ディフェンスライン
「で、どーだサンジ?。いーかげん俺のモンになってくれる気になった?」
「「「「・・・・・・・・・・・・・・・」」」」
―――― その言葉は。
たとえば、ふたりきりの夜、船の甲板でムードたっぷりに ささやかれたとしても、やっぱり驚愕するものだったが。
目の前には、俺のほかに、
ナミさん、ビビちゃん、ルフィ、ウソップ、チョッパー、ゾロ、はてはカルー・・・。
――――つまり、クルー総勢、雁首そろえていたわけで。
のどかな昼食タイムにピシッと亀裂が入るのを俺は感じた。
右手に持った包丁が重力に従ってズトンと床に突き刺さったことに、近くにいたウソップが悲鳴をあげたが かまっていられない。
猛然と、にょへらんとした笑顔の男につかみかかった。
「てめえぇぇっ!!!、こんなトコでするハナシかああああっ!!!」
料理以外では手は使わないと決めているのに、我を忘れてしまった。
そのぐらい、怒ってるってコトだ!!!。
このまま三枚オロシにしてやりてぇ!!!。
フツーだったら誰か止めに入るタイミングだが、クルーの面々もあまりに度肝をぬかれてしまったため、誰ひとり口出ししてこなかった。
そんな俺の剣幕に 何も感じていないらしい来訪者・エースはあいかわらず笑っている。むしろ嬉しそーに。
あるイミ大物だった。
「おいおい、お前のいないトコで口説いてもしょーがねぇだろ」
「違うっ!!!、ここにはみんな・・・、お前の弟までいるだろーがよ!!!」
俺はびしっとテーブルに座る弟・ことルフィを指差した。
とりあえず無言で場を見守っていた、というか口いっぱい料理をつめこんでいたルフィだったが、ごっくんとそれを嚥下すると、いつもと大して変わらない口調で、
「ああ。そーかなとは思ってた」
こくん、と大きくうなずく。全然動揺していない。
「・・・なっ・・・!?」
実の兄キが、大勢の前で、同性の、しかも仲間のひとりに言い寄っているというのにだ。
―――― な、なんだよ、そんな反応ってアリか?!!。
泣いてショックを受けろとは言わないが、そんな淡白な反応は俺としても困るぞ?!。
ルフィが口を出したことで、固まっていたほかのメンバーも ようやく復活してきた。
「そーかなって・・・、ルフィさんは気づいてたの?」
かわいらしく白い頬を赤らめて、ビビちゃんはエースと俺を交互に見てから、隣のルフィに尋ねる。
内心ヒヤヒヤした。
―――― き、気づくハズ・・・ねぇよな?。
そもそもみんな (俺含めてだが)、数えるくらいしかエースに会ったこともねーし。
その時、ふたりでいた間のコトはルフィが知りようもない・・・、ハズだし。
過去の場面を思い出し、チェックしてみるが思い当たる点はない。
が、ルフィは自信ありげに深くうなずいた。
「ああ。見りゃわかる。だってサンジって、まんまエースの好みだしな!!!」
「・・・・・・え?」
あっけらかんとした船長の言葉に、なぜか心が強く反応した。
無意識のうちに眉間にシワが寄る。
―――― なんだよ、ソレって――――。
「・・・・・・・・」
俺は、エースをつかんでいた腕をバッと放した。
唐突に、ひどく乱暴な仕草で。
「??、サンジ?」
その衝撃で少しズレた帽子をかぶり直しながら、エースは ずかずか離れていく俺の後ろ姿に声をかけたが、冷たく無視を決めこんだ。振り向いてもやらない。
まだ食事中だというのに、ナミさん達レディにデザートを出してないというのが頭をよぎったけれど、エースのいるココにはいたくなかった。
バタン、と手荒くドアを閉め、俺は足早に食堂を出た。
のどかなはずの昼食タイムは、エースの口説き文句で幕を開け、俺の不機嫌で幕を下ろした。
俺が出て行った後の連中のことなんざ、知りようもないし知りたくもない。
地下・食糧倉庫で保存用の缶詰の整理をしながら、俺はまだ不機嫌だった。
