この腑抜けたツラを拝むのが最後にならないよう、


 どうかまた。こうして。
団子食って。茶飲んで。
外の道にたまに目をやって。暑いとか寒いとか、金がないとか家のガキがこんなで大変だっただとか。総悟がムカついて、近藤さんがまたフラれたとか。そんな。


 どうでもいい話をして。たまに笑って。ほんとはあまりしたくないけれど、つい始まってしまうケンカもして。


 そんな、
ふたりの時間があるよう、



 この腑抜けたツラを拝むのが最後にならないよう、



 俺は何かに祈りたいと思う。







その前の前の日に





 客がまばらの茶屋で、外にしつらえられた長椅子にふたり少し離れて並んで、俺達はいつものような時間を過ごしていた。

 俺の心情は、多少いつもとは違っていたけれど、それを知らない銀時は当たり前だがいつものようにだるそうな目をして、でも甘味にだけは嬉しげに食いついて。

 そんな様子もなんだかとても大事なものに思われて、俺はこっそり、たまにじっと見つめていた。

 ほとんど俺の方など顔を向けなかった銀時が(団子が食い終わったので)俺を見た。そして、口を閉じ、少し考えるような顔をし、一瞬地面に目を落とした。
 奴らしくないしぐさで、不審に思う。だっていつもどおりでないのは俺だけのはずだった。

 なんだか不安な思いがする。どうしたと問う前に、銀時は気を取り直したか、湯飲みの茶を一口飲んで、俺をまっすぐに見つめた。赤い色味の混じった目玉は、時々こうして強い光を放ち、普段と違いすぎるそれに、いつも息を呑む。

「多串くん」

 名を呼ばれた。いや、名じゃなかった。
「土方だコラ。おい、こぼれんぞ」
 持ったままで、意識がそれたんだろう、傾いた湯のみを持ってやり、ふたりの間に置いた。

「ありがと。な、お――――土方くん」

「あん?」
 今多串って言おうとしたよね、お前本気で土方より多串のが言いやすくなってない?。

「土方くん。銀さんね、君を思って忠告します。良薬口に苦しと思って聞いて下さいね」
 湯のみがなくなってカラになった手をきゅっとにぎって、改まった。

「なんだコラ。その先生みてーな口調。ハラたつ」

「沖田くんから聞いたんだけどね」

「総悟?。また会ってんのかよいつ会ってんだよ」

「今真選組は鬼兵隊撲滅月間らしいですね」

「無視かよ。――――まァな」

「・・・・・・・・・・・・・・」

「そんな交通安全月間みてーなのんきなモンでもねーけど。ま、ぼちぼちだな」

「こないだ拠点をひとつつぶしたそうですね」

「おう。俺がよ・・」

「君が真っ先に飛び出してったって聞きました。副長が真っ先につっこむとかバカですか」

「いいじゃねーか。何コレ説教?。お前俺のお母さん?」

「普段ならそれでもいいです。バカやってなさい。けど、鬼兵隊の息のかかった場所でそれは駄目」

「なんで」

「もし高杉がいたらどうすんの」

「何言ってやがる。やっこを捕まえに出向いてんだろうがよ。小賢しい野郎で、なかなかシッポつかめねぇけどな」

「・・・・・・・・・・・えーっと」

「?」

「銀さんね、お前のこと思って言ってやんだけど」

「口調が戻ってんぞ」

「ん。もういいや。お仕事熱心な君のことをね、ほんと思って言うんだけどね。
高杉晋助と、戦っちゃいけません」

「・・・・」
 なんで。

 と、反射的に浮かんだ疑問にそのまま放たれた答え。

「なぜなら君は勝てないからです」

「・・・・!!」

「君は冷静に見えてもサムライバカなとこがあるので、1対1でヤツと戦おうとかするでしょ?。それだと勝てません」

「デスマスやめろよ。
・・・・――――俺のが弱いってのかよ」

「弱くないけど。あれは別格ていうかね。沖田くんだって危ないよ。だからこれは沖田くんにも言ったんだけど」

「――――総悟はなんて」

「わかりました、って言ってくれたよ」

「マジかよ・・・・」

「ま、どうしてもってなったら、沖田くんに戦わせて、その間に囲んで一斉射撃するとか。沖田くんごとね。囲んで人海戦術で消耗を狙うのもいいかも。多大な犠牲が出ると思うけど」

「な、なに言ってやがんだ!!。んなことできるか!」

「うん」

「うんじゃねーよ!!」

「うん。なんでオススメできないんだよね。高杉だけじゃなくて、あいつの部下もなかなか手ごわいからさあ」

「・・・」
 確かに、幹部としてふたつ名の売れてる奴だけでなく、それ以外でも鬼兵隊は強兵ぞろいで有名だ。粛清にあった戦時とはメンバーも入れ替わっているとはいえ、桂派と違い戦闘に特化した武闘集団であるのは変わらない。

 銀時は、中でも有名な河上万斉と戦ったことがある。腹心として真っ先に名の上がる危険人物。
 当然ふたりの戦いは熾烈なものとなり、「銀時だから勝てた」、という勝負だったと聞いている。

 俺の思考を読んだようなタイミングで、銀時は優しい笑顔を浮かべた。ふだん俺でなく、子供たちに向けるような。

「うん。だからね、土方くん。俺を呼んで下さいよ」

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・銀時」

「そしたら全力を尽くしますんで」

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・。お前なら、勝てんのかよ」

「もちろん。って言いたいトコだけども・・・厳しいな」

「マジか」

「あいつは俺を殺す気でやるけど、俺はあいつを殺せないから、最後はその差で負けるかも。多分」

「・・・・・・・・・」

「でも俺も本気でやるから、刺し違えるとこまではやるから。だから、土方君は戦わないでね」

 それは、
俺のためか。

 お前のためか。

 高杉の野郎のためか。


 その甘い、愛しみにあふれた笑顔は誰に向けたものなのか。

 そんなにお前が腹のうちを見せるなんて初めてに近い。
その心は、誰に向かっている?。


「――――俺は、ちっとうぬぼれてたみてェだな。お前は俺を好きなんだと思ってた」

「好きでしょ。なんべん言ってなんべんエッチしたよ」

「エッチとか言うなキモい。でもお前、」

 高杉のことも、好きなんだろ。

 言葉にしなかったのに、銀時は今度は悲しそうに苦笑した。

「うん。ごめんな」

「・・・・・・・」


「だから、お前が戦いに行くときは、」

 俺も呼んで、と。それがお前の望みなのか。


 俺を守り、あいつを殺したいのか。救いたいのか。



「・・・・・・・・・」

 絶対ェ。呼ばねェ。


 うなずかない俺に、銀時はまた悲しそうに微笑んだ。






















 それは、高杉の潜伏先が判明し。
京へ赴く大規模な作戦の、二日前の出来事だった。









やったことなかったので「会話文のみ」にしたかったんだけど、難しい。

ガチンコで高杉VS銀さんがないので強さは適当ですが(←映画だとこれありそう!楽しみ!)
1番強いのはやっぱ白夜叉なのかな。
高杉>土方さんな気はする。

この文だと、高杉=銀時>沖田>土方になってます。

イダクルト
2010/04/22

モドル