ふたつのお願い
「オレの誕生日も覚えといてくれますか?」
やせた長身をかがめて、椅子に座ったオレに目線を合わせて ひと言。
手渡された記入済みの報告書から視線をあげると、なんだかやけに真剣なカオのカカシ先生。
―――― 誕生日?。
相変わらず話に脈絡がないというか・・・、思考が読み取れない。
返事しないままのオレに、カカシ先生は焦った様子で、
「オレじゃダメなんですかっ」
なおも聞いてくる。
「へ?、いや、えっと・・・あ・・・」
―――― 誕生日?。
我ながらニブいと思う頭から、ようやくこの話のキッカケを思い出すことができた。
それはもう、一週間も前のことになるのだが。
ミズキの墓参りのためにカカシ先生の誘いを断った日だ。
そこで別れぎわ、誕生日の話題がでたんだっけ。
そういえば、カカシ先生とカオを合わせるのはその日以来だった。
「あ、もちろんいいですよ。いつなんですか?」
あわてて言いつくろったオレに、嬉しそうにカカシ先生が誕生日を教えてくれる。
オレに誕生日を教えて なにが楽しいのかサッパリだが、やけに上機嫌だ。
スゴ腕の上忍だって十分承知してるんだけど・・・、なんかちっともそう見えないよな、そんなカオされると。
「そうですか、オレけっこう忘れないんですよ、ヒトの誕生日とかって」
ちゃんとカカシ先生のも覚えました、とつけ加える。
誕生日なんて、ただの日付で、数字の羅列なだけなんだけど・・・。
それでも、なぜか覚えてしまう。
「・・・」
――――・・・両親が死んで、誕生日を祝ってくれるヒトがいなくなってしまった日のことを思い出すからかな。
オレの誕生日を覚えてくれてた火影さまを、今までよりもっと大好きになったことを覚えてるからかな。
今日は任務で出ている班が少なかったので、受付所にはカカシ先生と、オレを含め数人の事務係しかいなかった。
普段の混雑ならムダ話のヒマもないのだが、この状況では注意してくるマメなヤツもいない。
もう報告書はチェックし終えたのだが、カカシ先生はすぐに帰るつもりはないようだ。
カカシ先生と話すのは楽しいから、もちろん不満はない。
「じゃ、ナルトの誕生日なんかも?」
オレの言葉を受けて、カカシ先生が質問する。
「ええ、教え子たちのはほとんど知ってますよ。みんなにプレゼントあげるほど余裕もないですけど」
ナルトにも、ラーメン大盛りくらいかな。
って、それじゃあ普段と特に変わらないんだが。
「オレの誕生日にもお祝いしてくれますか?」
「?。オレでよければ」
「一日一緒にいてくれますか?」
「仕事じゃなければ大丈夫ですが・・・」
せっかくの誕生日なら、オレなんかより恋人とか仲間とか、好きなヒトと一緒にいたいと思うものなんじゃないだろうか。
ただでさえ、多忙なんだろうに。
ホントよくわかんないな、このヒト。
まあこのトシにもなると、あんまり誕生日とかイベントとかって、こだわりがなくなっていくものだけど。
「嬉しいです」
カカシ先生が、笑った。
いつもの、軽い笑い方もいいと思うけど。
そんな、優しい笑顔のカカシ先生はもっといいと思う。
左眼を隠すのはしょーがないとしても。覆面なんか、しないほうがいいのにな。
そんな笑顔をもっと、ナルト達にも、オレにも、見せてあげてください。
そう言いたいけど、なんだか少し気恥ずかしくなってやめた。
「イルカ先生の誕生日も盛大にお祝いしましょうね」
一拍間をおいてから、彼はいつもの軽い調子でアイサツをして、受付所を出て行った。
――― そういえば、火影さまに呼び出されているんだと言ってたっけ・・・。
もっと、ナルトたちのこととか、聞きたかったんだけど。
また、火影さまじきじきの、危険な任務なのかな・・・。
でも、ホント、おかしなヒトだよな。
以前に聞いていた風聞からは想像もつかなかった、『写輪眼のカカシ』。
誕生日を覚えてほしい、なんて、どんな思考からでた発言なのかサッパリだけど。
誕生日には、一日一緒、ね・・・。
コドモみたいだな。
でも、その約束がずっと続くよう、あなたの無事を祈ってますよ。
もう見えないカカシ先生の後ろ姿を思い出して、オレは心の中でつぶやいた。
☆★☆★☆★☆★☆★
「オレの誕生日も覚えといてくれますか?」
言ったオレのカオを、へ?、ときょとんとしてまっすぐに見返したイルカ先生。
