×××はじめに×××
このページには、カカイルSS『理想の王子様』がおいてあります。
続き物なのですが、前パソが壊れた際、いくつかフロッピーに保存できなかったデータがありました。このSSのデータも消えてしまいました。
既にサイトにアップしていた1〜3話のデータは残ってますが、結末部分(4〜5話)がありません(><)
もう一度思い出して書き直そうかと思っていたのですが、それよりは新しいものを作りたいというのが正直な所です。4・5話をぐずぐずとアップしてなかったのも、あまり気に入ってなかったり・・・というのがあったりなので。
なので、↓のSSは未完となっておりますが、それでもいっか、という方のみどうぞご覧下さいませ。
ストーリー傾向は、カカシ視点。カカ→イル風味。ほのぼの・シリアスです。
いよっしゃあっ!!!。
心の中では、大きな大きなガッツホーズ。
浮き足だって、注意しないとカオがにやけて戻らなくなりそう。
なぜならなぜなら。
今日は、初めてのイルカ先生宅への訪問なんだから!!。
理想の王子サマ
〜1〜
最初に見たときから、なんかいーなー、って思ってたんだよなー。
いや、別にオレだってホモなワケじゃないし。
そーゆーイミでの「いーなー」じゃなかったハズなんだけど。
いつのまにかね。
そーゆーイミでもいっか、と。
あっさり軌道修正して、お近づきのチャンスを狙ってたオレだった。
――― しかし、イルカ先生はガードが固い。
もっと正確にいうと、彼自身でなく、彼のまわりのガードが固いのだ。
まず、うずまきナルト。
自分の初の教え子で、さっきまで任務で一緒だったお子様だけど、こいつがわかってんだかわかってないんだか、とにかく、オレがイルカ先生に接触しようとするのが面白くないようで。
なにかと割り込んできたり、会話のジャマするんだよなー。
イルカ先生も、どっちが優先かっていったらやっぱりナルトになるわけで。
意識がそっちに持ってかれてくのがありありと分かるから、ツライ。
それに、同じく教え子のうちはサスケ。
こっちは完全な確信犯だ。
さりげなくさりげなく、オレとイルカ先生の距離を遠ざけたり。
オレが話しかけようとしてんのを察知して、先にイルカ先生の注意をひいたり。
オレ本人にも、「イルカ先生に手出すなよ」光線バリバリ出してるし (教官へのタイドがソレかい)。
コドモなこと、自分の不幸な境遇まで利用して、ナルトに次いで様々な恩恵にあずかっている憎いヤツ。
ヤツのイルカ先生を見る目といったら、どーしよーもなくそこにある感情はひとつで。
・・・オレも同じ目で見てんだろーから、よく分かるんだけどねー。
さらに、火影のジーサン。
担当していた学年が卒業して、現在担任のクラスを持たないイルカ先生が、任務受付所にも勤務することになってから、当たり前のよーに隣の席に居座っている。
今までは、ほんとに気の向いた時たまにしか受付になんて来やしなかったクセにーっ!!。
大した仕事もせず (まあ里長に雑用やらせるワケにもいかんだろーが)、イルカ先生に話しかけてばかり。
『実の息子のように思っている』、なんてごまかしてやがるけど、とてもそーは思えん頬のゆるみようだ。
ハタ目には、援助交際してるカップルにしか見えねーんだよ、トシ考えろ!。
と、いつか言ってやりたいけど、そしたら里追い出されるかも・・・(イルカ先生が里にいるうちはやめとこう)。
で、とにかくこのジーサンは、自分とコドモ以外がイルカ先生にちょっかいだすのが気に食わないらしく。
ナルト・サスケと同じく、イルカ先生とのコミュニケーションをことごとく邪魔してくれるのであった。
しかし、やっぱり神はこんなケナゲなオレに微笑んだね !。
偶然、ほんとに偶然、アカデミー近くの商店街で買い物してるイルカ先生と会ったのだ。
しかもイルカ先生はひとり!。
余計なコブなしの状況で、これで誘わずにいられるかーっ!!、てなモンで。
一緒に飲みにでも・・・というオレの言葉にイルカ先生はあっさり承諾をくれ、しかもなんなら自宅で、と向こうから言ってくれたのだ!!!。
うーん・・・これってけっこう脈アリなんじゃないのか!?。
ともあれ、こうしてオレはスキップしたくなる足を必死にこらえ、いつも通りをよそおいつつ、ふたり仲良く連れ立ってイルカ先生宅へと向かった。
「特売してまして、ついたくさん買いすぎちゃったんですよー。早めに食べなきゃいけないのもあるし、カカシ先生たくさん食べてってくださいね」
イルカ先生の声が台所から聞こえる。
――― はー、なんか幸せ。
「たくさん買ってましたね確かに」
