未来恵サマにいただきましたv
「遅いっ」 バイトを終えたエースが、深夜一人暮らしのアパートに帰りつくと、玄関の前に幼馴染が座り込んでいて。エースの姿を認めたサンジは口を開くなりそう言った。 『何か約束してたっけ』っとか…。 その他諸々…口にして然るべき事は山のようにある筈だったが、偉そうな物言いと眼差しとは裏腹に、蒼白な顔色だとか微かに震えつつ膝を抱えた指先なんかを見てしまったら…。玄関先で文句など並べられる訳がなかった。 |
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何もかも後回しで、鍵を出すのももどかしく。室内に連れ込む。 その間も、最初の勢いはやや緩めトーンダウンもしたものの、相変わらずブツブツと吐き出される文句…愚痴…の類を聞き流し、風呂に湯を張る。 例年以上の冷え込み…天気予報でそんな事を言われていたような日に、戸外で座り込んでる…そんな無茶な馬鹿はさっさと熱い湯に叩き込むしかない。 「ほら、暖まってこいっ風邪引くぞ」 脈絡なく、際限無く愚痴り続けるのに言って。自分で脱げないなら手伝ってやろうか?そう付け加えれば。子供っぽい仕種で舌を出し、足早に風呂場へと駆け込んで行く。 その背中を見送って、ため息を一つ、ついた。 荷物やら、着たままだった上着なんかを片付けて。程なく出てくるだろう奴の為にエースはキッチンに立った。 薬缶を火にかけつつ、叔父の部屋からくすねて来たウィスキーの瓶を棚から下ろす。 秘蔵品だが仕方が無い。他はつい先日呑み干してしまったばかりでまだ補給に行けてない。此処暫らくはバイトが忙しかったので。 封を切り、食器の少ない戸棚を漁って大き目のマグを引っ張り出す。その頃には、薬缶の4分の1程度しかいれなかった水は沸騰とまでは行かずともそこそこの熱湯にはなっていた。 目分量でマグに注ぎ、熱湯を足して混ぜ…砂糖を少しとスライスレモンの代わりに瓶入りのレモン果汁を1滴2滴落とした所でペタペタと歩み寄ってくる足音。 「あ、美味そう♪」 振り向けば、ほこほこと湯気なぞたててそうな様子でサンジが立っていた。 出しておいた着替え(因みに本人のだ、度々泊まりに来るのでエースの部屋にはサンジの私物が結構ある)をキッチリ着込み、案外と雑に髪を拭いながら。 熱い湯に浸かって落ち着いたのか、顔色も…機嫌も普段と変わらない程度に戻っていた。 まあ機嫌の方は、気分にムラのある奴の事なので、いつどう変化するか長い付き合いのエースにも完全には読めないのだが…。 「ほれ…」 完成品を、待ち構えてるサンジの手に押し付けて。自分用にはストレートでグラスに注ぐ。 「あ、コタツ出てる♪冬はやっぱコタツだよなぁ♪」 受け取ったサンジはマグを手にさっさと奥へ上がりこみ、6畳の部屋の大半を占め中央に居座るコタツに歓喜の声を上げた。 「相変〜らず狭っ。ってか散らかってんなぁ」 挙句、一番スペースに余裕のある場所に、当然のように陣取って。雑多にモノの溢れた室内を呆れた様子で指摘する。 其処此処に自分が持ち込んだまま放置中な物がある事は、綺麗に棚上げしているらしい。 「こんなんじゃ『彼女』連れて来れねぇだろ」 「必要ねぇから良いんだよ」 ヤケに嬉しげに、ニンマリ笑いながら言うサンジの声には揶揄が色濃く含まれてて。 あぁ確かに、『アイツ』ならそんな風に言えばムキになって言い返してくるだろうな…そう思いながら。エースがサラリと言い返して見せれば、不満そうに鼻を鳴らした。 ロロノア・ゾロ。 エースとサンジの共通の友人でもある後輩。 『どうしよう…むちゃくちゃムカツクのに、気になってしょうがねぇ』 そして…自他共に認める女尊男卑でフェミニストな女たらしのサンジが、そう言った一つ年下の青年。 「ま、兎に角飲め」 不満顔には気づかぬフリで、促せば案外と素直にマグを口に運ぶ。 先刻迄の騒がしさがウソのように、ふっと黙り込んで。両手で抱え込むよう持ったマグの中身を少しずつ。 適度な甘さと暖かさに安堵したのか、細く見える肩から力が抜けるのを横目で確認して、エースは自分も手にしたグラスを口に運んだ。 後はまあ…自主的に口を開くの待つしかない。 無駄口は良く叩く割に、肝心の事は中々言わないので。 聞く姿勢を示しつつ、放っておけば良い。 こう言う時、下手に突付かない事。 天邪鬼なサンジに、無闇に口を開かせようとしても、軽口か罵倒しか出て来ない。 かと言って、完全に放っておいても怒らせるだけ。 そこら辺の、タイミングの計り方が結構難しい。 熟知するには、それなりの年月と忍耐を要する。 その横顔を、エースはこっそりと見やった。 スッキリとした、綺麗なライン。サラサラと俯き加減な頬にかかる蜂蜜色の髪。 彼の造作は静止していると、途端に作り物じみた印象を纏う。 不意に、パタリと彼が上体を倒してコタツの天板に額を預けた。 マグを握った手は前方に突き出して。伸びをするのにも似た仕種。 「サンジ…?」 そっと、呼びかけると、弛緩しきったまま…首を捻ってエースを見上げる。 「聞かねぇの?」 上目遣いに…見上げて、呟く。 その表情に、エースはため息を零した。 無意識なのだろうけど…否、だからこそ余計に、タチが悪い。 