無償のゼンイ
こっちにきたらランボさんは すぐ泣きやむんだ。
だって、こっちは楽しいから。
ハヤトはアメもブドウも出してくれるし。
ランボさんがケガしてたら「大丈夫か?」って診てくれるし。痛いのガマンすると「えらいえらい」ってほめてくれるし。
「前に見たときより、ちょっとおっきくなったな」
って、ランボさんがいちばん嬉しいことばを言ってくれるんだ。
ハヤトは俺が急に来ても全然おこんなくて、にこにこしてて、ランボさんはこっちに来たとき、ハヤトと会えたらいいなって いつもこっそり思うんだ。
会えないときもたくさんあるから、そういうときはガマンだけど、会えるとちょっとラッキーなんだ。
「こっちのハヤトは優しい」
お皿いっぱいのブドウを両手でたべながらハヤトに言ってみた。
だってむこうのハヤトは意地悪で好きじゃない。同じハヤトなのにヘンだけど、同じヤツじゃないみたい。
でも、優しいハヤトのがもちろんスキなんだもんね。
「んー、お前わかってねーな、マフィアってのを」
俺のほっぺについた皮をとってくれながら、ハヤト。
「マフィアたるもの」
もっと疑り深くなんなきゃいけねーよ。
相手の言動のウラまで読み取れねーと。無償の善意なんて存在しない世界だぜ。
言って、ハヤトは意地悪く笑ってみせた。
「?」
ムショウのゼンイ?。
よくわかんない。けど、ランボさんはちゃんとしたマフィアだもんね!!。わかんなかったけど、わかったふりして三回もうなずいてみた。
ハヤトはまた笑って、ランボさんのあたまをなでてくれた。ランボさんはあたまなでられるのがスキ。
ランボさんもにこにこ。ハヤトもにこにこ。とても楽しい。
「いっぱい優しくしてやるよ」
「そしたらお前さ、10年後俺のこと、もっと好きになるかもしれないから」
―――― かしこいセンコートーシだろ?。
むずかしいことばに首をかしげた俺っちにハヤトはいたずらっぽく目を細めて、
ランボ、
と いつもと違う声でランボさんの名前をつぶやいた。
おわり
こういう短いのって書きなれないんだけど、ラン獄はこうちょろっと書きたい気分です。
あまあまカップルは私の鬼門(好きだけど書けない)だと思っていましたがラン獄なら書けるかも!!。
あ、ちなみにこの舞台は10年後、24才の獄とチビ牛ランボさんです。
伊田くると 06 6/25
★
※注 未来。捏造。暗め。inイタリア
おめでと
酔ったアイツが上機嫌に見せてきたペアの指輪。
ごたいそうな箱に入ったそれは、シンプルだが俺の目にも分かるほど高価そうだった。
「日本風に言や年貢の納め時ってやつか」
ダッハハと笑う男。
聞いてもいないのに、
―――― 俺は手配犯だから、籍は入れられねェんだけどな
だの、
―――― でもいちお形だけはな。喜ぶだろ。
だの、饒舌に語る。
「お前に一番に報告すんだぜ」
チン、グラスをさっきからまるで減ってない俺のグラスに合わせる。自分勝手な乾杯。
静かに空気に溶け込んでいたバーテンが、ひっそりと微笑んで「おめでとうございます」と声をかけてきた。
おめでとう、ね。
おめでとう、って言ってほしいのか? 俺に?。
きっとそうなんだろう。
幼い頃に知り合った男とは、もう長いつきあいで。シャマルにとっても、俺はきっと、少しは特別だから。祝福してほしいって思ってるのかも。
―――― どんな女かな。
並んだペアリングの細い方を受け取る女を想像する。女好きで、数え切れない女とつきあってきた この男が最後に選んだ相手。
たくさんの たわむれな愛人のひとりでなく、シャマルのたったひとりになれた人。
どうやったんだ、あんた?。
どんな女なんだろう。
たいがい酔いが回ってるのか、同じことを繰り返ししゃべりだしたシャマルを横目に、俺は ひとくちだけ苦い酒をなめた。
自嘲的に、
―――― まあ、俺みたいなヤツじゃないことだけは確かだな。
なんて考えが浮かぶ。