持つのを手伝ったのでよく覚えている。
遠慮深い彼は固辞したけど、むりやり買い物袋を奪ったのだ。
少しでも役に立ちたいっていう乙女心に、はやく気づいてほしーんですけどね。
「ひとり暮らしなんで、多すぎると思ったんですけど。単品で買うよりたくさんで買った方がオトクだ!、と思うとつい・・・、結局食べきれないで残っちゃうなら一緒なんですけどねー。まあナルトとかよく食うんで、最近は残るってことないんですが」
ナルトにはよくメシ作ってやってるんですよね。
知ってんですけど。
やっぱうらやましすぎ。
って、今日はオレも同じ立場じゃん!!。
もうヤツらと並んだってモンだろ、これは。
「お待たせしました、お口に合うかどうか」
照れた笑顔を浮かべて、イルカ先生が台所から顔を出す。
テーブルの上に次々と料理を並べていく。
飲みに誘ったのだが、考えればオレもイルカ先生も夕食がまだだったので、つまみというよりはちゃんとした食事、だ。
料理がうまいとは聞いてるけど、手早く、よくこれだけつくれるもんだなー、とオレはマジで感心する。
はー、しかし手料理だよオイ!。
買い物袋下げたまま飲み屋に行けない(ナマモノも多かったし)、って理由で自宅に誘ってくれたんだろうけど。
今までのアプローチがすべて不発に終わっていたので、いきなりのこんな『お近づき』の機会に、なんか幻術でもみせられているような気さえする。
こんなユメなら、何度みたっていいんだけど・・・。
自宅に呼ばれて。
料理作ってもらえて。
ふたりっきりで。
くーっ・・・・幸せすぎだーっ!。
「じゃ、いただきますvvv」
渡されたハシを右手に言うと、イルカ先生が穏やかな笑顔を見せてくれた。
う、嬉し――っ!!。
左手で鼻から下を覆い隠している覆面を首までおろす。
そして、こんがり焼けた魚に手をつけようとしたところで・・・。
「あっ!」
・・・・・・あ?。
なんだ?。
突然の声に、オレは魚からイルカ先生に視線を向ける。
すると、ばっちり目があった。
イルカ先生はハシをもったまま、オレを凝視している。
視線が痛い。
「・・・あの、どうかしました?」
好きな人にじっと見られるのは気恥ずかしい。
しかも、その目線のイミが分からないため、オレは居心地悪くなって尋ねる。
怒られるよーなコト・・・してナイよな?。
「・・・・・・」
それでも、イルカ先生は反応ナシでオレを見ていた。
えーと・・・なんだ?。
あ、ひょっとして覆面とったからかな?。
やっと思い至った。
ナルト達にはまだ見せてない素顔だ。
別にそこまで隠すもんでもないんだが、なんとなくナルト達には見せたくない。
けど、イルカ先生に隠したいわけではないので、無意識におろしたんだけど・・・。
それでこんなビックリしたんだろうか。
「ス、スミマセンっ・・・」
目を丸くしてオレを見つめていたイルカ先生が、ふと我に返った様子でカオを赤らめて謝罪した。
「失礼しました・・・」
オレに固定されていた視線をテーブルの上に移して、イルカ先生はペコッと頭を下げる。
「いや、別にいーんですけど。そんなビックリしました?」
「は、はい・・・だって」
・・・だって?。
「あ、イエ、なんでもないです・・・」
ただ覆面とったから驚いたんじゃないのか?。
きっ、気になるっ。なんなんだそのタイドはっ!!。
「イルカせんせー、そんなトコでとめないで下さいよー。オレ気になって眠れなくなるじゃないですかー」
いつだって、アナタのことが気になってるのに。
さらに気にさせないで下さいよー。
「大したことじゃないんですっ!!、ぜんぜんっ」
「なら教えてくださいよー、ね、ね、ね、」
「・・・・」
しつこく食い下がると、イルカ先生は赤面して困ったカオ。
こんな表情は初めて見る。
カッカワイイ・・・。
「じゃ、あの。言いますから。・・・の前に、先生の左眼って写輪眼ですよね」
「?。ハイ」
今度はなんだ?。
今日のイルカ先生はよく分からない。
こんなフシギちゃんだったか?。
ってほど、普段からたくさんしゃべってるわけでもないから、もともとこーゆーヒトなのかもしれないが。
ふざけてる様子は全然ない。
いや、むしろすごく真剣な空気で。
「・・・額当てって、戦闘以外で外しちゃいけないんですか?」
「そんなこともないですけど。まぁ基本的には外しませんね。人前では」
左眼は、ふだん木の葉の額当てを斜めにかけて隠している。
覆面に額当てで、オレのカオで外気にさらされているのは右目だけだ。
正統な血筋のサスケと勝手が違って、オレの写輪眼は出し入れができないから、必要ないときは隠している。