密閉空間でタバコを吸うと空気が悪くなるからよせ、と ナミさんに注意されているのに ひっきりなしに新しい一本を出してしまう。
そんな自分にもイラだって、あらっぽい仕草で前髪をかきあげた。
―――― 何考えてんだろ、俺・・・、らしくねぇ・・・。
『まんまエースの好みだし!!』
ルフィのセリフから連想したのは、過去のエースの恋人だった。
ほかの連中だってそう考えたと思う。
弟のルフィがああ断言するということは、ひとりか複数か、実際に目にしたデータがあるということだろう。それと俺に符合した部分があった、ということだろう。
エースの恋人。
―――― たとえば・・・・・・金髪、だったとか?。
そう考えただけで、自分の髪の感触がイヤなものに感じられる。
『キレイな髪だな』
そう言って触れてきたことを思い出して、ますます最低な気分。
―――― 俺はお前のことなんか全然知らない。
それもムリはない。
マジで、昨日今日のつきあいなのだ。
突然出会ってその場で口説かれた。なれなれしく。
ルフィの兄ってことで、そこまで邪険にはしないで ただ聞き流してきた。ぜんぶタチの悪いジョーダンということにして。
――――・・・実際、ジョーダンだろうしな。
アイツの言動って、まるで本気っぽくないし。
弟の仲間にちょっかいかけて何が楽しいのかとも思うが、ルフィに負けず劣らずの変人みたいだし、こっちの言い分は通じないだろう。
―――― そして今にいたる。
さすがにみんなの前で、あんな悪趣味なセリフを吐いたのは やりすぎだよな。
うん、俺はそれにハラたってんだな、きっと。
なんかエースって、人慣れしてて、いかにも遊んでるってカンジだし。
そんな相手の過去の遍歴だ。推して知るべし、だろうけどよ。
過去になんか興味はない。
そもそも、エースにだって恋愛感情なんか持つわけもない。
激しい苛立ちは、なんとなくダシにされた気分になるせいだ。
『好み』なんて漠然とした範疇でくくられたこと。
俺がアイツの過去にリンクした範疇だから、アイツがちょっかいかけるってこと。
――――エースになんか、キョーミない。
ふいに、足音が聞こえた。
パタパタパタパタと、騒々しい靴音。
この部屋に近づいてくる。
慣れた気配だから、相手はすぐに分かった。
ノックもなしにトビラが開く。
「よう !!」
元気な声をよこしてくるのは、俺にとっての問題発言を吐いた船長そのヒトだった。
手にもったミカンを三個、俺に渡す。
「少しは食えよー。メシ食ってねーじゃん」
缶詰の山の前に座っていた俺は、渡されたそれを自分のわきにおいた。
「まだハラへらねーから。気が向いたら食うよ。・・・・・・・・・・・・サンキュ」
食いモンはもちろんムダにしないし、ルフィの気遣いも嬉しかったので素直に礼を返す。ルフィはしししと笑った。
そいや、みんなの食事中は配膳とかでけっこー忙しかったから、ロクに食べていない、と やっと思い出す。もともと そんなに食う方でもねぇんだが。
「――― もう行けよ。ここ、タバコ臭いだろ?」
ルフィが悪いわけではないが、やっぱり落ち着くまではひとりが良くて、つい邪険に接してしまう。
が、ルフィはそんな様子はさっぱりムシして隣に座り込んだ。
相変わらずヒトの言うことなんか聞いてねーな、コイツ。
ちょっとあきれてしまう。
狭い室内は、ひとり人間が増えただけで大きく雰囲気が変わる気がする。
――――ルフィの気配はとても陽性だ。あっけらかんとした晴れの日みたいに。
それはエースも同じだった。
「・・・・・・」
歯が浮くような口説き文句を寄こす相手を心底キライになれないのは、その空気が心地よかったからなのかもしれない。
「エースなら、まだ上でサンジ探してるぞ」
「・・・・・・・」
―――― 聞いてねぇよ、そんなこと。
別に話すことなんてないし。
アイツは、俺がムカついてる理由すら分かってねーに決まってる。
しかめっ面のまま無言の俺に、ルフィは褒めろと言いたげに自分を指差した。
