ゴーイングメリー号の船長と料理人には、実はクルーのほとんどが知らない、ある共通点があった。
いや、知らないというわけではなかったのだが、その共通点のベクトルがあまりに違ったため、普段は気づかないというだけなのだが。
ちなみにその共通点に、当の本人達も気づいてはいなかった。
とめられないぜマイハート
パタパタパタパタ
甲板をたたく軽い音。
家事がひと段落し、船首の手すりにもたれかかって一服していたサンジは、その音に薄い水色の目を細めた。
まもなく視界に入るのは、そんな足音をたてて走り回るトナカイ。
トナカイだけど、二足歩行で元気にパタパタ走っている。
さっきから、何往復もあっちへ行ったりこっちへ行ったり。ウソップが作ったタコを飛ばして遊んでいるのだ。
そのたび、サンジはその姿を目で追っていた。
ちょっと変わったこのトナカイのチョッパー、新しく仲間に加わったなんとお医者さんだ。
それだけ聞くと信じられない話だけれど、実際彼に治療してもらったのでサンジはそれをよく知っている。そこらの医者よりよほど勉強熱心で有能なんだろうな、とも思っている。
そう冷静に思う自分がいる。それはそうなのだが。でも。
心の、また違った部分が違う感情を呼び起こすのだ。
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・うまそー」
ついつい口にしてしまったそのセリフは、ターゲットであるモコモコトナカイには幸い聞こえなかったのだが。
たまたまコックの近くで鍛錬をしていた剣士はバッチリ耳にとめてしまい。
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
鍛錬のせいではない、冷たい汗をかくこととなった。
パタパタパタパタ
甲板をたたく軽い音。
みかん畑に性懲りもなく盗みに入ろうとし、あっさりナミにしかられ殴られていたルフィは、その音を聞きとめてじっと耳をすませた。
まもなく視界に入るのは、そんな足音をたてて走り回るトナカイ。
トナカイだけど、二足歩行でのんきにパタパタ走っている。
さっきから、何往復もあっちへ行ったりこっちへ行ったり。ウソップが作ったタコを飛ばして遊んでいるのだ。
そのたび、ルフィはその姿を目で追っていた。
ちょっと変わったこのトナカイ、新しく仲間に加わったなんとフシギ変形トナカイだ。
そう聞くだけでワクワクしてくる話だけれど、実際にその変身のサマを見たルフィは、もっとワクワクしている。もっといろいろ変形してくんないかなー、なんてひそかに思っている。
そう冷静に思う自分がいる。それはそうなのだが。でも。
心の、また違った部分が違う感情を呼び起こすのだ。
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・うまそー」
ついつい口にしてしまったそのセリフは、そのターゲットであるモコモコトナカイには幸い聞こえなかったのだが。
鍛錬が終了し、たまたま船長のそばを通りかかった剣士はバッチリ耳にとめてしまい。
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
鍛錬の後のすがすがしいものではない、疲労感を味わうこととなった。
ゴーイングメリー号の船長と料理人には、実はクルーのほとんどが知らない、ある共通点があった。
いや、知らないというわけではなかったのだが、その共通点のベクトルがあまりに違ったため、普段は気づかないというだけなのだが。
ほとんどというのは、唯一の例外・剣士ゾロがいるからだ。
そしてゾロが知ってしまったその共通点とは・・・・――――
食に対する、異様な執着、である。
サンジは「調理してみたい」「こんな風にしてみたい」という、あくまで料理人としての執着で。
ルフィはどストレートに「食ってみたい」という食欲オンリーの執着で。
その執着がゆえに。
仲間であるトナカイ・チョッパーに、不適切な感情をいだいてしまうのだ。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・時々だけど。
それは、パタパタ走るチョッパーの、揺れるシッポとか。
湯上がりチョッパーの、ほかほかしてるおなかとか。
変形して本来のトナカイ型になった時の、毛皮におおわれていても分かる しまったカンジの肉だとか。
なんやかんやを見ちゃった時だけ、ちょっとだけ、自分の中にある執着を、思い出してしまうのである。
―――― そりゃヤバイだろ。
誰よりも早くそれに気づき、あきれるというより ちょっと怖くなったのは、意外にも常識人のゾロだった。
今までは、
「まさかな・・」と思って打ち消していたのだが、今日あのふたりは確かに、「うまそー」と言った。
サンジの頭の中では、あらゆる調理法が浮かんでそうだったし、ルフィはルフィで丸焼きをかぶりつくとこなんかをジューシイに想像してそうだった。
