ここは偉大なる航路・グランドライン。
天候も進路も問題のない、とある日。
―――― 始まりは、なんてことない雑談だったのだ。
いつものサンジ特製の夕食にみんなが大満足した後で。
そつなく見計らったタイミングで出されたミルクババロアをデザートに、クルー一行、まったりと なごんでいる時だった。
船に同乗することになって まだ時間の浅いビビの、
「みなさんが出会った時の話が聞きたい」
という発言から、それほど昔でもない昔話がスタートして。
ルフィが故郷・フーシャ村を出て ゾロ・ナミと出会い、ウソップの村へと おもむいた所まで話が進んだ。
話し手は、主にルフィとナミである。
あまり多弁ではないゾロは、そんなこともあったな、と言いたげに耳を傾けている (が、泥つきのオニギリを食べたくだりでサンジに笑顔で褒められて、非常に嬉しそうだった)。
他のメンバーも、楽しげにあいづちをうったり笑ったり、それは仲間らしい ひと時といえた。
話題がウソップ登場となったところで、話者がウソップに切り替わる。
ウソと脚色を多大にまじえてのトークに、ナミの容赦ないツッコミが入りつつ、村壊滅―――正確には、富豪の遺産を狙って来襲した海賊団の話になったところで。
パリっとしたスーツ姿の船の料理人が、場にあわないトーンの声をあげた。
「クラハドールが?!!」
それは、あまりに予想外の反応だったので。
ルフィ、ナミ、ゾロ、ウソップは目を丸くした。
ビビやチョッパーも、どうしたの?、という視線をサンジに向けたが、彼らしくもなく まるで気づいていない。
スプーンを持った手が止まっている。
「サンジ?」
ウソップがちょっとビクビクしつつ声をかけた。
軽快なおしゃべりがやむ。
全員がサンジを注視した。
―――― 一瞬の沈黙の後。
「・・・まさか、殺したのか?!!」
隣の席にいたゾロに 食ってかかる勢いで問いただすサンジ。これはもうあきらかに、いつもの彼らしくない。
ゾロは通常の無表情の中にも、かすかに不機嫌な色を浮かべつつ首をふった。
「いや。そうは聞いてねぇな」
「殺してねぇよ。ブッ飛ばしてやっただけだ!!」
ブッ飛ばしてくれた張本人の船長・ルフィが断言する。
なんとなくサンジが怒っているらしい→怒らせたくない、と思考がはたらいたのか、彼にしては早めのフォローだ。
まあ真実でもある。今までに戦ったどんな相手でも、殺そうとはしていない。
「・・・・・」
サンジはそれを聞いてやっと安心したらしい。
浅瀬の海と同じ、明るい青い瞳をほそめ、小さくため息をついた。
その様子がやけにいじらしくかわいく見えて、ルフィ始め、船員はそろって目を奪われてしまう。
「・・・あんだよ、ビックリさせんなよな。はー、しかしお前、あのキャプテン・クロ・・・、クラハドールを倒したのかよ・・・。やっぱタダ者じゃなかったんだなぁ・・・」
サンジは嘆息しつつ、一番にババロアを食い尽くしたルフィを見やる。感慨深げに。
そういうなら、今までにも かなりの強敵を打ち倒しているルフィ達むぎわら海賊団なのだが、『クラハドールを倒した』というのはそれにも勝る、というか 彼にとって特別なことらしい。
―――― サンジの中でルフィの評価が上がったのか??、
と、ジェラシーまじりの視線を仲間から受ける船長だった。
サンジは少しさびしげに、
「生きてるとは知ってたんだけどよ・・・、まさか俺の連れと関わってたとはな・・・」
「・・・あのクラハドールと知り合いなの?」
好奇心全開!! の目をキラキラさせてナミが身を乗り出し尋ねる。
クルー 一行が切実にしたい質問だったので、みんな黙って答えを待った。
ちなみに、『あの』には、
「冷酷な」
「ネコ好きの」
「むしろ海賊より オリンピックで短距離走に出た方がいいんじゃない?」
などのイミが含まれている。
サンジは嬉しげだ。