気味悪がるヒトもいるし、ムダに敵を作る必要もないし。
外すといったら寝る時とフロ入る時くらいか?。
そう考えるとけっこうしっぱなしかも。
でもなんで今、イルカ先生がそんなことを言うんだろう。
テーブルをはさんで向かいに座ったイルカ先生は、いくらか逡巡したあと、口を開いた。
そういえばふたりとも食事に手をつけてもいない。
それどころではないってカンジだ (イルカ先生の手料理もはやく食べたいけど)。
「・・・あの、額当て、少しだけ、外していただいていいでしょうか?」
「・・・・」
それって。
オレの素顔が見たいってコト?。
「ダメでしたらいいんです!。失礼なこと言ってるって分かってます・・・スミマセ・・・」
「全っっ然イイです!!。今はずしますね!!」
イルカ先生の言葉尻をさえぎって、オレはハシを茶碗の上におき、額当てに手をかけた。
ずりあげて額にもってくだけにしようかと思ったけど、素顔が見たいみたいだし、はずしてポンと無造作に床においた。
左眼が加わって、視界が広くなる。
イルカ先生はやはりじっとオレを見ている。
穴があくほど見つめられる・・・というのはこういうのだろうか。
せっかくのチャンスだし、オレもイルカ先生を見返す。
うー、やっぱ好みだスゴク。
「驚きました・・・」
イルカ先生がつぶやいて、オレにカオを近づけた。
ひょっとしてキスしてくれんのかな、と思ったけど、もちろんそんなハズはなく。
さらにじっとオレを見つめている。
う・・・な、なんなんだろう。
「カカシ先生って、すごくカッコいいんですね」
え!!??
そうきたか!?。
あまりにも意外なセリフだった。
いや、別に素顔を見たヤツからも見てないヤツからもよくそう言われるけど!。
でもこのヒトって、そんな、外見とかにまったくキョーミなさそうだし、現にいままで、オレを見てそんな兆候まったくなかったのに。
で、でもこのヒトに言われると、マジでマジで、激嬉しかったりして。
オレは、非常にらしくもなく、カオが赤くなるのを感じた。
「あ、アリガトウゴザイマス・・・」
「こんなにカッコイイのに今まで気づきませんでした・・・オレ・・・びっくりしちゃって・・・だって」
――― だって?。
さっき聞いた質問の答えか。
何を言われるんだろう、と思わず緊張する。
目の前で、思い切り照れたように、頬を指でかくイルカ先生。
なんだよ、なんかこれって・・・。
メチャクチャいい雰囲気じゃないか?。
――― だって・・・。
「・・・理想の王子サマに見えたから・・・」
「・・・・・・」
なんだよ、なんかこれって・・・。
これって・・・もしかして。
もしかして。
告白・・・・ってヤツ?
01 2 8
・・・・・・サギだ・・・。
オレはぼんやり、半分死んだ頭でそう考えた。
目が追いかけるのは、いつだって、漆黒の髪を束ねた中忍の男で。
それだけで幸せなはずなのに、今回は期待したぶん、へこみ度合いも大きかった。
・・・サギだあああっ!!!!!!。
理想の王子サマ
〜2〜
「イルカせんせー、ちょっといいですかー」
「ハイ、今いきますー。じゃカカシ先生、失礼します」
ほかの教員に呼ばれ、オレに一礼してくれた後、イルカ先生は姿を消した。
その背を追いかけたいが、さすがにウザイと思われるだろう。
ここに来てからずっとまとわりついてるもんな、オレ。
興味の対象がいなくなってしまい、てもちぶさたになった。仕方なく、先ほど手渡された教科書と台本に目を落とす。
一応文字をたどるが、脳裏には、いつもの屈託のない笑顔のイルカ先生が浮かんだ。
昨夜の出来事が思い出される。
『理想の王子サマ、ですよ。知りませんか?』
『・・・・・・・・・は?』
いつになく積極的なイルカ先生からの突然の告白に、心臓がドクドクはねあがっているオレに、その言葉の意味がとれるわけもなく。
実にアホな受け答えをしてしまった。
そんなオレの様子に、ああ、と向こうは勝手に納得したようで、
『カカシ先生はアカデミースキップしてますもんね。知らないか。アカデミーでも低学年の子向けには、国語の授業があるんですよ。忍び言葉ももちろんですが、忍者たるもの、数ヶ国語話せるのが理想ですしね』
『はあ・・・』
オレはまたもマヌケなあいづちをうつばかり。
なんだ?。
さっきのイチャパラ顔負けな甘々ムードはどこいったんだ?。
イルカ先生は教師のカオでよどみなくしゃべる。
『「理想の王子サマ」っていうのは、教科書にのってるお話でして。けっこうメジャーなんですよ。オレが生徒だった頃もやりましたし。ストーリーはですねー』
にこにこ話してくれる。