いつかあのふたりが共謀して、あのいたいけな (かどうかはしらないが、彼らの邪な思惑で狙われているのは確かな) 動物をペロリとイってしまうことも考えられる。
心からちゃんと仲間だと思っているんだろう、それはゾロにも分かる。しかし、仲間にちょっとだけでも食欲を感じるというのはマズイ、全世界の常識と てらしあわせたってマズイ。
そんな事を考えてるゾロだって、仲間のある人物に食欲ではないものの性欲はギンギンに感じてたりはするのだが、それとはまた問題が違う。
―――― というわけで、意外にも常識人のゾロは、倫理の道から ちと外れギミな船長とコックに、道徳を説いてやることにした。
キッチンにて。
「―――― で、ウサギは、自分は何も与えることができないから、と自ら火の中にとびこんで、その肉を食わせたんだ」
ルフィとサンジをテーブルに座らせ、ゾロはとうとうと、さほど長くはない話をしおえた。
有名な物話である。
ゾロ自身は子供の頃になにかで読み聞かせられたという漠然とした記憶しかなかったので、かなり適当にハショッていた。
こんなカンジに。
――――誰かにプレゼントするのに、ほかの仲間はいろいろと物をあげられるんだけど、ウサギだけがそれをできない。だからウサギは―――― (以下、前述のゾロのセリフに続く)。
・・・本当に適当だ。適当すぎる。これでは場面が浮かばない。
ただ、ゾロが言いたいのは正確なストーリーではなく、この悲しいオチである(オチというかこの結末は、子供心にも覚えていたのだ)。
相手のために自ら死んでしまったウサギ。
つまり、「そんなことをされたら悲しいし、相手ものぞんでいないはずだ」と。
幼少期の純真なゾロはそう強く思ったのである。
ハラがへってたのなら、一緒に探せばいい。いや、少しの空腹なら耐えろ!と怒りさえわくのだ(やはり、ゾロは話の内容はウロ覚えなのだった)。
突然キッチンにふたりを集め、こんな話を始めたゾロ。
もちろん彼に思惑はあった。そう、幼少期の自分と同じ感想をもってもらえば、仲間を食べようなんて気をなくすだろうと。
もし船に食料がなくなっても、チョッパーを食べるなんて望まないし、そんなことになったら悲しいだろう、と。
日ごろあまり頭をつかわない剣士にしては考えたものである。ハナから叱るのでなく、自分から過ちに気づいて欲しいとする辺り、似合わないが教育者に向いているのかもしれなかった。
そんなゾロせんせいの生徒であるルフィとサンジ。
―――― は、あっけにとられたような顔で話を聞いていたのだが。
ゾロが口を閉じ、さあ、お前ら、よく考えてくれ、という意味でふたりの感想を目でうながすと、
「ウサギってうまいんだよな」
まず、サンジがけろっと言った。
「生き物はみんなうまい!!!」
それをうけて、ルフィがとりようによっては危険な発言をした。
「シメる前に自分から焼肉になってくれるなんて・・・料理人冥利につきるよなあ」
「やきにくーっ」
――――ハイ?!!。
ゾロは目の前のふたりの会話にまたも冷や汗が背中を伝うのを感じた。
なんでだ?!。
ちっとも、感銘を受けてくれてない!!!。
むしろ、「食」の部分でしか反応してくれてない!!!
ゾロのハショりにハショった話し方もマズかったのかもしれないが、この話はバーベキューに行ってウサギを焼いた、おいしく食べた、というものではないのだ。
なのに、このふたりときたら。
しまいには、ルフィの「ウサギ料理作ってくれよ!」な ねだり攻撃に、コック魂を刺激されたサンジがはりきって嬉しそうに答えるという。
とてもわきあいあいとした雰囲気で。
『第一回!!ゾロせんせいの道徳の時間』は見事に玉砕した。
この後、第二回を開く気力のないゾロせんせいにできることは、
「あまりひとりにならないようにな・・・」
とモコモコの船医に力なく忠告することぐらいで。
後日。
「この船だと、やっぱゾロだよなー」
「んー、まあたくましいし、肉もしまってそーだよなー。骨太だけどよ。いいダシとれるかも」
「脂身はなさそーだけどなー」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・(汗)」
トナカイを守るどころではない、自分までもターゲットであると知った、哀れな (でも意外に常識人な)ゾロがいた。
END
こんなルフィとサンジ嫌なんだってば・・・!!(なのにまた書く)。
70000ヒットありがとうございます記念がなんでこーなっちゃったのかはコレ謎に包まれています・・・。
あの話(民話?神話?)、私自身がゾロと同じくらいウロ覚え・・・。
なんで自殺までして贈り物をしなきゃいけなかったんだ・・・?。
伊田くると
チョッパー 「わ!。このシチューすごいおいしいぞ!!、サンジ!!」
サンジ 「だろ?。ホラもっと食えよ。たくさん作ったからな」
ゾロ 「よせチョッパーっ!!太ったら終わりだ!!。自分がかわいいなら我慢しろ!!」
ウソップ&ナミ 「???」
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