「でもこの船は俺のが詳しいからな!!。先にサンジを見つけた!!」
「――― そりゃ、なぁ」
あいつはお客サン (ていうか、敵?)、だからな。
この船にも詳しくない。俺のことも詳しくない。当たり前だ。
俺が仕分けてる缶詰をイミもなく指で転がしながら、ルフィが横目に俺を見、スネたカオになった。
「ナミがさぁ、そーゆうの、ヤキモチなんだっていってたぞ」
「っ!!!」
ふいうちに動揺して身体がこわばる。持っていた缶詰が数個床におちた。
硬い床に、硬い缶詰がぶつかる耳障りな音が地下室に響く。
落とす時、爪にひっかけたのが鈍く痛んだ。
「なっ!!!、違ェよ!!!」
赤面してしまってるのが分かる。
興奮するとそーなんだよ、図星さされたからじゃねぇ!!。
大体、なんで男相手にヤキモチなんか焼くんだ!!?。フザけんな!!!。
しかし、怒鳴る俺に対し、ルフィは腕組みして うんうんとうなずき、いつものトーンで言葉を次いだ。
「うん。俺もそーだといいと思うからさー。あと、エースに負けてらんねぇから。教えにきたんだよ」
「・・・・・・・何を?」
いつも思うけど、コイツってホントにつかみどころがねえな。
コイツに限って計算してるハズはねぇけど、俺の怒気は見事にそがれてしまう。
エースも、だけど。
やっぱ兄弟だからなのか?。
―――― 俺は、こーゆー人種が苦手みたいだな・・・。
ひきこまれて、ペースを狂わされる。
相手の真意がまるで読み取れなくて。
―――― 俺ばっかり、振り回される。
「サンジがエースの好みだっつったのは」
ルフィがにかっと笑って見せた。マジでガキじみた笑顔。
「サンジが俺の好みだからだぞ!!」
「・・・・・・・・・・・・・」
―――はぁ?。
ダメだ、やっぱこいつ分かんねぇ。
どんなジョークだ?、今の。
「・・・・・・・・・・・・」
とりあえず、えーと、ここは怒らないほうがいいよな、きっと。
ナミさんがなんて言ったか知らないけど(そもそも、ヤキモチなんかじゃねーよ!!、ナミさんっ)、ひょっとしたら見当違いにも慰めにきたのかもしんねぇし。
ゾロとかがこーゆーコトいったらシャレになんねぇ気もするが、そこはまぁルフィだし。
俺はうなずいた。
「そーかよ」
「キョーダイは好きなものが似てるだろ?!。肉とか!!。だからエースがサンジを好きだって言ったとき、やっぱって思ったんだよなー!!」
「・・・・・・・え・・・」
――――・・・じゃあ別に、過去にエースがつきあってる女がどーとか、そんな話じゃなかったのか?。
勝手にそう思い込んでいたんだが。
いや、あんな言い方されたら そう推理するのが むしろ自然だろーけど。
一生懸命何か言い募るルフィをぼんやり眺めつつ考える。
いつの間にかタバコが短くなっていたので、傍らの灰皿につぶした。新しい一本は出さないことにする。
―――― なんだ。
そーかよ。
俺の誤解?。
なんだ。つまんねぇオチ。
ぎすぎすしてた心があっという間に消えていく。
笑いがこみあげた。
なんだ。
バカみてぇ、俺。
「――――で、――――が、――――だろ?。やっぱアイツ油断なんねーヤツだなー!!。てワケで俺も言っとくっ!!。
俺もサンジが好きなんだ!!!」
「へ?」
ちょっとボーっとしてた間に、どうハナシが転がっていたのか分からないが、ルフィは大声で断言すると、いきなり俺の両肩をつかんで壁におしつけた。
「いてっ!!、何しやがるっ!!!」
バカ力め !!。
勢いよく壁にぶちあたって、スーツの両肩が悲鳴をあげた。
そこで気づく。
壁際に追い詰められて (いや、元から壁側にいたんだが)、身体をおさえつけられて。
やけに真剣そーな目のルフィがすぐそばにいて。俺を見てて。
―――― なんだ、この状況?。
ボーっとしてた間に、俺、ルフィを怒らせたのか?。
とりあえず、これがクソ剣士だったら即座にケリを入れるんだが。
相手がルフィなこともあって、どなりつけもできない。