それは、いかにもコドモ向けな、荒唐無稽なおとぎバナシだった。
悪い魔女につかまったお姫様を、通りすがりの王子が助けてハッピーエンド。
耳に心地よいイルカ先生の説明を聞きながら、オレはようやくアタマが冷えてきた。
つまり・・・。
「理想の王子サマに見えたから・・・」
『オレが・・・その、王子に似てるってコト・・・ですか・・・』
『ハイ!』
笑顔で返された。
そーゆーコトかいっ!?。
ガクーっ、と肩が落ちる。
いや、冷静に考えてみれば確かに、イルカ先生がよしんばオレに告白してくれたとしても、あんな言葉は選ばないよなー・・・ハハハ(乾いた笑い)。
き、期待したのにーっ!!!。
イルカ先生は放ってあったオレの額当てを手にとり、両手で渡してくれた。
受け取って、また無造作に額に巻きつける。
イルカ先生はその様子をじっと見届けた後、
『王子は金髪なんですが・・・イメージぴったりですよカカシ先生。カッコいいです』
照れもなく言って、ようやくイルカ先生は夕食にハシをつけた。
『アリガトウゴザイマス』
いや、でも、まー嬉しいカモ。
とりあえずオレの素顔、イルカ先生の好みの範疇みたいだし。
『隠すのもったいないですね。オレなんかより、カカシ先生のがよっぽど王子に向いてますよ。実際にもスゴク強いですし』
『ハハ、イルカ先生は王子よりお姫様のが・・・』
うっかりホンネがすべった。こりゃ怒られるかと肩をすくめたが、彼の反応はごく自然で。
『?。ああ、姫役はアンコなんですよ。ご存知ですよね、みたらしアンコ』
またハナシが通じない。
オレの表情に気づいたイルカ先生は、一瞬、「コイツなんにも知らないんだな」というような、ちょっとあきれた苦笑を浮かべた後、
『ナルトたちから聞きませんでした?。あさって、アカデミーの学芸祭なんですよ。それで、教員たちで劇をやることに通例でなってまして―――「理想の王子サマ」が今年の演目なんです』
『・・・・はあ』
ナルトたちからはひと言も聞いていなかった。
そんな祭りの存在すら知らない。
『で、姫役がアンコで、王子が・・・恥ずかしながらオレに決まったんですよ。ガラじゃナイんですけどねほんと』
そしてオレは今。
ガキでもこなせる任務をナルト・サクラ・サスケに任せ、学芸祭の準備ににぎわうアカデミーを訪れていた。
もちろん目当てはひとりである。
現在、アカデミーは午前は通常授業をして、学芸祭前の一週間は午後を準備期間、というカリキュラムで動いているようだ。
生徒は生徒で、クラスごとにいろいろ発表だのがあるらしい。
アカデミー全体がいつもと違う、浮き足立った雰囲気に包まれていた。
イルカ先生も言っていたように、オレはアカデミーにはほとんど通っていないので、こんな催しがあるとは知らずにいた。
忍者養成とはいいつつ、やはりコドモ相手だから、こんなイベントが年に何種かあるらしい。
下忍担当教官なんだから、オレの耳になにかしら入ってきてもいいハズなんだが・・・。
いろいろウルサイナルトも何も言ってなかったし・・・どーにも故意なものを感じる。
なんなんだ一体・・・。
ここは屋外の闘技場。
体術演習をするのによく用いられる場だが、ここが演劇発表の舞台となるという。
担当クラスを持っていない教員と、アカデミーに関わりのある中忍・上忍の何名かが参加しているようだ。
大道具の準備など、なかなか本格的にやっている。
はー・・・しかし、イルカ先生が王子サマねぇ・・・。
しかも、姫役が、あの・・・。
「あれ?、なんだ、カカシじゃないの、とうとうかぎつけたわね!」
冒頭から数ページしか進んでいない台本から目を上げる。
ちょうど思い浮かべていた人物だ。
そこには、ムダにテンションの高い・・・どこか自分受け持ちの生徒のひとりとやけに通じるもののある忍が、腕を組んだポーズでたっていた。
特別上忍――みたらしアンコ。
「かぎつけたって・・・なんでみんなオレにだまってたワケ?」
「ジャマされたくないからよ」
あっさり答えるアンコ。
なんだそりゃ。
「あのなぁ、んなコトするわけないだろ?。なんでオレがイルカ先生のジャマすんだよ。むしろオレは、彼の前にあるどんな障害もはねのけて、憂いなく進める道を・・・」
「ハイハイハイ。その言葉忘れんじゃないわよ。台本読み終わって同じセリフが言えたら誉めてあげる」
実にカンにさわる笑顔を浮かべると、アンコは去って行った。昼の太陽と対照的な黒髪が軽快に揺れている。イルカ先生と同じ色だ。
なんとなく面白くない気分になった。
「あいかわらず好戦的だなぁ、アンコさんも」