「そうですよ!!。ウチのレストランの常連でした。俺が皿洗いにイモむきばっかの見習いから、やっと料理出すことになった時の初めての客でした!。海賊だって聞いたけど、信じられなかったな。物腰も丁寧で、むしろ学者かなにかと思ってたし・・・」
「「「・・・・・・」」」
なんとなく黙ってしまう一行。
というか、コトバを挟めない一行。
ここまで嬉しそうに、ある人物を褒めちぎる(女性は除く) サンジを見たことがなかった一行。
――――・・・なっなんか・・・・・。
―――ムカつく・・・・・・!!!。
特に、実際にクラハドール一味と死闘を繰り広げた初期メンバーの心中はめちゃくちゃ複雑だった。
ルフィは単純に、さっきまで自分の話を機嫌よく聞いてくれていたサンジの関心が別の所に行ってしまったことに。
ナミは、『女ならともかく』、あのサンジが男を褒めているという、どこかシャクで、でもちょっと乙女心が燃える光景に。
ゾロはサンジの口から、「クラハドール」と出てくるだけで額に青筋が浮かぶ始末で。
ウソップはほかのメンバーほど コックさんを溺愛(笑) していたわけではなかったが、大事な幼馴染みの少女を傷つけた男への褒めコトバに、素直にうなずく気にはとてもなれず。
サンジを除き、食卓はじょじょに重い空気につつまれていた。
そんなことには つゆも気づかず、料理人の褒め殺しは続いている。
「俺が出した料理を、すげー気に入ってくれてさ!。『次来た時は指名するから』、なんて言われてさー。もースゴク嬉しくて!!。クラハドールが何スキなのか、とか さりげなく聞こーとがんばったりよ。今思うと、アイツめちゃくちゃ頭良かったから、俺の考えなんて全部分かってたんだろうけど。騙されたフリして、いろいろ質問に答えてくれてさー。牡蠣スキだって言ったから、牡蠣料理猛勉強してよ。それで褒められた時の嬉しさったら、俺コック目指してて良かったーってカンジだったぜ!!!」
「難しそーな本持ってて、物静かで。クラハドールがいると、そこだけ空気が違ってたみたいだったな。忙しそうだったけど・・・ちょうど名前売れ出してた頃だったし・・・、それでも年に一回は顔出してくれてて。そのたびに俺に、って土産くれてさー」
「「「・・・・・・・」」」
――― そこまで褒めるか、この野郎。
しかも思った以上に親密じゃないか。
ちょっと顔見知り、客と店員、という程度ではないようだ。
クルーの面々はムカムカしつつも、でも聞かないわけにもいかず、やむなく耳を傾ける。
確かに、サンジの勤めていた海上レストランは、そのオーナーの前身もそうだったのだが・・・、客層には海賊も多かった、と聞いている。
クルージングの途中に寄る金持ち連中と、海の荒くれ者が同じテーブルにつくというのも奇妙な図だが、あらゆる方面で人気のあったスポットなので 客足は絶えないレストランだ。
『あの』鷹の目の男・ミホークも立ち寄ったとか寄らないとか、そんな話もあるくらいだし、クラハドールの海賊船が停泊していても おかしくはないだろうが。
「オールブルーに関してはさ、あんま信じてないみたいだったけど。『グランドラインは奇妙な海だから、そんな場所もあるかもしれないな』、なんて言ってくれたし。ホントは、あいつの海賊船に誘って欲しかったんだけどさ。そりゃクソジジイのことがあるから、すぐにはムリだったろうけど。そう言ったら断られて、すげーショックで。怒って責めたら、もう自分は海賊やめる気だから、って、ナイショで教えてくれてさー。・・・あのヒトって、デリケートなんだよな。お前らみてーに敵襲とかで大騒ぎして喜んでられるよーな、ぶっとい鉄製神経じゃねんだよ。これからは、平穏に静かに暮らしたいって言われて。『このレストランでお前といる時のような、穏やかな時間をな』、なんて――― !!!。すっげ感動したんだぜ、あの時はさ !!」
