ままごとといい男



 万事屋の主人・坂田銀時は今日も暇だった。



 ほんとうはヒマでいいわけがなく、家賃もたまる一方で、エンゲル係数だって よそ様のお宅とは比較にならない やばさなのだが。
 そんな切実さは どこ吹く風、銀時は今日も自宅兼 時折は事務所にてヒマを満喫していた。


 あまりにヒマなので昼食後 誘われるまま 神楽のままごとの相手をしてやることにした。
勝手に居座っている従業員の少女はいろんな意味で規格外れだが、銀時なりにたまにはこの子をかわいがりたいと思っているのである。




「男なんてもうウンザリ。私、もう仕事に生きるわ !」

 今回のままごとのシチュエーションは、
『酒場で ぐちるOLふたり』、
というものだった。


 もっと健全なテーマでよかろうとツッコミを入れる もうひとりの従業員は今日は実家に戻っていて不在だ (ちなみに どでかいペットは今昼寝中である)。


 居間でふたり向かい合わせに座り、お妙の差し入れてくれた せんべいをパクつきつつ ままごとに興じる。

「そして、あんなヤツ、見返してやるのよ!!。あたしを捨てたこと、後悔させてやる!!」
 なぜか流暢に標準語でぐちる神楽。
いつもはエセ中国人口調だが、実はキャラ作りでやってるんじゃないかと疑う一瞬である。

「そうねユッコ、負けないで。きっといい男がいるわよ」
 新聞に目をやりつつ、銀時は適当にあいづちをうった。パー子の時の経験のせいか、こちらも流暢な女性言葉だ。

「ええ!!。今度こそ いい男をつかまえてみせる !」
 神楽は拳をにぎる。

「そうね〜、収入あって、地位あって、学歴あって、身長も貯金も車も家も株もあって。逮捕歴がなくて保険も ちゃんと入ってて・・・」
 また適当にあいづちをうってみるパー子。もとい銀時。

 なんとなく世間から見ていい男、の条件を あげつらねてみたが、自分に当てはまる項目が少ないことには目をつぶることにする。


「・・・それがいい男アルか?」
 なぜか急に素に戻って、少女が銀時をみつめた。
よれた新聞紙ごしに、丸っこい形の子供らしい目が きょとんと自分を凝視している。



「・・・・・・・・・・・・・・あ〜・・・」
 銀時はちょっぴりしまったと思った。


 そんな片鱗は普段まったく感じさせないが、これでも神楽は多感な時期にさしかかる少女なのだ。

 間違った知識を教え込むのも楽しいが、保護者として やっぱりここはという所はちゃんとしてやりたい。って別に銀時は雇い主ではあっても保護者ではないんだが。

 とにかく、今のは子供相手には教育上よろしくない発言であったろう。訂正しなければ。

「いや。そーゆー地位とか学歴だとか・・・カタガキってのはな、まあオマケみたいなもんで・・・」

 お前マダオ知ってんだろ? あいつなんて元幕府高官だかんな。ありえねーだろ?。
と、とりあえず身近なダメ男を例にしてみる。

「まあカタガキよくてもダメダメな男も多いわけだよ」

「マダオはダメ男アル」
 神楽も大きく同意した。よし。


「で、マダオが仕事でコケてクビになったとたん別れるなんて言い出すツマてのは、結局そーゆーカタガキしか見てねんだな」

 だからオマケなのだ。カタガキに惚れるとそんな結末が待っている。



 そうじゃなくて。
カタガキなんかじゃなく、


「そゆんじゃなく、テメエが惚れた男が一番いい男だ。うん」

 なんとなく手を伸ばし、黙って話を聞いている少女の小さい頭をなでてやる。
自分と違ってコシがあり素直に伸びた髪の感触を銀時はわりあい気に入っていた。



「まあ、収入も資格も財産も、あってこしたこたねーけど」



「でも、好きなら」



「好きだって思ったら」



「テロリストでも、かまわねーよ」




 頭に浮かぶ顔。

 こんな話をしている時に、まっさきにその顔が浮かんだことに、銀時は内心苦笑する。






「銀ちゃんテロリスト好きアルか?」
 なでられるままの頭をちょっとかしげ、少女が聞いた。

 小さい頭も、女らしさなんかまるでない体つきも、犬みたいに無垢な目玉も、本当に子供だ。
 まだお前にはわかんねぇよな、と思うものの、いつものように ごまかす気にはなれなくて、

「ほかのやつにはナイショだぞ」

 小声で言ってやると、神楽はちょっと考えるような顔をしたあと、こくんとうなずいた。





 ―――― まぁ、まだお前には早い話だけど。

 いつかこの子供も、誰かを好きになって、自分のように、傷も増えていくんだろう。


  収入も地位も学歴も、身長も貯金も車も家も株もなにもなくても、好きになってしまう相手。


 そんな相手が、神楽にもできるんだろう。




「・・・・・・・・・・・・・・・・」
 眉間にシワが寄る。
いずれはくるだろう未来をちょっと想像しただけで、なんだかもやもやとした不快感。



 ―――― まいった。これでは完全に男親の思考回路じゃないだろうか。



 なんなの俺。あのつるっパゲと一緒かーーーーー?!!



 それはショックだ。あのつるっパゲこと神楽のオヤジの菌に知らないうちに感染してしまったのだろうか。なんたってオヤジ菌は感染力も高そうだし。え? じゃあ俺将来ハゲるの? そうなの?

「銀ちゃん?」

 新聞に頭をつっぷし懊悩していた銀時を不思議そうに見つめる神楽に気づく。
銀時の悩みも知らずに、お子様はムカつくほど能天気だ (男にとって髪はまさに人生の一大事なのだ)。


「・・・・・・・・・・・・・・定春のサンポ行って来い」
 低い声で命令すると、

「ケッ エラソーに指示すんなよボケ」

 憎まれ口を叩くものの ままごとはもう終わりと神楽はフットワーク軽く立ち上がった。いまだ あまりなつく感をみせない定春を怪力でひっぱり、事務所のドアを開けさっさと出て行く。

 と見えたが、ストッと一歩だけ後退して顔だけのぞかせると、


「銀ちゃんも」



「収入も資格も財産も、何もないネ」



「まぁでも、いい男アル」


 最後の言葉と同時に駆け出したんだろう、姿がふっとなくなった。







「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
 開けっ放しのドアを、虚をつかれポケーっと十秒じっくり見つめてしまった銀時は。





 まいった。
かわいくない ひと言がこんなに嬉しい自分は。




 やっぱり完全に男親になりつつある・・・・・オヤジ菌にやられた・・・・・・・・・





 ヒマな昼下がり、ちょっぴりショックな事実を発見してしまった。







おわり





万事屋の家族愛バンザイ。
銀さんはほかのことはサッパリしてるのに恋愛だけは引きずってそうなの希望。
イダクルト 06 6/18

※これ書いた頃はハツさんが出てなかったので。
ハツさんを悪く書いてしまっていてすみません。



モドル