ふと、自分から少し離れたところで、しゃがんでベニヤ板に絵(背景らしい)を書き込んでいた中忍たちがヒソヒソ会話しているのに気づく。
「今、はたけ上忍がイルカ先生狙ってるって有名なのにな。やっぱ、自信あるんだろうなぁ」
「でも、イルカ先生も最初は王子役イヤがってたけど、相手がアンコさんって知って引きうけたんだろ?。あのふたりって、前つきあってたらしいし」
・・・なんだと?。
「別れたわりに練習中仲いいよなぁ、これきっかけに、またやり直したりしちゃうのかなあ」
「イルカ先生はみんなの先生でいてほしいよなー」
知らずのうちに指に力がこもっていた。台本と教科書がぐしゃりと握りつぶされる。
――― そういえば・・・。
昨夜の彼の態度を思い出す。
彼は・・・アンコを呼び捨てにしていた。
あのヒトの折り目正しさはよく知っている。こっちがどんなに打ち解けようとしても、上忍と中忍という壁をとり払う気はないようだった。
親しみはこめてくれるものの、敬語は崩さないし、それはオレ以外の、紅やアスマとか・・・上忍に対してもそうだった。
なのにアンコだけ。
それが、あの中忍たちのウワサ話に信憑性を持たせてしまう。
『ジャマされたくないからよ』
アンコの、あの言葉のイミはなんだ?。
オレは、くしゃくしゃになった台本をめくり、すばやく斜め読みしていった。
おおむね、イルカ先生が話してくれた通りの筋書きで進んでいる。
しかし、ラスト数行。
王子、姫に口付けをする。
と、キレイに写植で打ってあるト書きのわきの余白に、なぐり書いた手書きの文字。
ほんとにすること!!。
なっなっなっ、なんだとぉぉぉぉーっ!!!?。
『ジャマされたくないからよ』
あっあっ、あのヤロウ!!!!!。
ジャマせんでいられるかっ!!!。
ぜってー後で殴る!!。いや、探して今殴ってやる!!!。
オレが殺意を高めていたところに。
伴も連れず、早足で舞台の方へ歩み寄ってきた人物がいた。
三代目・火影のジイサンだ。
彼はオレに気づいてちらっと一瞥をくれると、
「イルカを知らんか?」
平静を装っているものの、かなり心配げにそう尋ねた。
「さっき、誰かに呼ばれてここを出ていきましたが・・・」
そういえばもうずいぶんたつな・・・。
答えながら思う。
火影の登場に、裏手にいたアンコも駆け寄った。
「イルカがどうか?」
むっ、なに呼び捨てにしてんだよ、オレだってしたことないのに!!。
いや、怒ってるバアイでもないな。とりあえず後回しだ。
「呼んだのはワシなんじゃが・・・いつになっても来ないんでな」
「・・・・・・」
その言葉に、背筋に冷水をぶっかけられたキモチを覚えた。
それが数々の戦場でオレを生かしてきた、『悪いヨカン』だということに、オレは、気づきたくはなかったが・・・・・・。
そして、イルカ先生は姿を消した。
学芸祭二日前のことである。
01 2 18
イルカ先生が姿を消した。
火影のジーサンの水晶でもまったく行方がつかめない。
別れた時が、あまりにいつも通り、穏やかな雰囲気だったせいもあって。
オレには、彼がいないことがなんだかウソのように感じられた。
理想の王子サマ
〜3〜
「はたけカカシ。急に呼びたててすまんな」
大柄な男がオレに向かって軽く右手を上げた。
それを合図に、それまでオレの肩にちょこんと止まっていた黒い鳥が離れ、男のもとへと嬉しげに帰っていく。
役目を終えた伝鳥を優しくなでた男―――特別上忍の森乃イビキだ。
同じ里の忍でありながら、所属するセクションが違うので、あまり面識はない。オレとはまた違ったイミで有名な男ではあったが。
「悪いけど時間がない」
オレは不機嫌にひと言ボソッとつぶやいたきり黙り込んだ。
愛想笑いなんかする余裕はない。イルカ先生の行方を探し続けて一睡もしていなかった。
足に、『イルカのことで情報がある』と簡潔なメモをつけた鳥が現れなければ、今も捜索中だった。
伝鳥は特別な訓練を受けた鳥なので、夜でも飛べる。
伝鳥の案内するままやってきた場所は、アカデミー近くの演習場だった。
生徒だけでなく、卒業した下忍たちも自由に使える場所である。ようやく朝日が昇り始めた時間なので、オレとイビキのほかに誰の姿もない。
イビキは傷の目立つ顔を歪めて浅くうなずいた。
「知っている。犯人の心当たりがある」
「誰だ!?」
知らず、声のトーンがはねあがった。
いつだって心のどこかは冷静を保てるはずなのに、今は情けないほど動転している。
「今回の劇のことは知ってるな」
「ああ」
『理想の王子サマ』の演劇だ。
もちろん、主役が行方不明という事態となり、練習は打ち切られたが。
