チッチッチッ




 かたい物とかたい物が軽くぶつかった時に出るカチカチした音。

 最初はなんの音だ? と思った。
すぐ隣を 荷物を持った獄寺が通り過ぎたときに聞こえたけど、両手はふさがってたし、そんな音しそうな動きはしてなかった。


 小さく3回。


チッチッチッ


「?」
 耳に障ったわけじゃないが、出所が知れなくて、ちょっと気になった。






チッチッチッ







チッチッチッ


 その音は、それからも獄寺の近くからしていた。
規則正しく。3回。何度も繰り返されることもあった。


チッチッチッ


 観察していて、やっとその原因が分かったのは、音に気づいて10日もたった頃だろう。

 ツナと楽しげに話している獄寺。机に浅く腰かけて、その右手を机の角にひっかけていた。

 その指が機嫌良さげに踊り、

チッチッチッ

 いつもの、小さいけど、やけに俺の耳に残る音をたてる。

 ツナと笑い合い、饒舌に熱心に話しかけ、それでも その指はときどきピアノを弾くようにチチチと揺れる。

チッチッチッ

 ああ、また。

 マネして俺も指で机を叩いてみたが、出てくるのは トントントン
爪でやってもトコトコトコ、
で、あの硬質な音とは違う。


「あ」

 指輪か。

 つい 声が出て、獄寺とツナがきょとんと俺を振り返った。
「あんだよ。せっかく10代目とお話してんのに」
 ムッと目尻を上げてニラんでくる獄寺の指に、3つもはまった指輪。俺には する習慣が全くないから気づかなかったが、これを当てて あの音を出してたんだ。


 あー、納得。









チッチッチッ


「何だ、ニヤニヤして」
「や、昔を思い出してさ」
 獄寺の部屋に入った時、ふと思いついてドアノブに指を当ててみた。

チッチッチッ

 10年前にもらったボンゴレリングは、邪魔くさいので いつもはつけないのだが。

 たまには。
会合の時など仕事によっては必要になる。
今日のように。
 幹部の集会で、互いに別の地に飛んでいた獄寺と会うのは久しぶりだった。怪我もないようで安心する。スーツ姿に、中学の頃から変わらずゴテゴテに飾った両手の指と、その音。


チッチッチッ

 指先でなく、付け根の指輪に当てるから、ちょっとコツがいる。
普段はない指輪の感覚に違和感があるけど、リングをはめると これをするのがけっこう好きだ。


チッチッチッ

 今でも、機嫌の良い時、獄寺のこのクセは出る。
無意識らしく、本人は知らない癖だった。



 俺がお前を好きになったのは、きっとこの音がきっかけだ。



 そう言おうか、ちょっと迷った時、

「酒はマズイか、茶でも飲むか?」
 カウンターに手をかけた獄寺から、



チッチッチッ


 また、始まりの音がした。








end










気になる人の癖。
By,イダクルト
2010/01/28


モドル