「あのー、小島さん、水野くんと仲いいよね」


「水野くんに、聞いて欲しいことあるんだ」


「水野くんて、好きなコとか・・・彼女とか、いるのかなぁ」









 かなり長い前置きの後、やっと用件を切り出してくれた3人組の女の子たち。

「・・・」
 見覚えがない。

 そのうちのひとりは親しげに、「去年同じクラスだったよね」と笑って話しかけてきたけれど曖昧だった。


 ――――私の記憶力が悪いのか、このこの印象が変わったか、どっちかな。

 どうでもいいことを考える。退屈でしょうがない。

 彼女達が私に何を言いたいのかはかなり最初から察しがついてた。こんな事を頼まれるのは初めてじゃない。サッカー部のマネージャーになってからのことだけど。


 ――――理由は簡単、水野の女友達って、私だけだから。


 ころあいを見て話を切ることにする。延々続きそうだ。
「分かった。聞いてみるけど、あんまり期待しないで。あいつこーゆー話好きじゃないみたいだから」
 これは本当。私に期待されても困るんだよなぁ。
ていうか、自分で動きなさいよ。3人のうち、誰が水野狙いなのかは分からないけど(複数だったりするのかもしんないけど)、『期待薄ですよ』の忠告の真意は受け取ってもらえてないようだ、とこっそりため息。


 ――――水野を好きになったって、むくわれない。きっと。






◆  ◆  ◆







 帰りのHRが終わる。私も『問題の』水野も掃除当番じゃなかったので、今日はそのまま部活に直行だ。

「行くか」
 スポーツバッグを肩にかけながら、当然のように私に声をかけた。


同じクラスで。
隣の席で。
おまけに彼は部のキャプテンで。私はそのマネージャーで。


 ――――できすぎてるわよね。


 水野の隣を歩いている時、いつもそう思う。なんだか笑いたくなる。少女マンガの登場人物にポンとなってしまったみたいだって。
ほんの少し嬉しいのと、そんな自分に失笑しちゃうってのと、多分半々。



「女子部、どうだ?」
「思ってたよりいいスタートきれたかな。経験者が2人もいたのは予想外だし。それぐらい、女子でサッカーできるとこって少ないのよ」
「ああ。3年の人うまかったな、チーム出身なのか」

 廊下を歩きながらそんなことを話す。
当然のようにサッカーの話題。以前、水野は風祭を「サッカーバカ」と評したことがある。風祭もだけど、実は自分もそうだとはあまり自覚してないらしい。
 水野はサッカーバカというよりサッカー一途、だ。テスト前にはそれなりにテストのことを考えもするんだろうけど、基本的にはサッカーと・・・風祭たち友達と・・・家族と・・・愛犬?。そういうもので構成されてるんだと思う。

 恋愛とか、女の子にだって興味ゼロってことはないんだろうけど・・・。

「・・・」
 そこで、ついため息がでた。

 こいつの家族を思い出したからだ。
以前サッカー部みんなで家にお邪魔した時。水野のお母さんとおばさんふたりもいて。


 ひとことで言っちゃうと、そりゃもう。

 ――――美人だった。

 水野自身、その血を確実についでるから近所でも有名な美形家族なんだろうな、なんて。




「あんなのと暮らしてたら、理想も高くなるわよねー」
「は?」

 声にでてしまってたらしい。水野はきょとんとこっちを見た。あんなん、は失礼だったか。

「水野の家の女の人、みんなキレイだって言ったの」
「・・・・?。なんだ急に。まぁ、客の前では着飾ってるけど、家じゃひどいもんだぞ?、特におばさん達は」

 話題を急にかえた私に少し怪訝そうに、でも水野はその話題にのってくれる。言葉は謙遜という感じではないので、本気みたいだ。

「・・・でもキレイじゃない。あーいう人たちと一緒にいると、やっぱりまわりじゃ相手にならないんじゃないかとか、思わないの?」
 今日、女の子たちに頼まれた件もあったので水を向けてみた。

「??。相手?」
 超のつくドンカンだと大変だわ。私はもっと分かりやすく言い換えてやった。たとえば。クラスメイトとか、恋愛の対象じゃないんじゃない?。

 そう言ってしまってから、当の自分もクラスメイトど真ん中だったことに気づく。いや、水野にとって女子のクラスメイトっていったら真っ先に私だろう。いや、私のことじゃないけどね?!。気恥ずかしくなって、水野から目をそらした。

 相手は幸いドンカンだ。超のつくドンカンだ。何も察してないだろうけど。

 やっぱり、
「別に顔で判断しないだろ。やっぱ性格なんじゃないのか」
 ひっかかるべきところにひっかからず、話題は続いた。
ホッとした反動で察しの悪さにあきれ、つい文句をつけてしまう。
「他人事みたいに言わないでよ」

「一般論だろ。そーゆーのよく分かんないんだ、シゲとかに聞いた方がいいんじゃないか」
「佐藤の恋愛観は別にいいのよ」
 言葉尻を食う勢いで否定してしまった。

 相手はさすがに驚いたのか、またもきょとんとタレ気味の眼を丸くした。
ああもう、そんなんだと猫みたい。
 普段はかっこいい系で、でも天然でかわいくもなっちゃう、ってほんとにあんたって――――



「できすぎてる・・・・・」


「は?。出来杉くん?」


 私のあきらめきったつぶやきに、また天然ですか?!な返事が返ってきて、本気で脱力してしまう。

 だから期待できないって。むくわれるわけなんかないって。
言ったとおりじゃない。知らない子たち、ごめん。もともとそんな強力に力になる気はなかったけどさ、こんな男なんだからあきらめてよね。








「・・・・・行こ!。早く走りたい」

「なに笑ってんだ?」





「なんでもない」

 でもこんな水野だから、なんだかやっぱりホッとしてしまうのだ。













おわり



シゲは話しかけやすいので、近寄りがたい水野の橋渡ししか頼まれないんじゃないかな。
イダクルト
2011/06/11


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