「イルカ本人は知らないが、あの劇のラストでは主役ふたりがキスすることになっている。アンコとイルカだ。イルカもそうだが・・・アンコも人気があるからな。面白がるヤツもいれば、面白くないヤツもいる」
「・・・・」
オレはイライラしてきた。
こんな非常時に、劇なんかどーでもいい。
「だから犯人は?」
「それが面白くないヤツだろう。学芸祭までイルカを拉致しておけば、劇はできないからな」
・・・・マジか?。
確かに、オレもアンコのヤツがイルカ先生の可憐な(大マジメ)唇を思うさま蹂躙するのは許せないが・・・。
だったらアンコを倒せばカンタンにコトは済むじゃないか(←そうか?)。
いや、でもそれにしたってちょっと・・・・・・そんなん・・・・マジでするか?。
オレの思案を読み取ったのか、イビキが苦笑いを浮かべる。
「まぁな、リアリティには欠けるがな。しかし今回はナルト絡みじゃないようだ。それ以外でイルカが恨まれるというのは想像つかん」
――― それはいえる。
犯人の手がかりがつかめないのは、動機を持つ相手が見つからないからなのだ。
ナルトを嫌う里の人間の中には、親身に面倒をみている彼まで恨みの対象にしている度しがたいバカもいるが。
イビキの言うとおり、今回はそういった連中に動きはなかった。
まあ連中のやることといえば文句をいったり暴行を加えようというのが関の山で、拉致監禁と、犯罪性の高いことまでしてのけるかという疑問も残る。
なぜイルカ先生が狙われるのか。
彼が、彼自身の行いで恨みを持たれるというのは考えにくい。
ましてや里の中で。
そして、火影さまの水晶でも見つからないという事実。
水晶の力の及ばない『穴』の地を知っているか、探索から逃れる高等忍術を使える者が犯人ということになる。
それほどの相手に恨まれてかどわかされた・・・。
「・・・やっぱり考えにくいな・・・舞台のキスくらいのイヤガラセにしては、リスクも大きいし」
火影さまお気に入りの男を誘拐して、アンコとのキスをやめさせる?。
正気な人間ならやらないだろう。どうしてもイヤならほかに方法は山ほどある。
イビキは、高い視点からオレをじっと見下ろした。
「・・・動揺しているように見えても、頭はしっかり働いてるな」
バカにしているのか、とムッとしたが、そんなつもりはないらしい。イビキは感心したとつけ加えた。
「あのはたけカカシが任務もキャンセルして探しまわっていると聞いたんでな。少し驚いていたんだ。・・・・・・今の話は前置きだ。一応、その可能性もないわけではないと含んでおいてくれ。正直、劇の中断のためとはオレだって思っていない」
続きがあるのか。
オレは黙ったまま目でうながした。
「イルカを恨む人物という点では見つからないが・・・別の動機を考えると、ひとつ思い当たることがある」
・・・別の動機・・・?。
「おそらく・・・犯人は特別上忍の誰かだ」
「!!」
むかしむかし、ある所に、それは美しいお姫様がいました。
とてもキレイな長い黒い髪と、月の光のような銀色の目をしています。
王様とお后様は、お姫様の瞳とおなじ色の大きな大きな宝石をプレゼントしました。
月光石と呼ばれる宝石を、お姫様は髪かざりにしていました。
お姫様はある日、おつきの召使の目を盗み、ひとりで森へ出かけてしまいました。
なぜかって?。
昨夜、お姫様のもとに、不思議な手紙が届いたのです。
『森にはしゃべるネコがいますよ。
ひとりできたら、会わせてあげます』
お姫様はネコに会いたくて仕方がありません。
だから、ナイショで出かけてしまったのです。
森を歩くお姫様。
けれど、しゃべるネコは見つかりません。
疲れて、泉のそばに腰をおろした時。
びっくりするほど大きな動物がお姫様に近寄ってきました。
それは馬でした。
生まれて初めて馬を見たお姫様は驚きでいっぱいです。
馬に乗った王子様は、そんなお姫様の様子を愛らしく思い、微笑みました。
お姫様と王子様は仲良く話をしました。
お姫様は馬も気に入って、馬にも話しかけました。
馬は、お姫様には分からない言葉でヒヒンと鳴いています。
尻尾のキレイな馬でした。
王子様は、馬の名前はライトというのだと教えてくれました。
お姫様は、髪飾りの宝石を、こっそり馬の尻尾につけました。
石の名前がムーンライトだから、ぴったりだと思ったのです。
お姫様がおなかがすいたと言ったので、王子様は木の実をとりにいってあげました。
しかし、戻ってくるとお姫様がいません。
馬のライトの様子から、なにかあったと感じた王子様は森の中を姫を探しに行くことにしました。