『外』では傲慢にさえ見える傍若無人な態度で、皮肉っぽい笑みを容易くは崩さない癖に。 エースと二人でいる時…不意に彼は子供っぽい…甘えるような表情をみせる。 僅かに尖らせた唇だとか、睨む強さがナリを潜めた拗ねたような眼差しだとか…。 犯罪的だっての…。胸の内で呟いて、ペシリと軽く湿気を含んでいつもよりやや深みを帯びた蜂蜜色の小さな頭を叩く。 「言いたきゃ言うだろ?」 多分、またロロノアと喧嘩でもしたのだろう。そう推測しながら…。 彼等は、本当にあらゆる面で正反対で、顔を合わせると喧嘩ばかりしている。どちらも、エースとは普通に友人…まあ所謂『悪友』と言う方が妥当だが…として付き合えているのだけど。 その癖…懲りもせずにサンジは構いに行くし、ロロノアは仏頂面の癖に嬉しそうだ。と言うのが回りの見解で。 『犬も食わないってヤツよ』 そう評したのは、ナミだったか。 エースの…余り出来がイイとは言い難い、だからこそ可愛い…弟の『彼女』であるには勿体無い、才色兼備な彼女は、同時に他に類を見ない毒舌家でもある。 「なぁ…彼女作らねぇの?」 暫し押し黙っていたかと思ったら、また唐突に脈絡のない事を言い出した。 エースには男女問わず友人は多くいるが、特定の『恋人』はいない。 その事に、サンジが言及したのは初めてだったから驚いた。 先のように、整頓されてない部屋の様子なんかに託けて揶揄いじみた言葉を吐く事はあったけど。明確に疑問を向けられたのは間違いなく。 やや上目使い気味に見上げて…今一度同じ言葉を繰り返され、エースは我に返る。 「好きなコ、いねぇの?」 内心の動揺を押さえ込んで、見返せばそんな言葉が続けられて。 「居ない訳じゃないけどな…」 更なる直球に、つい…弾みで本心が零れ落ちれば、酒気を帯びて僅かに目元に赤みがさしたサンジが目を見開く。 次いで、拗ねてるのと甘えてるようなのが入り混じっていた表情が、クシャリ…っと歪む。 今にも『泣き出しそう』な…。 ソレは反則だ…意味もなく、エースはそんな事を思った。 そんなカオをされてしまったら…。 ムクッと上体を起こしたサンジが、エースが傍らに置いていたウィスキーの瓶に手を伸ばす。 「あっおいっ」 空になってた手元のマグになみなみと注ぐと、止める間もなく一気に煽って…咽た。 「あぁ…だから言わんこっちゃない。大丈夫か?」 慌てて、半ば以上空になったマグと随分と中身の減った瓶を取り上げ、咳き込み震える背を擦ってやる。 見かけの印象よりは遥かに頑強な、けれど服の布地と薄い皮膚を介して尚、背骨の感触が掌に伝わる背。その仄かな体温。 「大丈夫か?」 呼吸が落ち着いて来たのを見計らって…言いながら離れようとしたら。 「……だ」 不意に伸びた腕がエースの腕を捕らえ、俯いたまま…サンジが小さく、言った。 それは余りに小さな呟きで、殆ど聞き取れぬ程で。否…捉えた音が、余りにも予想外…ありえないモノにとても似ていて。 「なっ…。って…けど…えぇっ」 意表を突かれて、情けない程、しどろもどろに意味不明な音を吐き出せば、サンジが顔を上げた。 キュっと唇を引き結び、赤みを帯びた眦、涙目になった潤んだ瞳で。真っ直ぐエースを睨みつける。 「だってオマエ…ロロノアが」 それを見返しながら、ようやっと『言葉』を返せば、 「はぁっ!?なんで此処であのクソまりもの名前が出てくんだよっ」 サンジは眉を吊り上げ。ついでに声も荒げる。先の神妙な様子が嘘のように。 「冗談じゃねぇっあぁもうっイイよ、忘れろっ忘れちまえ畜生っ」 ヤケクソのように、そんな言葉が続けば、それの意味する事など…取り違えようもなくて…。 苛立たしげに、手を離して、ムッと口をヘの字に結ぶサンジの様子からも、それは明らかで。 ストンっと、何かがエースの中で落ち着いたような気がした。納得したと言うか…あるべき所に然るべき解釈が落ち着いたと言うか…。 「…冗談だろ?」 言いながら…手を伸ばして、そっぽを向いてしまったサンジの手に重ねる。 「忘れてたまるかって感じなんで…だから」 あぁもうちょっとマシな言葉が出て来ないかな?っと自分で自分に呆れながら。 「機嫌直してこっち向いてくれると嬉しいんだが?」 前途多難も予測しつつ、エースは言った。 |
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〜未来恵サマからのコメントv〜
『くるとん3世』の伊田くると様に捧ぐ。
遅ればせながら復活祝いですvv
バーニンクリスマス(ばいTMれぼれぼ)なエース兄♪
オチが二転三転して結局らぶ甘に落ち着くって辺りがなんとも…。〜伊田の絶叫〜
バンザーイ!!(絶叫)
うっ嬉しすぎですぅぅぅっ、未来サマ!。
パソが故障してくれたおかげで、こんなステキ小説いただけちゃいましたッッ。
でかしたパソっっ。
やったぁ両想いだーv。エース兄オメデトー!!。
サンジさんの言葉に、らしくなく動転しちゃうエース兄がカワイイですv。そしてラストのカッコよさ!!!。
未来サマの書かれるエース兄さん、なんでこんなカッコいーんでしょうv。
ホントにホントに、ありがとうございましたっvvv(幸)。
未来サマのサイトはコチラ『A Planet』ですv。サンジ総受のステキ作品がもりだくさんですー(><)