困惑したまま特に抵抗もしないでいると、肩をおさえつけていた手がはずれた。
かわりに、意外に細い指が俺の髪に触れる。
そして、目の前のルフィのカオが近づいてきて―――――
バタンっ。
突然開いたドア。
薄暗い地下室に、光が走る。
ドアの開閉音とほぼ同時に闇を切って飛んできた何かが、ルフィの後頭部を見事に直撃した。
「いってぇぇーっ」
うしろ頭に手をやり、ガキっぽい動作で文句をこぼしたルフィがバッとふりむくと、逆光を受けてそこに立っていたのは、
「ハッハッハ!!、俺を出し抜こーとは十年早かったなァ !!」
やっぱり、というか、エースだった。
ルフィにぶち当てたのは、愛用のオレンジ色したテンガロンハット。
スタスタと歩み寄って床に転がるソレを拾い上げ、指で器用にクルンとまわして見せる。
くやしいが、サマになってる。
「こんなトコに隠れんなよ、サンジ。ルフィの大声が聞こえなきゃ、みつかんなかったぜ?」
いつもの笑顔を浮かべて俺を見下ろすエース。
それからまた帽子をかぶり、俺にしがみついたままの弟の身体をべりっと ひっぺがした。
「・・・・・エース」
「少しは抵抗してくんなきゃ、俺も自信なくすなー」
ジャマすんなとかなんとか、意味不明な文句を言うルフィをムシして俺の前に座るエース。
さっきまでルフィがいた場所だ。
俺より背が高いから、エースはわざわざかがんで目線をあわせる。
「・・・っ!」
心臓がドクンと大きく鳴った。
そーなんだよな。
こいつも、ルフィも。
――――まっすぐ俺を見て話すから、余計苦手なんだよ。
「抵抗って・・・?」
なんとなくエースの言葉をオウム返しに口にして、ネコみたいに 引っ張ってつかまえられてるルフィに視線をうつす。
エースと比べると普段より幼く見えるのは、やっぱ『弟』だからなのか。
「あ?。おいおい、今お前 襲われかけてたんだぜ?、こいつにー。俺だってまだやってないのによ」
分かってない俺にイラついたのか、エースはもう片方の手でルフィの頭をぽかっと殴った。遠慮なくいったのでいい音がする。
襲うって―――。
――― へ?、さっきの、マジでそーだったのか?。
「いやぁ、ジョーダンだと思ってたしな・・・」
「「ジョーダンじゃねぇよ!!!」」
兄弟の声が仲良くハモる。
な、なんでふたりして俺を責めるんだ?。
「好きだって言ったじゃんかー」
ルフィが完璧スネモードでブーたれる。おかわりがもーないと告げた時に見せるカオだった。
「そーは言われてもよ、ちっとも本気になんか見えねぇって」
・・・・・・。
―――― 何度好きとか言われても。
一緒にいたいとか、俺のものになって、とか。
女に言えばいいよーな甘ったるい口説き文句も、まるで本気とは思えなかった。
――――って。
今は、ルフィと話してんのに。
なんでコイツのこと考えてんだよ俺はっ。
ルフィとのやりとりを面白そーに傍観している男をニラむ。
エースは唇のはしを上げて微笑み、ふいに俺の腕をとって立ち上がらせた。
強い力でひきあげられる感触は、なぜかキライじゃない。
―――― この男に触れられるのは初めてじゃないが、そのたびにこんな、落ち着かない気分になるのは なんでなんだろう。
俺を立たせた後、反対に、エースは抱えていたルフィを床に放る。ゴミ袋を捨てるような仕草だった。
「だーっ!!。俺は本気だぞっ!!」
さすがというべきか、ノーダメージで着地したルフィが両腕をぶんぶん ふり回して主張してくる。
まだ俺の手首をつかんだままのエースが、
「こう言ってるけど?」
イジワルそーに俺に意見を求めてくる。
――――・・・その、みすかしてるみてーな視線がイヤなんだよ。
まっすぐに、エースの目を見返した。
「―――― 信じねえよ」
俺の答えは、ルフィに、というより目の前の男に向けたもの。
そして、それに男も気づいているはずだ。
「ひでぇな。俺たちキョーダイは、いつでも本気なんだぜ?」