そんなカオもそそるんですっ!!、ってそれはあとまわしにして!。
「オレじゃダメなんですかっ」
あのミズキのヤロウのは覚えてやってたクセに!?。
「へ?、いや、えっと・・・あ・・・」
オレの剣幕に押されたのか、椅子の背に引き気味だったイルカ先生だが、以前のやりとりを思い出してくれたらしい。うろたえた様子の残る笑顔に変わった。
「あ、もちろんいいですよ。いつなんですか?」
ホッ。
とりあえず、「お前の誕生日なんざどーでもイイ!!」というサイアクの事態は免れたようだ、とオレは安堵する。
いや、そんなヒドイセリフ言うよーなヒトじゃないってのは百も承知なんだけど。
でも、「もちろん」なんてつけてもらえると、ヤッパリ、嬉しいじゃないか!。
嬉々として誕生日を告げると、イルカ先生は、
「そうですか、オレけっこう忘れないんですよ、ヒトの誕生日とかって。・・・カカシ先生のもちゃんと覚えました」
任務報告書を持ったまま、きちんと名言してくれた。
嬉しいんだけど・・・、「カカシ先生のも」って、いかにも付け加えたカンジなのがちょっと寂しい・・・。
「じゃ、ナルトの誕生日なんかも?」
当然覚えてるワケですよね?。
「ええ、教え子たちのはほとんど知ってますよ。みんなにプレゼントあげるほど余裕もないですけど」
教え子ほとんど!?。
そっ・・・それはスゴイ。
忍にとって記憶力ってのは必須条件だが・・・、それにしても誕生日なんてタダの日付じゃん !。
そんなに多人数の覚えられるもんなのか・・・?。
さっきもちらっと言ってたけど、覚えるのはほんとに得意なよーだ。
―――― うーん・・・。
オレの想像以上に、多人数の中のひとりみたいなんですケド。
「・・・オレの誕生日にもお祝いしてくれますか?」
かなり内心ビクビクで尋ねたオレに、
「?。オレでよければ」
あっさり、欲しい答えをくれる。
「一日一緒にいてくれますか?」
本当に?。
オレ、今ホンキのホンキで言ってるんだけど・・・。
「仕事じゃなければ大丈夫ですが・・・」
遠慮がちに微笑んでくれる。
「嬉しいです」
それと同時に、くやしいです。
オレ、もっと早くにあなたに会いたかったですよ。
そうしたら、幸せな誕生日をいくつ過ごせたのかと思うと、すごく悔しいです。
でもそれより、嬉しいです。
あなたが、オレに特別な感情なんてひとカケラも持ってないことなんか、知ってます。
それでも、ナルトの担当という理由からじゃなく、上忍という上司だからでもなく、あなたがうなずいてくれたのが嬉しいです。
今までオレにとって、なんのイミも持っていなかった誕生日が、こんなに特別に思える、そんな感情をくれたのが嬉しいです。
「・・・」
イルカ先生が、ふとかすかに目をみはってオレを見つめた。
何かを言いたそうなそぶりを見せる。
なにかな?、と思って言葉を待ったけれど、イルカ先生は結局何も言わずに柔らかく笑って見せてくれただけだった。
ずっとここにいたいんだけど。
イルカ先生にちょっかいかけてるオレが気に食わないらしい火影のジーサンから呼び出しくらってるんだっけ。
遅れて行ったりしたら、どんなイヤガラセされるかわかんないしなぁ。
「イルカ先生の誕生日も盛大にお祝いしましょうね」
後ろ髪をひかれる思いで、そうアイサツして部屋を出る。
ふっふっふっ、聞かなくても、アナタの誕生日はもう調査済みなんですよ!!。
両手じゃ足りないほどのプレゼント、用意しますからねvv。
それと。
ホントは、もうひとつ、あなたにお願いがあったんです。
言ったら絶対怒るから、口に出せなかったんですけど。
オレの誕生日、覚えてもらって嬉しいです。
だけどもういっこ。
オレが死んだら、オレの命日も覚えておいて欲しいんです。
オレの身体は、フツーの忍以上にキケンだから。
死体なんか、残らないです、敵味方どちらに渡っても。
そんなの、もう納得しちゃってますけど。
墓なんか、いらないんですけどね。
オレの生まれた日と死んだ日を、あなたが覚えていてくれるなら。
オレの人生もムダじゃなかったって、気がするから。
END
カカシ 「ハア・・・これから火影のジーサンとこ行くのか・・・ヤダなぁ」
片想いモード爆走中ですカカシ先生・・。By.伊田くると
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