寝起きのお話




 友人・火村英生の寝起きは悪い。




「おい、事件だぞ」とか「来てくれ、やな予感がする」などと言えばパッチリ目覚めるのは分かっているのだが、平時にそんな嘘をついたら嫌われてしまう。
嫌われたくないので賢明な私はもちろんそんなことはしない。



 第一。


 急いでる時はアレだが、目の覚め切っていない火村はとてもかわいいので、実は気に入っているのだ。

 同居しているわけじゃないからめったに見られないその姿を、今日のような――――学会で大阪に来てそのまま私のマンションをホテルがわりに泊まりに来たのだ―――― 日はじっくり楽しもう、と思う。


 それにしても、私はどうしてこんなに寝起きの火村が好きなんだろうか。
寝床にしていたソファから上体をなんとか起こしているものの、己の体を支えきれず ゆらゆらしている友人を見つめつつ考えてみる。


 半分も開いていない目は、きっと何も見えていない。
ゆっくりあくびを連発していて、寝癖のつきまくった頭がその動作にあわせて やはりゆっくりと揺れている。

 私が後ろから新聞紙などまるめてポカリとやったら、そのまま前に倒れこんでしまいそうだ。弱そうだ。


 ―――― なんか・・・・全体的にコドモっぽいというか、アホっぽい感じなんかな?。


 日頃嫌味の多い、が私など及びもしない頭脳と行動力を持った男のそんな頼りない一面が私は好ましいのだろうか。



 きっとそうだろう。あと、


 ―――― こんな頼りない姿を見せるのはきっと私だけなこと。



 うん、これだ。


 思わず口が笑ってしまった。




 警戒心の強い君が、だらけきった飼い猫のような他愛なくも情けない こんな姿を見せるのは、きっと私だけだ。世界中で、私だけ。





 なあ火村、少しは うぬぼれても、ええかな。











おわり・・・?










つづき

  ――――――――よくなかった。


 ある日、なんの話題がきっかけだったかは忘れたが。
ある事件が解決して(もちろんウチとこの火村が大いに貢献したのだ)、 ふとなごんだ空気の中、私と森下刑事がふたりで世間話をしていたとき、


 森下刑事がぽろっと、

「火村先生って、ほんと寝起きは別人ですよね。ふだんなんていうか・・・すごい人ですから。ただ尊敬するしかないんですけど。あんな姿をみると、人の子なんやなぁっていうか・・・・なんか、かわいいですよね」

 なんの悪意もない さわやかスマイルで私に爆弾を投げてきた。








 はぁ???




 寝起き?。
あんな姿??。
かわいい????。


 ちょ、ちょいまて若造・・・・。


 めまいをこらえてなんとか次第を尋ねれば、森下や鮫島警部補は警察の仮眠室で火村と一緒にお泊り(!!)とかが過去何度もあったとのことで・・・・・・・・・・・・・






 俺だけじゃないんか・・・・・・・・

 俺だけじゃないんか・・・・・・・・



 信じてたのに・・・・・・・・・・・・・・

 信じてたのにぃぃぃぃ・・・・・・・・・・・・・・










 その日。
私のマンションに泊まった火村は、翌朝案の定また寝ぼけてぽやーっとしていたが。それはまた、とても私のツボを直撃するかわいさではあったが。


 寝起きの火村に無償の愛を注げなくなった私を、誰も責められまい。






おわり



拍手お礼ぷち小話より。
眠いから一講目が苦手だなんてかわいすぎる。
伊田くると 07 7/11再アップ