耳元で、弟に聞こえないよう低くささやかれた言葉は、
―――・・・今までと同じく、どこまで本気か分からない、チャラけたものだったけど。
そのまま持ち上げられた手首に軽く落とされた唇に、俺は文句を失った。
その後も、エースとルフィは夕食の支度をしている俺のそばを離れない。
なにをしてるかと言えば、聞いてるほうが恥ずかしくなるような口説き文句の繰り返し。
―――― ただ口説くってんなら兄貴のが上だな。こーゆーのも年の功ってのか?。
背中を向け、ずっとシカトきめこんでた俺だが、クリームソースを味見しつつ内心評してしまう。
―――― しかしコイツら、なんなんだ?。
兄弟でヘンな賭けとかやってんじゃねぇだろうな。
「??」
ふと、延々と絶え間ない口説き文句が聞こえなくなったと思ったら、いつの間にか殴り合いのケンカを始めてるふたり。
「・・・・・・」
――――・・・なんつーか。
バカだなーとあきれる反面、ちょっと『キョーダイ』ってのがうらやましく感じられないでもない。
争点が『俺のこと』なのはどーかと思うがな。
「エースは敵なんだから、俺の仲間に手を出す権利なんかねーよ!!」
「おいおい、障害が大きい方が愛は盛り上がるんだぜ?。そもそもお前ら、こんなに長く一緒にいても なんも進展してねーんだろ?、望みねーっつーの」
「今までは言ってなかったんだ!!。でも絶対サンジは俺のが好きだ!!」
なんだかなぁ。
こんなやりとり聞いてると、クソムカついてたのもホント、アホらしくなってくるぜ・・・。
―――― そもそも、なんでムカついてたんだっけ。
『まんまエースの好みだしな!』
そうルフィが言って。
『サンジが、エースの好みだっつったのはサンジが俺の好みだからだぞ!!』
・・・・。
よくよく考えてみりゃ、この兄弟ってガキの頃一緒に暮らしてただけなんだよな。
エースはすぐに旅に出てったみたいだし。
エースの恋人のことなんて、ルフィが知ってるわけもねーか。
――――ん?。
まてよ、もっとよくよく考えてみりゃ、あれって俺、ルフィに告白されたってことか?!。
エースのことでムカついてて、誤解がとけてホッとして・・・エースのことばっか考えてたけど・・・・。
って・・・・・。
「「サンジ!!」」
「わっ」
突然、ガシっと両肩をつかまれた。
厨房に向けていた身体をむりやり反転させられる。
すぐ近くに、エースとルフィが真剣な表情で立っていた。
「なんだよっ?」
ひ、人が考え事してるときに割り込むなよなっ!!。
文句を言いたくなったが、とても口外できる内容の『考え事』ではなかったのを思い出し、俺は言葉を飲み込んだ。
―――― 何考えてたんだよ、俺・・・・。
内心、激しく動揺している。
が、幸いというか、ふたりはそれどころではないようで。
両目が『真剣 !!』、と物語っている。
「今の時点でいーんだが・・・」
エースが口火を切った。
「どっちが好きなんだ?!!」
そして、強い口調でルフィ。
「・・・・・・・・・・」
聞かれて、無意識に浮かんだ名前はもちろん言えるハズもなく。
俺は遠慮のないケリをふたり一緒にたたきこんだ。
「どっちもスキじゃねぇっっ!!!」
そろそろ帰ると告げたエースと、俺はひさしぶりの陸地を歩いていた。
うるさいルフィは、今はナミさん達と夢中でミカンを食べてるだろう。
―――― ナミさんとエースって、共謀してんのか?。
夕食後、そーとしか思えないタイミングでナミさんがルフィに、
「ルフィ、今日は畑のミカン、デザートに食べていいわよ?」
かわいらしい (でもどこか小悪魔的な) 笑顔で言った途端に、目を輝かせてルフィが飛んで出て行って。
その後ろ姿が消えた頃、エースが俺の腕をひっぱった。
俺の手を放さないまま、エースはのんびり歩いていく。
海辺の道のため、強い潮風がひっきりなしにあたる。