イルカ先生の家は、ひどく荒らされていた。
イビキと別れてすぐ、会った捜索隊の中忍のひとりから、イルカ先生の自宅に侵入者があったという報告を受け、すぐに向かった。
知っていたのだが。
しかしそれでも、騒然となった無人の部屋を見回すと心が寒くなる。
「・・・イルカ先生・・・」
ここに来ても、彼がいないことなど十分分かっている。
・・・こんな所で時間つぶしてる場合じゃねーんだよ!、動け!。
自分を叱咤しても、足はその場に根が生えてしまったように動かない。
そのまましゃがみこんでしまいたい気分。
・・・連れ去られたのはアカデミー内のはずなのに・・・なぜだ?。
なぜこんなに荒らされる?。
玄関から始まって、居間も寝室も・・・すべてメチャクチャにひっくり返されている。
報復行動だとしたら、犯人の悪意と恨みの強さを思わせる・・・が。
「・・・なにかを探していたんだ・・・」
ただ無秩序に破壊したわけではない。
切られて、中をさぐられたクッション、毛布。
下の段から開けられたと分かるタンス。
両親のものであろう位牌まで真っ二つにされて内部を調べられている。
本や巻物も一度振るいにかけてから床に放り出されているし、念の入ったことに、壁紙まではがされている。
・・・よほど小さなものなのか。
よほど重要なものなのか。
廃墟に近いイルカ先生の部屋。
この前初めて訪れた時は、あんなに暖かく見えたのに。
湯気のあがる料理を運んでくれて。
テーブルに向かいあって。
あんなに楽しかったのに。
『理想の王子サマに見えたから・・・』
『イメージぴったりですよ、カカシ先生』
優しい声。
額当てを外して素顔を見せた時の驚いた顔。
・・・イルカ先生・・・。
ほんとに『王子サマ』なら、あなたを助けられるのに。
劇の中止が目的などでないことは、このありさまから瞭然だ。
イビキの言った通りなのか。
・・・イルカ先生・・・。
「何してんのよ、こんなトコで」
背後から、威勢の良い声が投げつけられた。
オレはゆっくり振り返る。
「・・・アンコ・・・」
イルカ先生が行方不明になったことは、その場にいた者たちにすぐ戒厳令がしかれた。
絶対に他言無用ということだ。
劇関係者はみな中忍以上の者なので、すぐに話が通る。
まして、火影じきじきの命令だ。
だから、人の良いアカデミー教員が、何者かに拉致されたことは、一部の忍しか知らない事実だ(イビキはどのツテからか知っていたが)。
イルカ先生の行方を追っているのは、オレ含め、その中の一部。
オレと同時に真っ先に探索に志願した、みたらしアンコもである。
「首尾はどうだ?」
今回に限っては、私情を優先している場合じゃない。
近寄って簡潔に尋ねたオレに、
「あと三か所、めぼしいトコチェック残ってるわ。西側の『穴』場はもう終わった?」
オレはうなずく。
火影の水晶は、この世のすべてを見通せるワケではない。
まるでシールドのように水晶の光を通さない自然の場所がある。
里の中にも、何十箇所か。
そこにひそんでいれば、水晶の術で発見されることはない。
まあだからこそ、足でそちらに向かわれてしまうので、長期間じっとしているのは得策ではない。
『穴』のチェックはもう終わっている。当然、成果はない。
まだ未発見の『穴』がある可能性もあるが・・・状況から、術によって水晶の追跡を逃れていると考えた方が妥当だろう。
アンコは『穴』ではなく、「犯人のいそうなトコ、探してみる」と言っていた。
いつもと同じ気丈さだが、今日はテンションがこころなしか低い。
彼女もほとんど眠っていないようだ。
・・・イルカ先生が心配なのはコイツも同じか・・・。
敵愾心が失せた。
「早く探さないとね。まったく世話やかせるヤツだわ」
あまりに様変わりした部屋を見渡し、アンコは表情をひきしめた。
そして、
「じゃあね」
すばやく身をひるがえし、立ち去ろうとする。
とっさにその左腕をつかむ。
「なに?。急いでんだけど」
腕をふりほどこうとはせず、アンコは冷たくオレを見上げた。
黒い透明な瞳が、大事なヒトを想起させる。思わずオレは目をそらした。
「・・・イルカ先生は・・・」
どうしてアンコはそんなに・・・。
――― 信じていられるんだ?。
「・・・無事・・・なのか?」
「!」
オレの言葉に、つかんだアンコの腕が短く痙攣した。
犯人は特別上忍かも知れない。
なにかを探してる。
イルカ先生がそれを持ってると思ってる。
見つけたら用なしと、殺すかも知れない。
隠した場所を吐かせようと、ひどい拷問にかけているかも。
すでに十六時間経過した。
絶望的だ。
「もう・・・」
バンっ!!!
