなった。

 特に自分をニラんでいるゾロににこっと笑って見せる (なんとなく優越感を感じた) と、彼女はわざとらしく優しげな声を出した。

「分かったわサンジくん、なんとかしてコイツらに掃除させるから元気だして?。その間、私たちはお茶でもしてましょう」

 お茶、の言葉に反応した料理人は ようやくナミから身体を話した。
「はい・・・でも掃除なら俺も参加し・・・」
「いーから!、汚したのはあいつらなんだからあいつらがやるのがスジよ!。サンジくんのやることはロイヤルミルクティーとオヤツの用意!!」
「はっはい!」

 女の発する命令形にとことん弱い料理人は、びっと姿勢を正し、ダッシュで男部屋を出て行った。もうここにはいたくないという気持ちも込められていたようだ。








 サンジがいなくなり、ようやく立ち上がったナミは腰に手を当ててため息をついた。そして、ルフィ・ゾロ・ウソップを順に見やり、

「掃除しなさい!!!」

 どーん!!と効果音つきで怒鳴る。




「好きじゃネェ」
 ルフィが口をとがらせた。散らかすのは大の得意の船長は、サンジがなぜ怒ってキレてヘコんでいるのか分からない様子。


「指示すんな。俺はつかわれんのが・・・」
 キライなんだよ、まで言わせずにナミはゾロを殴る。
「使われるもなにも自分の部屋くらい自分でやんなさい!!」


 ウソップについては、ナミがギン、とニラむと うんうんうんと何度もうなずいたからオーケーだろう。チョッパーもやはり清潔な環境が好きなようで、すすんで協力すると言ってくれた。




 ちらかしの主犯格のクセにやる気を出さない船長と剣士に、ナミは奥の手を出す。


「サンジくんのあの様子見たでしょ?。分かんないの?。あの子キレイ好きなのよ?」

 あの子呼ばわりである。彼女の中でサンジは一体いくつに設定されているのか。


「・・・でもありゃ極端じゃねぇか?。あんなキレるか?、普通」
 部屋がちょっと汚いくらいで。

 ゾロはそう言いたいらしい。


 普通じゃないのはアンタよ、とツッコミたいのをこらえてナミは作り笑いで言葉を継いだ。

「キレイ好きの子ってのは汚いのがキライなのよ?。こんな部屋で笑ってられるアンタらをサンジくんがスキになるわけないわよ?」

 コドモに言い聞かせるようにゆっくり簡単に、・・・・・・ナミは保母さん気分になっていた。

 が、単純なヤロウ達は衝撃を受けたようだ。


「それは困る!!!!!」

「俺は汚くネェ!!!!!」

 と、ルフィとゾロ。


「そいやバラティエのサンジの部屋はキレーだった!!!」
「あんだと?!、なんでてめぇが部屋に入ってんだよ!」
「ベッドで寝たんだ!!。ベッドもキレーでふかふかだった!!!」
「なっっなっっっ ウソつくなぁぁーーーっっっ」


 衝撃を受けてくれたのはいいが、なんかヘンな話題にズレ始めている男たちを鉄拳で黙らせると、ナミはさらに小言&脅迫をして部屋を出て行った。


「嫌われたくなかったら、キレーにしてみせなさい!」


















「掃除だ!!!」













 こうして、ゴーイングメリー号始まって以来の、大掃除大会が開催された。












終わり・・?
























ロビン 「いつかキレると思ってたわ。掃除しても掃除してもすぐ元に戻されて。かわいそうに」







アニメではけっこう男部屋キレイだったと思うんだけど。

浅野ヒルネ様へ。リクありがとうございました!。
アホ話ですみません・・

 
伊田くると


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ちなみに、男部屋の構造が違ってるのは許したって下さい
ドアないんだよね・・・