髪がなぶられる感触は もう慣れて久しいが、しっかりと固定した地面の感触には、少しの違和感と、やはり安堵を覚える。
あまり大きい街ではないので、夜になると暗く人通りもなくなるが、ひとすじ離れた商店街のあかりが届くのでそこまで暗くはない。
残念にも、月は出ていないが。
エースにしては珍しく、口数が少ない。
つーか、全然しゃべらない。さっきまで弟とバカ騒ぎしてたくせに。
斜め前を歩いていくエース。
その横顔に目をやった。
どこか瀟洒な、でも軽そーな男。
―――― 考えてみれば、あんまりじっくりコイツを見たこともなかったな。
ふと思う。
こいつといると、やけに落ち着かないし。
ふざけた調子でふざけた言葉ばっか言ってくるし。
「なぁ」
横顔に声をかけてみた。なんとなく、ムシされるかな、と危惧しながら。
エースはワンタイミング遅らせたあと、ゆっくり振り向く。
「どこまで行くんだ?」
当たり前な俺の質問。見送りにしたって長すぎる。
一本道だからいいけど、俺はあまり道筋を覚えるのが得意じゃない。某クソ剣士ほどではねぇけど。子供の頃から海の上のレストランで育ったからな。
なのに、何がおかしいのかエースは笑った。
質問とまるで違うことを言い出す。
「ホントはさ」
ルフィと同じ、そして俺と違いすぎる真っ黒な瞳が俺をとらえた。
「連れてっちゃいたいんだよな」
「・・・・」
―――― お前の船に、か?。
心臓が、うるさく騒ぎ出す。
―――― お前と一緒に?。
―――― お前のところに?。
俺を射抜く、エースの目は、真剣で。
そんなカオは、見たことがなかったから。
しかし、次の瞬間にはいつものエースに戻っていた。
軽口めかして、
「だってあそこにいたらルフィのヤツが襲いそーだもんな!!。貞操の危機だぜ?」
「なーにが貞操だ、アホ!!!」
いっ時でも本気にとった自分がバカらしい。
そうだ、こいつはいつでもジョーダンばっかの男なんだよな。
―――― 知ってたけどよ。
「スキだぜ、サンジ」
だから。
「ホンキで言ってんだ」
俺は。
「俺のもんになるって言えよ」
お前の言葉なんか信じない。
お前の過去が気になったり。
俺ばっかイライラしたり、気をもんだり。
なのにお前はいつだって飄々としてる。ふざけてる。
ふりまわされんのはゴメンなんだよ。
なんで俺の分が悪いんだ?。
理不尽だぜ。
だから俺にできんのは、
お前の言葉を、
全部信じないことだけ。
―――― どうして、ホンキで拒絶できないのかは。
自分でも、分からない。
別れ際、エースは笑った。
「ひでぇな。俺たちキョーダイは、いつでも本気なんだぜ?」
他愛無い口説き文句のあと、
はじめてされた口付けに。
なんで、
目を閉じて こたえてしまったんだろう。
―――― どうして、ホンキで拒絶できないのかは。
自分でも、分からない。
だから。
「いーかげん俺のものになってよ」
その意味がわかるまでは。
「スキなんだ」
ささやかれた言葉は、
絶対に、信じない。
END
エースXサンです!!。エーサンすごくスキです!!。
私の腐った頭の中で、なぜか(ホントにな)、両想い度の高いカップリングだったり(同率一位がシャンクス。シャンサンもマイブーム)。
いちおう兄弟×サンジなんだけど、この話では少なくとも、船長大負け。剣士にいたっては意識すらされてないよーだし(笑)。でも出てこなくても、私の書くワンピものではゾロはいつでもサンジスキーなカンジです。
そのうち、『昔ふたりは会ってたんだよねー』的な話もエーサンはやってみたいっスー(シャンクスもv)。
By.伊田くると
ナミ 「とりあえず、今はエースさんの味方かしらね」
ビビ 「どうして?」
ナミ 「いいじゃないv、海を挟んだ遠距離恋愛なんてーv。それにルフィなんてサンジ君より背低いしー。お兄さんのが絵になるわよ」
ビビ 「そっか・・・じゃあ私はルフィさんを応援しよーかな・・・」
ウソップ 「ヘンな船・・・・」
01 10 1