きっとあんたは素敵な人なんだろう。俺が会ったら、惚れ惚れしてしまうような女。シャマルに愛され、そしてシャマルを愛する女だ。
でもきっと。
あんたと比べたって、想いじゃ負けないのに。
絶対、負けないのに。
「・・・・・・・・・」
俺の母親も愛人だった。
愛する人の一番になれないのは、遺伝なのかもな。
「おめでと、シャマル」
あんたの愛する人を殺しに行くようなヤツじゃない俺を、少しは誉めてくれ。
end
シャマルは独身主義者だと思うけど。
10年後の獄と闇医者。この人たちもなんだかんだ腐れ縁。
伊田くると 06 7/2
「なんだよ。どこにも行かねーぞ」
器用に片眉だけ上げて、怪訝そうにディーノ。本棚から、持ち主に断ったのと同時にマンガを取り出した姿勢のまま。
イミが分からない。が、奴ははっきり俺を見ている。
なんだよ、と言い返すと、抜き取ったマンガをまた元の位置に戻しながら、
「お前、俺がちょっと動くとこっち見ないか?。だから心配なのかと思って」
ときた。
勉強が終わったら外に行こう。でも、終わるまではちゃんと待ってるからさ。
だから心配しないでいいぜ。
「・・・・・・・・・・・」
すごい思考回路だ。
キレるより先に、ちょっと俺は感心してしまった。
確かに、室内だろうと室外だろうと あまり一か所にじっとしていられないのか、ディーノは ちょこちょこと行動している。
部下がついててやらないと、コードに蹴つまずいたり肘を壁にぶつけたり、持ってたアイスを落としたり等々が加わるから、さらに大人しくしているイメージがない。
そして、確かに俺はディーノが視界を動く度、視界を外れそうになる度、つい目を向けてしまうのだ。注意をやってしまうのだ。
そこまでは事実だ。
―――― が、それは奴のすっ飛んだ結論『心配だから』ではない。
「バカじゃねェの。単に目につくんだよ。そのアタマ」
煙を吐き出しつつ、せいぜいバカにしたツラで正解を言ってやった。ついでに持ってたシャーペンで上方、奴の頭を指さしてやる。
―――― 目立つんだよな。ホント。
イタリアにいた時も、ここまで、なんていうか・・・黄色!! て感じのアタマは周りにいなかったのだ。日本ではもちろんのこと。
金髪にも いろんな色あいがあると思うが、こいつのはなんていうか、とても ちらっちらした光を含んでるようで、とにかく目につく。
「アタマ?」
言われた本人は目を丸くした。
ちなみにその目玉も、なんだか甘そうな飴みたいな色合いで、普段うざったい前髪に隠れてるけど、これも俺の注意をひく色だ。髪色ほどは派手じゃないのに、なんでだろう。考えたことはないが、少し不思議だ。
「驚いたな」
ディーノは、困ったように首をかたむけた。揺れる髪がまた光を放つ。うっとうしい。
「俺も、お前にそう思ってた」
一歩こちらに近づいた男が指で俺の髪をひと房すくう。
「なんだか、キラキラしてるって」
キラキラ?。ああそうか。お前のアタマ、そういう表現がぴったりくるのかも。
目の前にある、無造作にのばされた前髪にこちらも触れてみたくなる。そういえば、ずっと触りたいと思っていたような気もする。
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・とりあえず、お互いがお互いを気になってるってことでいいんじゃないですか」
ふいに聞こえた (いや、もとから部屋にいたのだ) 10代目の温度の低い声に我に返る。
「勉強の邪魔したか?」
うるさくしてワリイ、と苦笑するディーノと、問いの解説が途中だったことを謝る俺に、
「何で自覚がないんだ・・・・・・・・」
手の進まないプリントに向け がっくりうなだれた10代目が消えそうな声でつぶやいた。
end
実はお互いが気になってるだけのふたり。inツナ部屋。
原作がもっとほのぼのしてくれるといい・・・
イダクルト 07 12/6