「ったく、シャマルにも困ったもんだよね」
制服のシャツからのぞく山本の左腕を横目に俺はつぶやいた。
ひじのあたりに痛々しい包帯が巻かれている。なんというか、その巻き方がヘタクソなせいで、よけいに痛々しい。
「いやー、助かったぜ、ツナ」
痛みには強いようで、山本はいたって元気だ。ケガした腕を上げ下げして見せる。
「あとでちゃんと病院行こうね」
それにホッとしつつも、やっぱり心配なので念を押しといた。
「わりーが男は診ねーんだ」
四時間目の体育の最中に運悪いアクシデントでケガした山本(とつきそいの俺)が、当然向かったのは学校の保健室なんだけど。
保健医であるシャマルはその職務を「男は診ねー」と放棄して、あろうことか帰れ帰れと追い出したんだ !。ほんとなんつー医者だよ。
そりゃそこまで大きなケガじゃないけどさ、血は出てるし そのままにしていいはずもなく、包帯と消毒液だけパクって俺が不器用ながらも手当てをした。
山本は ありえないほど大らかな性格だから、「ほんとおもしれー人だよなぁ」なんて笑ってすませてるけど、俺は内心ムカムカきてる。
そういや あの人、命の危険にあってる俺のことも、ギリギリまで助けてくんなかったし。いや、そもそも医者なのに殺し屋だってリボーン言ってたし・・・・。
「10代目!!」
バンと、重い屋上の扉を開けて、登場したのは振り向かなくてもわかる獄寺くん。俺のこと学校でそう呼ぶ人って彼ぐらいだ。
今は昼休みなんだけど、やっと登校してきたみたい (しかも手ぶらだ。何しに来てんの この人は)。
朝から俺を家の前まで迎えにきて一緒に学校に行く日もあれば、何日も欠席したり、遅刻早退もしばしば。意外につかめない行動パターンなクラスメートだったりする。
「大丈夫ですかっっ ケガされたって・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・なんだ、山本か」
駆け寄ってきた彼は、俺と山本を順に見やり、『ケガ人』が どちらか分かると ロコツにホッとした顔をした。
それどころか嬉しそうに、
「ご無事でよかったです!!」
なんて俺に笑顔。
山本が気にしない性格だからいいけどさ、ちょっとは山本を心配してあげて欲しいなぁ。
「ツナが手当てしてくれたんだぜ」
昼食のやきそばパンをもぐもぐさせつつ、山本。
ああ・・・そういうこと言わないで欲しい・・・と内心思う俺。
案の定、10代目にそんなことさせやがって!!とか 山本を責め立てる獄寺くん。案の定すぎて そのうち俺セリフとかまで当てちゃいそう。
ていうか、山本も そろそろそのへん飲み込んでくんないと・・・。あれ、ひょっとしてわざとなのか?。意外に山本、獄寺くんにかみつかれてる時、楽しそうな気がしないでもないけど・・・。山本もあれでリボーンがおもしろがるほど ひと筋縄じゃいかない性格してるからなぁ。
「シャマルは いなかったんですか?」
山本との口論がひと段落したのか、獄寺くんが俺に尋ねてくる。
―――― 俺のムカムカの原因。
口をとがらせ、眉をしかめて答える。
「いたけど・・・男は診ねーんだ、って言われて追い出されたよ」
「最ッ低なヤツですね!!!アイツ!!!」
俺の返事に一気に怒りを沸騰させる獄寺くん。
そうだよな、そーゆー反応のが普通だよな。やっぱ山本、当事者なのに大らかすぎない?。
「アイツは ほんとダメな男なんです!!。城にいた時も、しょっちゅう仕事サボって女と遊びまわってましたし!!。いや、今思えばなんですけど!!。アイツ妹だなんて俺をだまして・・・っ」
獄寺くんはシャマルとは子供の頃からの知り合いだから、つもりつもった怒りがあるんだろう。
俺と山本は昼ごはんを食べる手をとめ、つい聞き入ってしまう。
いまさらだけど、勤務先に恋人(しかもたくさん) を連れ込んでたってのも、スゴイ話だなー。
「ボディガードとかがケガしててもほっといてて、『男は自然治癒力があるから ケガしても治療しねーで平気だ』とか嘘つくんですよ?!。俺 子どもだから信じてましたよそれも!!。だからこんな あんまり自分を守らない戦い方になっちゃったんスよ!!。全部アイツのせーなんス!!」
そ、そうだったんだ・・・。
確かに獄寺くんの向こう見ずな戦い方は俺もハラハラする時あるけど。
そんな幼児の時のひとことが原因だったんだ・・・。
その後も延々、よくそんな出てくるなぁってくらい、シャマルの人間性はダメダメだという話が続く。
楽しげに聞いてた山本が、
「ハハ、ほんとなんかダメな人だなー」
と 相槌うって笑った。
とたん、
「そっそんなにはダメじゃねぇ!!!」
ベラベラ悪口を言ってたのより もっと強い口調で、獄寺くんが怒鳴った。
反射的なものだったのか、ちょっとしてからその顔が赤くなる。照れてるらしい。
自分に弁解するように、急に小声になって、
「いや、ダメだけど、その、医者としてはあれでスゲーヤツだし、マフィアん中でも いちもくおかれてたりするし、あ、料理もあれで わりとうまかったりして、アネキの料理食いたくなくて逃げてた俺に軽いメシ作ってくれたりとか・・・・・・・」
ぶつぶつぶつぶつ。
不本意そうに、だけどそれは間違いなくシャマルの弁護。
―――― Dr.シャマルのいいところ。
こっちはこっちで止まらなそうだ。
「・・・・・・・そ、か」
そんな獄寺くんに、山本がフッと笑う。
おとなびた笑い方だな、と思った俺と目が合うと、山本は俺にだけわかるようにコッソリ、
「こーゆートコ、こいつカワイイよな」
ささやいて、パンの最後のひとくちをパクンと口に放り込んだ。
俺もとまってた箸を動かして食事を再開しつつ、
―――― なんだかんだ、子供の頃の獄寺くんにとって大事な『お兄ちゃん』だもんな。
しょーがない、獄寺くんに免じて許そう。
山本に「そーだね」と返した俺は、シャマルへの苛立ちが消えてくのを感じた。
おわり