――― そりゃ口説かれてたんじゃ・・・・・。
よどみないサンジの長広舌に、皆、心中でツッコミを入れる。
それに、敵襲に対して船長の次に喜んで騒ぐのは当のサンジだったりもするわけだが、それどころではないので言及されなかった。
しかし、一歩間違えていたらクラハドールと共謀したサンジと、カヤをめぐって戦うことになっていたかも知れないとは・・・。
運命というのは恐ろしい。
ナミは、とりあえずサンジの申し出を断ってくれたクラハドールに感謝した。
―――― それにしたって・・・。
ルフィが航海の仲間に誘ったときは、かなりかーなーり、なだめてすかして口説いて口説いて、しまいにはレストランのコック全員に協力してもらったと聞いているが・・・・。
クラハドールには無条件で、自分から申し出ているらしい。
本人も言う通り、実際問題としては実現しなかっただろうが。
――――・・・ホントに、よっぽどなついてたのねー・・・。
しかしなぜにクラハドールなのか。
どうにも釈然としないナミだった。
サンジの話は続く。
「・・・だから、海軍につかまって殺されたって聞いても・・・、信じなかったんだ。あのヒトのことだし・・・絶対ェ生き延びてると思ったが・・・。当たってたなぁー、さすが俺v。『穏やかな生活』を悪巧みで手に入れようとする辺りがどこまでもクラハドールってカンジだけどな」
「・・・サンジくん?、そーゆー卑怯なマネって、あなた大嫌いじゃなかったの?」
軽いめまいを感じて、こめかみを指でおさえつつナミが尋ねる。
しかもクラハドールが騙して殺害しようとしていたのは、サンジが見ても文句のつけようのない、可憐な『美少女』なのだが・・・。
「卑怯なマネ?。大嫌いですよ!!!。そいや、クラハドールっていつも合わないメガネかけてて。俺初めて給料でたとき、新しいフレーム買ってやりたかったんだけど。手で押し上げるのがクセだからこれでいいんだ、なんて言って、逆に服買ってもらっちゃったんだよな。いつも下品でバカでクソなコック共といたからさぁー、あの洗練されたカンジとか、かゆいトコに手が届く優しい気配りっぷりとか、すげーカッコよくってさー。兄貴がいたらこんなカンジかなー、なんて思ったりして」
―――― 聞いてるようだが・・・聞いていない。
サンジってこんなヤツだったのか・・・と、新しい一面に、キョトン顔のままのビビとチョッパー。
ウソップはあきらめた様子で、水を飲みつつため息ひとつ。
ナミは持ち直そうと努力をしたが撃沈された。
もっとも不快指数の高そうなのはルフィとゾロ。
いつもなら、おかわりがなくなると同時に、新しい皿をひょいと出してくれるサンジなのに、それも忘れて夢中になって話しているのがクラハドールのことなのだからムリはない。
基本的にはふたりとも、サンジが積極的に にこやかにしゃべってくれるのはとても嬉しいのだ。
男相手に全開の笑顔を見せてくれるのは、自慢の料理に「うまい!!」と言った時か、人間じゃなくて相手が動物の時か、よほど機嫌のいい時だけだから。
あまりプライベートなことをすすんで話すタイプでもないし。
彼の過去なら、夜を徹してでもすべて聞き明かしたいとつねづね考えていた夢がかなったといえばそうなのだが。
『過去の男』(笑) の思い出話は、やはりどうしても嫉妬の炎がメラメラとわきあがってしまう。
「アイツに少しでも近づきたくて、物腰とかマネしてみたりしたんですよー」
「ああ・・・、サンジさんも丁寧な態度ですよね・・・(女性限定で)。サンジさんがいつもきちんとスーツ姿なのは、ひょっとしてそのヒトの影響なんですか?」
困惑しつつも、あいづちを打っているビビ。
ウソップ達の証言と、サンジのノロケ(?)から、クラハドールのイメージがどうしても固定できないらしく (当たり前だ。違いすぎる)、必死で頭の中で組み立てているようだ。律儀な性格である。