「・・・っ」
左頬ににぶい感触。
マヒしているのか、痛みはまったくない。
ただ、かわいた音がすさんだ部屋に大きく響いた。
アンコが空いている右手で平手打ちしたのだ。
「アホ!。まだ生きてるに決まってんでしょ!!、バカカカシ!!!」
日に焼けた頬を怒りで紅潮させたアンコが怒鳴る。
「こんなトコで、めそめそしてんな!!。あきらめたヤツはここでずっと泣いてろ!!」
「あきらめたくなんかねぇよ!!!、でも、状況が悪すぎる!!」
――――― 生かしておくワケがない。
頭の中で、冷たくささやく声がする。
犯人は同じ里の人間が絶対に含まれている。
イルカ先生が犯人の顔を見てしまったなら、声を聞いてしまったなら、絶対見逃すはずがない。
生きてると思って、生きてると願って、でもそれがかなわなかったら――?。
耐えられない。
なら、最初からあきらめていたほうが気が楽だ。
いつだって、サイアクの事態を予測して動いていた。
それが忍。
―――でもこんな、最悪なことなんて、ない―――。
「こわいんだ・・・・・・」
アンコの腕をつかんだオレの指が、情けなく震えている。制御できない。
「カカシ・・・・・・」
アンコは表情をやわらげ、大きな瞳を細めた。
そして、ベストを着たオレの胸をドンと叩いた。ハッパをかけるように。励ますように。
凛とした声。
「イルカは生きてる。あたしには分かるの。確信がある」
「確信・・・・?」
事件についてオレの知らない情報でも握っているのかと思ったが、そうではないようだった。
「分かるもんは分かるのよ。あいつがかわいがってる金髪のコドモだってそう言うわ。あんたには分かんなくても」
「・・・・・・」
まっすぐにオレを見上げたアンコ。
オレも、ひきこまれるように見返した。
「イルカは生きてる。そう思うからあたしはまだ動ける」
そっか・・・。
理屈じゃないんだな・・・。
アンコは本当にナルトに似ている。
理詰めでなく破天荒で。
でも、自分の道を知ってる。
乱暴に教えてくれる。
「・・・・・・・」
オレは、ずっとアンコをとらえていた腕を離した。
震えはおさまっていた。
「シャクだが・・・オレもお前を信じる」
イルカ先生は生きてる。
そうだ、オレだってそう信じたい。
・・・今なら、思いっ切りシャクだけど、イルカ先生があんたに惹かれた理由も分かる気がする。
助けてみせる。
オレだって、まだ動ける。
「お前の言ってた、犯人のいそうなトコっての、早く案内しろ」
いつも通りの声がでた。
身体も軽く感じた。
「いいけど、足手まといになんないでよね」
立ち直りの早いオレに、アンコがからかいをよこす。
「誰に言ってんだよ」
「オッケイ。じゃ、行きましょ!。場所はもうかなりしぼってあるから、そのうち当たるでしょ」
「ああ」
・・・イルカ先生。
信じてる。
だから、どうか・・・。
無事でいてくれ。
01 3 6
こんな所でぶち切れてしまってます・・・。(><)
ちなみに、結末としては
イルカ先生は無事(笑)で、彼が持っていた機密もカカシ先生の額当てに隠してたので無事でした。
ラストちょっとだけカカイル風味になって終わり・・・といったカンジで。
書いてた頃アンコさんが大好きで(今ももちろんvv)、そのせいでアンイルになってます。
伊田くると
おつきあいありがとうございました