受信







 暗澹とした忙しさが終わってから、数日ぶりに部屋に戻った。

 ほぼ無意識の動作でチェーンをかけ、カギをベッドに放り投げる。部屋のスイッチを押したが、反応がない。電球が切れていた。
 暗いままの部屋。換気していないせいで空気がよどんでいる。
何もする気が起きなかった。のろのろとベッドに向かい、倒れるようにダイブした。


 目を閉じると、さらに闇が深くなった。



 泥のように眠り、目を覚ましても世界は暗かった。
電気が切れているせいでも、カーテンをしめたままだったせいでもなく、もう世界は暗いんだと思った。

 スーツの胸ポケットに入れていたケータイを取り出す。形が悪くなるから、本当はしまいたくないんだよな。そうぼやいて見せた時、あいつはきょとんと、「ダイナマイトはどうしてんの?」 と 蜂蜜色の目を丸くした。

「・・・」
 他愛のない会話。
あれは いつのことだったろうか。


 暗い部屋に、冷たい緑色の光が浮かぶ。
表示された日付は思っていたのより 一日先を行っていた。寝倒していたらしい。

 新着メールがある。ぼんやりしつつ画面を操作していく。当たり前のことだ、メールは奴からのものではない。

 当たり前なのに、ガッカリした。読まないまま放り投げた。


 一日だって、メールをくれなかったことはなかったのに。




「・・・っ」
 起き上がり、闇の中、必死にケータイを手探りで探した。
ベッドのすみに転がってたそれを拾うと、すぐに受信メールボックスを開く。

 あった。

"あとで電話する。何時ぐらいなら空く?"

 四日前。午後8時16分。


 ほかにも。

"今日ひさしぶりに恭弥と会った。少しは丸くなったか?"

"例の件片付いた。ツナにもよろしく伝えてくれ。明日時間取れるか?少しでいいから会いたい"

"電話つながらないからメールにした。大丈夫か?。生存確認したいから連絡しろよ"

 カチ

 カチ

 次々にメールを開く。
 飽きずにそれを繰り返したが、100件ほどみた所で終わってしまった。

 ああ、俺が消しちまったのか・・・。

"あとで電話する。何時ぐらいなら空く?"

 最新メールに戻る。

 これはディーノが俺にくれた、最後のメールだ。

 一番最初にくれたのは、どんなメールだったろう?。もう思い出せない。
消さなければよかった。


 お前が俺に残してくれるものはとても少ない。
残してくれたものはとても少ない。








 世界が暗い。

 秘密の関係は秘密のまま、俺はまた明日を続けていかなければいけないのに。
もう明日なんて来ない気がする。

 失ったもののあまりの大きさがまだとらえられない俺は、ただ、もう来ることのないメールを消してしまったことを後悔した。




end









死ネタですみません。
イダクルト 2009/05/06


モドル