「さすがビビちゃん!!、慧眼!!!。タイドだけじゃなくて服もかな。クラハドールもさ、海賊にしては身なりに気を使うヤツだったもんでね・・・。それに、最初会った頃は俺、いつもシェフのカッコ・・・ホラ、白いヤツにスカーフで。それしてたんだけど、クラハドールが黒の方が似合うっつってくれたし・・・。それからはほぼ黒系統だな」
サンジの衣服までクラハドールのチェックが入っていたらしい。
さもありなん、あの男は神経質なカンペキ主義者だった。
確かに、常日頃 海上にいるというのに、いつまでたっても焼けない白い肌といい、さわりたくてたまらない繊細なプラチナブロンドの髪といい、それを際立たせるような・・・
そうとも黒が似合うよ!!!。
と、全員、認めざるを得なかったが―――。
「今どーしてんのかなー・・・。俺もレストランやめちゃったしよ・・・。海賊廃業したのかな?。久し振りに会いたくなっちまったな・・・、お前らが会った時のクラハドールってさ、どうだった?」
サンジはパッと目を輝かせて、ルフィ、ナミ、ゾロ、ウソップを順に見上げた。
ルフィは今までのおもしろくないキモチもあいまって、
「ひでーヤツだった!!!」
非常に正直に回答してしまった。
ゾロもうなずき、
「仲間ごと殺そうとするような男だ」
舌打ちも入れて答える。
ウソップも憤慨して、
「カヤをずっと騙してたんだ!!。あいつは最低の男だ!。勇敢な海の戦士じゃまったくねぇ!!!」
机を叩く、のオプションまでつけた。
「!!!」
察しの悪い男の三連発に、ナミとビビの顔色が変わる。
サンジが聞きたがっている答えとは、あまりにも かけ離れているのが明白だった。
案の定、サンジはムッとした顔になり、文句を言おうと口を開く。
―――― のをとめたのはナミだった。
「うんとね !、あんたの言った通り、あわないメガネしてたわよ!!。冷静でクールそうだったし、しゃべり方は・・・、豹変するまでは紳士的だったかな」
見事なフォロー。
とたんに相好を崩してその話題にとびつくサンジ。
「へぇー、それでそれで???」
「え、えっとー、頭は確かによさそうだったかな、身内でもないのに遺産を手に入れるって大変だけど、綿密に計画たててたし・・・。演技もかなり上手そうだったわね。髪型はオールバックで・・・」
一生懸命、批判以外のクラハドールの記憶をひきだしているナミと、嬉しげにうなずくサンジ。
その様子を見つつ、ルフィがかなりホンキの声音でつぶやいた。
「・・・・・・・殺しとけば良かった・・・」
いつものんきな お子様風味の船長に合わない、毒々しいセリフにつっこむ者はひとりもおらず。
みな、深く首をたてにふった。
その後、
『サンジは理知的なのがタイプらしい』
という結論に達したバカ男二人組、自称・未来の海賊王と大剣豪氏は。
ナミの部屋に入り浸り、蔵書を読み漁ってエセインテリになるべく努めたが。
当のサンジは気味悪がるぱかりだったという。
END
我ながらすごいカップリング・・・。
とゆーわけでクロ×サン(こう書くとクロコダイルみたい・・・)でした。C.クロでてきてないけど。
バラティエには過去、みんな来てるんですよ!!。
エースもシャンクスもクロも(大笑)!!。すげー店だなオイ。
ここまでイミのない話書く私ってどうだろう・・・。
とりあえず、クラハドールは敵キャラの中で一番スキですv (でも、もしエース・シャンクスが今後 敵キャラになったらどうしよう・・・)
By.伊田くると
ゾロ 「おめぇは隙が多すぎる!!。男が服をプレゼントする時は、ぜってェ脱がせることまで考えてんだからな!!。カンタンに受け取んなよ!!」
サンジ 「???。どーしたんだお前・・・。大体、なんだよその童貞理論はよ」
01 10 22